妄想小説
キャバ嬢 サチ
二
あの日、松浪は幸江を指名にして延長を重ねに重ね、拒むことの出来ないサチの陰唇を散々弄んで蹂躙したのだった。しかし、そのせいで帰りの会計の段になって、自分の財布では心許ないことに漸く気づいたのだった。幸江は松浪が漸く腰を上げる段になって、席の前で恭しく頭を下げ、「次も是非、当店をよろしくお願い致します。」と、マニュアル通りの送り出しの言葉を発したのだったが、「次回も指名をお願いします。」という言葉はどうしても口にすることが出来なかった。会計の前までは、何とか松浪の後ろに従ったのだったが、会計の為に黒服が付いたところで、幸江は股間を抑えるように身を屈めながら女子トイレに駆け込んだのだった。
キャバ嬢のサチの姿が見えなくなったのを確認してから、松浪は内ポケットの財布の中から会社の接待で使うコーポレートカードを取り出した。
「これで頼む。あ、領収書は松浪様とだけ書いといてくれ。」
領収伝票の一番紙を受け取ると丁寧に折り畳んで財布の中にしまう。
(うまく処理すれば、何とかなるだろう。)
松浪には、自分個人で入ったキャバクラの会計処理をコーポレートカードで済ますことにいささかの悪気も感じてはいないのだが、会計監査で見咎められるリスクはないではなかった。
(なあに、交渉の難しい外人のクライアントを説得交渉するのに、荒業を使ったのだと言い張れば、誤魔化せる筈さ。)
そう思い込むことにしたのだった。
一方の幸江は個室の中で、便器の上に蹲っていた。松浪の指に蹂躙され続けた陰唇は、腫れ上がっているように痛かった。もともと濡れやすい質ではあったのだが、松浪のまさぐりは幸江の身体の反応などはおかまいなしの身勝手なものだった。それでなくてもキャバクラ内ではキャバ嬢へのお触り行為を許すのはご法度になっていて、他のホステス達や黒服などに見つからないよう平然としてなければならない。幸い、松浪は外側からは見えないように幸江の後ろ側から手をスカートの中にこじ入れていたので、ぱっと見ただけでは股間にまでお触り行為が及んでいるとは気づかれにくくしてはいた。しかし幸江のほうは松浪のまさぐりには何もないかのように平然としていなければならなかった。感じているどころではなかったのだ。その為に後半はただ松浪の性欲が収まってくるのを唯ひたすら待ちながら苦痛に耐えていただけだったのだ。
その日の幸江の売り上げはいつになく高いものになったのは間違いない筈だった。松浪は調子に乗って、何度も延長を繰り返したのだ。あの分なら、またやって来るのはほぼ間違いないと言えた。売り上げに繋がることは嬉しいが、会社を首にすると暗に脅しながら、したい放題の痴漢行為を仕掛けられるのはたまったものではない。幸江はそれに松浪のような脂ぎった中年の助平爺が一番嫌いだった。その松浪にまた触りまくられるのかと思うと背中がぞっとして虫酸が走る思いだった。
(何とかしなければ、とんでもないことになってしまう・・・。)
幸江は危機感を募らせていたが、どうすればいいのか一向にいい考えが浮かんで来ないでただ焦っているだけなのだった。
昨夜の思いもかけなかったいい出来事に、すっかり気を良くした松浪は、自分の優位をより確実なものにする策を考え始めていた。松浪にとっては、会社の中の何処かで見た気がする程度にしかサチと言っていたキャバ嬢の本当の姿を知らなかったのだ。しかし、逆にサチの松浪の顔を見た時の狼狽ぶりは、サチ自身が自分の会社の人間に見つかったということを表情ではっきりと表してしまっていた。
あの時、松浪が「会社従業員規則」という言葉を咄嗟に使った途端に、触ろうとする自分に対して無抵抗になったのが手に取るように松浪にも判った。それで、これでもか、これでもかと責めたてたのだった。しかし、どんなに陵辱しまくっても、幸江は無抵抗でされるがままになっていた。こんな優位なポジションを今後も利用し続けない手はないと松浪は考えたのだった。何としてもサチの職場を見つけ出して、正体をしっかり掴んでおかねばならないと松浪は思い返していた。
「哲太くう~ん。蛍光灯、切れかかってたのって、ここだよねえっ・・・。」
甘ったるい語り口調で設計室の杉山哲太の背後から声を掛けたのは、北条幸江だった。頭に設計男子が作業中に被ることになっている作業帽を斜に被っているのは、幸江をお茶目にみせかけていた。総務から貰ってきた1m半ほどの長さの事務所用40wの蛍光灯を肩に抱え、もう片方の手には小型の脚立を抱えている。
「ああ、北条さん。こっちです。僕、やりますから。」
北条幸江から声を掛けられた杉山哲太は、新人社員らしく、てきぱきと答えると、幸江から蛍光灯を受け取ろうと手を伸ばす。
「いいのよぉ、新人君。いいから私にやらせてっ。こういうの、一回やってみたかったんだぁ。」
あくまでも無邪気に天衣無縫を装って明るく答える幸江だった。
手にした蛍光灯を一旦、哲太に渡すと、持って来た小型の脚立を机のすぐ傍に置き、腰を屈めて、ハイヒールサンダルのホックをパチン、パチンと手際よく外したかと思うや、脚立を台にしてさっと机の上に裸足で駆け上がる。
幸江は普段から、制服のスカートを自分で勝手に詰めて、かなり短くしている。裾の方も詰めてタイトにしているので、スカートの奥は覗きにくくはなっているが、机の上に立ち、男性達の目線の先に裸足の腿が見える位置になるとかなり刺激的な眺めとなる。それを幸江は十分承知で、わざと机の上に駆け上がったのだ。
「さ、哲太くん。その蛍光灯を渡して頂戴っ。」
幸江は相変わらず明るく眼下の新人男性社員に呼びかける。
「あ、は、はいっ。ど、どうぞっ・・・。」
哲太が蛍光灯を渡そうと近寄って手を伸ばしながら、幸江の太腿を真正面に見て、ごくんと喉を鳴らしたのを、幸江は見逃さなかった。
一旦受け取った蛍光灯を、幸江はくるりと踵を返して、脚をぴんと伸ばしたまま足元の机の上に置く。哲太にお尻を向けていて、腰を屈めると、スカートの裾が少し上がり、太腿がきわきわまで露わになって、覗いている部分が付根まで達しそうになる。すぐに幸江が蛍光灯を置いて、向き直ったので、哲太は覗き上げていた視線を慌ててそらす。
「ええっと、こうやって回して外すのよね。」
次に幸江は両手を挙げて古い蛍光灯を外そうとする。幸江は決して背が高いほうではない。それを誰よりも高いヒールの靴で誤魔化しているのだ。だから、ハイヒールを脱いで裸足で机に乗れば、易々と天井の蛍光灯まで手が届くという訳にはゆかない。両手をまっすぐに真上に挙げて、更に爪先立ちになって背を伸ばして蛍光灯へ手を伸ばせば、自然とスカートの裾はずり上がってしまう。
「あ、そう、そっち方向に・・・。いや、逆。・・・。そう、そう。」
哲太ははらはらしながら、幸江のほうを見上げながら指示をするが、視線は幸江の手元とスカートの裾を行ったり来たりしている。
「あっ、外れたぁ。じゃ、これ。受け取ってね。あっ、きゃっ。怖いっ・・・。」
外した古い蛍光灯を机の下の哲太に手渡そうとして振り向きながらバランスを崩し、幸江は哲太のほうへ倒れこもうとする。両手に蛍光灯を抱えている幸江のどこを支えていいか判らず、咄嗟に幸江の腿を掴んでしまった哲太だった。生温かく柔らかいその感触に、哲太の心臓がどきんと高鳴る。
「あ、危ないよ。代わろうか・・・。」
そう言ってみた哲太の声は思いもかけず、擦れかけていた。
哲太に腿を支えられて、何とかバランスを取り直した幸江は、何とか机の上に踏みとどまって、漸く古い蛍光灯を哲太に差し出す。
「ごめん、もう大丈夫。慌てて吃驚しちゃった。もう大丈夫っ。」
哲太が自分の太腿から手を放して蛍光灯を受け取るのを、何事も無かったかのように、ちょっとおどけてみせて、新しい蛍光灯を取るのに、再び脚をぴんと伸ばしたまま身を屈める。哲太の目が再び、幸江のお尻をかろうじて蔽っているスカートの裾に釘付けになる。
「今度はちゃんと失敗しないように取り付けて見せるわ。ほらっ・・・、ねっ。」
蛍光灯を首尾よく取り付けると、哲太のほうにウィンクしてみせる幸江だった。
「きゃっ、降りるの結構怖いっ。お願い、手、貸してっ。」
机に上がる時は全く怖がる素振りを見せなかったのに、降りる段になって怖がって哲太に手を取って貰おうとする幸江のことを、哲太も特に不自然には思わなかったようだった。
幸江は哲太が伸ばした両手にしっかりしがみついてきて、体重を掛けるようにして脚立に脚をかけ、最後は哲太のほうに身を投げるかのように飛び降りた。
「どう、上手かったでしょっ。誉めてあげたいわよねっ。」
「ああ・・・、そう、そうだね。」
無邪気にはしゃいでいる幸江に、哲太はどぎまぎしながら、どう言っていいのか判らず、曖昧な返事をしておいた。
「えーっと、私のサンダルっ・・・。」
机の横に転がっていたサンダルを拾おうと、幸江は床にしゃがむようにして手を伸ばしている。哲太のすぐ前で哲太のほうに向きながらしゃがんでいるので、スカートの奥が真上から丸見えになる。哲太はそれに気づかない振りをしながらも、視線は裾の奥をしっかり覗き込んでいた。
(やっぱり、ここだったのか・・・。)
若い男子社員の前で、超ミニの丈のスカートで嬌態を演じてみせているサチの姿を見つけ、事務所の出入り口のところから二人の様子を見守っていた松浪は、ほくそ笑みながら心の中で呟いていた。
北条幸江が脚立を抱えてエレベータに乗り込むのを、柱の陰で隠れて見張っていた松浪は、扉が閉まろうとする瞬間にさっと庫内に飛び込んだ。松浪の顔を見上げた幸江は、咄嗟に顔を蒼褪めさせる。
「おう、こんなところで出遭うとはな。元気だったかい。」
そう言いながら、後ろでエレベータの扉が閉まるのを確認すると、幸江の胸に手を伸ばして、制服の胸元に付けてあるネームプレートを引き寄せる。
「北条・・・、幸江かあ。なんだ、そのまんまじゃねえか。」
松浪はネームプレートを指でつまみあげながらも、中指の甲を押し立てて、制服の下の乳房の感触を確かめている。幸江は声も挙げられずに、黙って唇を噛んで俯いてしまっていた。
松浪は突然、幸江の胸のネームプレートを放すと、今度はさっと手を下に伸ばして、スカートの上から幸江の股間をむんずとつかんだ。
「あ、嫌っ・・・。」
いきなり股間をつかまれた幸江は慌てて逃げようとするが、狭いエレベータ庫内はすぐ後ろが壁で、逃げ場はない。しかも、片手に脚立を抱え、もう片方の手は古い蛍光灯を握っていて、両手が塞がっているので、手で払いのけることも出来ないのだった。
松浪は体重を掛けるように、幸江のほうへ寄り掛かってきながら、ゆっくりとスカートごと、幸江の股間を揉みしだく。
「こ、困ります。こんなところで・・・。」
「何なんだ、さっきの若僧は。」
「な、何のことです・・・。」
「とぼけんじゃない。さっきパンツちらつかせて、気を惹こうとしてただろぅ。」
幸江はずっと松浪に見張られていたことを知って、胸をどきりとさせる。
「そ、そんなんじゃ・・・。あ、貴方には関係ありません。」
「ふん、性懲りも無く若い男を垂らしこもうって魂胆か。まったく助平なここだぜ。」
そう言うと、幸江の陰部をまさぐる指先に松浪は更に力を篭める。
「あっ、うう・・・。嫌っ。」
その時、ガタンと音がしてエレベータが一階に到着する。松浪は扉が開く前にさっと幸江から身を引き離す。同時に扉が開いて、エレベータの外に待っていた数人の男達が目の前に現れる。幸江は脚をすぼめて屈みぎみにしていたのを、慌てて何事もなかったかのように身を整える。その前を悠然と松浪が出てゆく。その後に従うようにして出るしかない幸江だった。外で待っていた数人は、二人が出てしまうと、どやどやと庫内へ雪崩れ込んでゆく。すうっとエレベータの扉が閉まってしまうと、再び松浪は幸江のほうを振り向く。エレベータホールに人影はなかったが、いつ誰がロビーの扉や階段のほうからやってきてもおかしくない。
「じゃ、また寄らして貰うからな。サッチー。」
嫌らしそうな目つきでウィンクをしてみせると、幸江を独り残して松浪はホールの外へ向かう。その背中を口惜しそうに見送る幸江だった。
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