妄想小説
キャバ嬢 サチ
十
「高木君なの。そこに居るの。」
書庫室の扉を開けて顔を覗かせたマリコは薄暗い室内の奥に向かってそっと声を掛ける。入り口に近いキャビネットの陰に隠れている正雄は、名前を呼ばれてついうっかり返事をしそうになるのをかろうじて堪えた。
マリコが奥を窺いながらゆっくりと室内に入ってくる。書庫室は縦に細長いので、入り口からは奥のほうはよく見えないのだ。マリコが半分くらい書庫室の中を進んでいった時、正雄はそっと音を立てないように入り口のドアの錠を内側から下ろす。手にしたロープの束を背中に隠すように回すと、ゆっくりマリコのほうへ近づいてゆく。
「高木君、居ないの。こんなところへ呼び出して、いったいどういうつもり・・・。私の秘密ってどういうこと。何を知っているっていうの。」
マリコはまだ正雄が書庫室の奥に居ると思ってそちらに向かって押し殺したような声で呼びかけている。
「君が嘘つきだっていうことだよ。」
突然背後から声を掛けられて、マリコはびくっと身体を震わせて振り返る。
「そっちに居たの、高木・・さん。ど、どういうこと。」
正雄はゆっくりマリコに近づく。マリコは思わず後ずさりをするが、それでも正雄が近づいてくるので、とうとう奥の壁際まで追い詰められてしまう。
「こんな・・・、こんなところで、何の話があるっているの。」
正雄は背中のロープをぎゅっと握り締める。
「罰さ。罰を受けるんだ。嘘をついた罰をね。嘘つきは罰せられないとね。」
そう言うと、さっと手を伸ばしてマリコの手首を掴む。突然のことにきゃっと叫んで振り払おうとするマリコだったが、正雄は力を篭めて握り締めているので簡単には振り払えない。正雄は更に手首に力を篭めて、今度はマリコの腕を捩り上げる。
「痛っ、いたた・・・。」
マリコがもがいても男の力に敵う筈もなかった。正雄は捻り上げたマリコの手を背中側で上に持ち上げる。マリコは痛みから逃れるのに上半身を前に倒すしかなかった。不安定な格好になったところで、押し倒すように正雄が体重を掛けるので、マリコは膝をついて床に崩れこむ。その上から捻じ曲げた腕を取ったまま、正雄が馬乗りになる。マリコの手首にロープが巻きつけられたのは一瞬の出来事だった。二重、三重と巻かれた上できっちりと結わけつけられると、マリコはもう一方の自由なほうの手もつかまれる。
(縛られるのだわ)
そうマリコが思った時にはすでにマリコの両手首は背中で交差させられ、ぐるぐるとロープが巻きつけられていた。
「どうしてっ。どうしてこんなことをするの・・・。」
「ふふふ。今にわかるさ。」
マリコの両手をしっかり縛り上げてしまうとその縄尻を掴んで正雄は立ち上がった。
「さ、立つんだ、マリコ。」
正雄はマリコを縛っている縄を引っ張って、起き上がらせる。無理やり立たされようとするので、マリコは膝を折って何とか立ち上がろうとする。その拍子にタイトな制服のスカートの裾が割れて白い腿が露わになる。しかしマリコにはそんなことにかまっていられる余裕はなかった。正雄はマリコを立ち上がらせてから手にしたロープを鋼鉄製の書棚の柱に括り付ける。マリコは書棚を背にして縛り付けられた格好になる。もがいて何とかロープの呪縛から逃れようとするが、只でさえ重たい鋼鉄製の書棚は収められている書籍の重さもあって、びくともしない。マリコはどうにも逃れられないことが判ると顔を上げて正雄のほうを睨み付けた。
「私が何の嘘をついたっていうの。」
「これさ。」
そう言うと、正雄はいきなり両方の手で、マリコの豊かな胸元を制服の上から鷲掴みにする。
「きゃっ。や、やめて・・・。」
「随分りっぱなおっぱいだな。やわらかいし・・・。でも、こんなに摘まれているのに痛くはないんだな。」
「何するのよ。放して。」
「痛くはないよな。だって分厚いパッドなんだものな、貧乳お嬢さん。」
そう詰ってから、マリコの制服のベストの下のシャツブラウスのボタンを外し始める。
マリコは正雄はしようとしていることを悟ってはっと蒼くなる。
「や、やめて・・・。」
しかしマリコの請いもむなしく胸元が大きく肌蹴られてしまうと、正雄は襟元にいきなり手を入れてきた。
「ほらっ。」
正雄がマリコのブラジャーの下から強引に引っ張りだしたのは、肌色をした分厚いウレタン製の胸当てパッドだった。マリコの胸元から二つともパッドを奪ってしまうと、その内側に指をあててみる。まだ生温かい感触が残っているその不思議なものは死んだばかりの軟体動物のようでもあった。
「じゃあ、本物はどれくらいなのか調べさせて貰うよ。」
正雄がバッドを床に置いて、マリコの胸元に手を伸ばそうとするのをみて、マリコは身を捩って逃れようとする。が手首に縄がしっかり食い込んでいてどうにもならないのだった。正雄の手がぶらんとマリコの胸のまわりにぶら下がっているブラジャーに触れる。
「これじゃあ最早サイズが合わないから、してても意味無いよね。」
そう言うと、肌蹴させた襟元から思いっきり手を突っ込んでマリコの背中にまで手を伸ばし、ブラジャーのホックを外してしまい肩ストラップもカップから外してしまう。マリコはブラジャーが張りを失って、だらしなく乳房の下に垂れてしまうのを感触で悟った。悔しさと情けなさで唇を噛んでうなだれてしまうマリコだったが、いきなり正雄の両手が制服の上からマリコの生身の乳房を掴んできたので慌てて逃れようとする。が、正雄の手の平はしっかりマリコの乳房を包み込んで放さなかった。
「へえ、貧乳っていっても、一応は膨らんではいるんだ。」
正雄は乳房を包み込んだ掌をぐるぐる廻すようにして乳房を揉みしだいて弄ぶ。
「お願い、やめてっ。」
マリコは溜まった涙が目尻から垂れるのを感じ取っていた。
キスをしようと思えばすぐにでも唇を奪えるくらいに顔と顔を近づけていた正雄は、マリコの睫毛に光る滴をみて、ほくそえむ。
一旦マリコの胸元を掴んだ手を開いた正雄は、その両手を脇のほうから下へおろしてゆく。正雄は大事なものをそっと撫でるかのように人差し指と中指を揃えて立てて、親指の先との間で挟むようにしながら、腰のくびれの部分をさすり、更にその下の腰骨の上に両側から手を当てる。腰骨をぐりぐりとゆっくり撫でるようにまさぐりながら、マリコの耳元に囁きかける。
「じゃ、今度はこっちのほうだよ。こっちを調べてあげるから。今、生理なんだろ。ナプキンを当てているよね。」
正雄の非情な言葉に、マリコは身体を強張らせた。
「い、嫌っ。」
そう言いながらマリコは強く頭を振る。
「また嘘吐くんだね。」
正雄は右手だけ、腰骨の上から外すと拳を握って、中指の甲を少し浮かして、マリコの脚の付け根に当たる部分にその先をスカートの上から押し当てる。大事な部分に手を当てられてマリコは身体をビクっと震わせる。その部分に何かごわっとした感触を得て、正雄は思わずほくそえむ。
「さ、今度も嘘だったら、もっと酷い罰を与えるからね。さ、ショーツの下に何があるか調べてみよう。」
そういうと今度は恥丘の上に押し当てた手はそのままにして、左手のほうを腰骨からゆっくり太腿のほうへ滑らせてゆき、その場所で手の平を開いたまま、じわりじわりとスカートの裾をたくし上げてゆく。正雄の指がスカートの裾の部分を捉えると、内側へ指を滑り込ませ、そのままゆっくりと腰骨のほうへ引き上げてしまう。正雄の右の手の甲が押し当てられた部分も布地が引き剥がされてしまい、遮るものはストッキングとショーツだけになる。正雄が手の甲をのの字の形に動かしてまさぐると、ショーツの下で何かがガサゴソと音を立てる。
「さ、パンツの下のものを見させて貰うよ。どれだけ汚しているかをね。」
正雄は再び両手を腰骨の位置に持ってくると、ストッキングとショーツの縁に親指を滑り込ませ、両側からゆっくり下ろし始めた。
「きゃあああ、や、やめてぇ。お願いっ。」
正雄はマリコの前にしゃがみこむ。顔を脱がしていくマリコの下半身にくっつかんばかりに近づける。
「そおら、見えてきたぞ。ほれ・・・・。ああ・・・ああああ・・・・。」
正雄は左手の手の平に生温かいものを感じた。ペニスはびんびんに硬直している。が、それが次第に萎えてゆく。ペニスの先が柔らかくなってゆくと同時に、ねちゃねちゃした嫌な感触が股間に広がってゆく。
はっと我に返ると、正雄はブリーフを穿いたまま左手でペニスを掴んでいるのに気づいた。右手にはしっかりと何かを掴んでいる。薄めを開けてそれを見ると、会社の女子トイレから盗んできた、マリコの愛用するナプキンがしっかり握られているのだった。
(ああ、また夢の中でやってしまった。)
精液でべとべとになった下着の嫌な感触とともに、言いようの無い罪悪感のようなものが正雄の脳裏に広がっていくのだった。
正雄は汚してしまったブリーフを脱いで、ティッシュでしっかり股間を拭ってから下半身に何もつけないまましばらくぼおっとしてしまっていた。ペニスはもうすっかり萎えて縮こまってぶらさがっている。放心した正雄の視線は机の上に広げられたナプキンに注がれていた。正雄は、夢から醒めたのは汚れたナプキンの内側を覗こうとしてそこから先が想像を越えた世界であったせいだと判っていた。素面になった今も、その新品のまだ綺麗なナプキンの白い面を見ながら、それが汚れている様がどうにも想像してみることが出来ないのだった。さすがに正雄でも女性の生理の時に鮮血が流れるのだとは聞いて知っていた。が、血糊のついた包帯の様子と同じなのだろうか。正雄は松浪に連れられて行ったキャバクラでサチにお詫びだからと言って渡された下着に付いていた沁みも思い返していた。脱いだばかりらしかったそれの内側は薄く黄色味を帯びたもので湿っていた。今ではもうすっかり乾いてしまっていて、沁みも薄くなってしまっている。しかし、貰ったその日には臭いもしっかり残っていて、淫靡なものだったことが頭にこびり付いている。
(ああ、何とかしてマリコ様の汚した生のナプキンを一度でも眺められないだろうか。)
そんなことが正雄の頭の中をぐるぐる何度も巡っているのだった。
会社の女子トイレに忍び込んで、マリコのものらしい生理用ナプキンを盗み出してきた夜、自分の部屋で正雄はそれを開いて実物を初めてつぶさに見たのだった。それを当てているマリコの様子を想像してみる。外側に両面テープが貼ってあって、それでショーツに貼り付けて使うのだというのはすぐに判った。正雄は自分の股間にそれを当ててみたい衝動に駆られたのだが、たったひとつしかない大事な戦利品なので、おいそれと汚す訳にはゆかない。今度また忍び込んで更に失敬することも考えたが、幾つも無いのでさすがにあまり頻繁にやると気づかれる惧れがあると思った。汚さないように気をつけながら指の先でその感触を確かめ、それから布団の上にごろんとなって、マリコがそれを装着していろんな場所に居る様を想像しているうちにいつしか寝込んでしまったのだった。
正雄が見た夢は強烈だったが、肝心なところで先へ進めず目覚めてしまった。マリコの生理用品を手に入れてからというもの、正雄は居てもたってもいられない。
(そうだ。サチに聞いてみよう。)
ふと、思いついた正雄だったが、机の上の財布に手を伸ばして、中身を覗いてみる。
1万円札が数枚残っているだけだ。もう銀行の残高もそんなにないことは前から判っている。このところ、何度か独りでサチの居るキャバクラへ行ったのが効いていた。
(あと、もう一回だけ。もう一度だけにしよう。)
心許ない財布の中のお札を握り締めて、正雄は決心を固めた。
「あーら、マサオちゃんじゃないの。アタシを指名してくれて、あ、り、が、と。」
幸江は精一杯の嬌態を作って正雄の身体に触れるようにわざと近くに腰を下ろし、正雄を抱くように肩に手を廻す。今日も飛びっきり短いボディコンシャスなワンピースで、座るとさらに裾が上がる。見えそうになる露わな腿の付け根のところにさっとハンカチを落とし、正雄の視線から防ぐのはキャバ嬢としての常套手段だった。
その夜の正雄は、しきりにサチにも酒を勧める。高いブランデーなので普段はあまりキャバ嬢にふるまったりしないのだが、その日は下心があった。酔わせて警戒心を解こうと考えたのだ。キャバ嬢のサチのほうも普段は客が進める酒は極力飲まないようにしている。大体は飲んだ振りをするか、気づかれないようにソファの下に隠したバケツの中に空けるようにしている。が、その夜のサチは勧められるまま積極的にグラスを飲み干した。その月の営業成績が芳しくないので、何としても正雄に新たなボトルを入れさせようとする魂胆があったのだ。
サチの目の下に薄く赤みが差してきて、酔いが廻ってきたことを見て取った正雄はいよいよ切り出すことにする。
「あ、あ、あ、あの、あの、あのさあ・・・。」
「なあにぃ、マサオチャーン。」
甘えてしだれかかるようなサチに、正雄は意を決して選んだ言葉を口にした。
「サチは今、その、生理・・・じゃない?」
「ええっ、嫌だあ。そんなこと訊いてぇ。何で、そんなこと、いきなり訊くのよぉ。」
口にした正雄の方も恥ずかしくなって顔を赤らめてサチのほうから顔を背ける。
「や、や、や、や、あ、あの、あのさ・・・。じ、じ、実は、この間さ、仲間と呑みに行った時にあまりに何も知らないってからかわれちゃってさあ。あ、その仲間って男友達だけどさ。そ、そ、その、せ、せ、生理のことについてさ。ぼ、ぼ、ボクってさあ、独りっ子でさあ。姉も妹も居ないし、そ、そ、そういうこと、疎くってさあ。な、な、な、ナプキンっていうの?あれも見たことないしさ。恥ずかしくて訊けないしさ。普通の人には。」
「あーら、アタシは普通の人じゃないって?」
(ふん、この変態野郎。)
サチは心の中で憤慨したが、それを表情に出さないように商業スマイルを取り繕う。
「いや、さ、そのさ。さ、さ、さ、サチさんは何でもいろいろ教えてくれる、ぼ、ぼ、ぼ、ボクにとってはさ、先生みたいなものだから。」
正雄はマリコのパソコンから秘密を引き出すのにいろいろ知識を授かったことを思い出しながら言った。
「あ、そう。アタシに習うのは高いわよ。そうだ、まず手始めに新しいボトル入れてっ。」
すかさず切り込んだ幸江だった。正雄は自分の通帳の残高表示を思い出しながらも、うんと頷くのだった。
「何を訊こうっていうの、生理のことなんて。」
「あのさあ、せ、せ、せ、生理って、つ、つ、月一回来るってほんと。」
「あんた、そんなことも知らないの。それじゃ、馬鹿にされる訳よね。ほんとよ。人に依って違うけど、27日とか28日とかそういう周期ね。あ、アタシは27日ぐらいで比較的早いほうかしら。」
「せ、せ、せ、生理って、生理ってさあ、判るもんなの。あ、傍で見ててだけど。」
「何で?普通にしてたら、判らないでしょ。本人は勿論判ってるけど。生理痛とかで悩んでいる人も今はほんの僅かじゃないの。それに薬もあるし。」
「と、と、と、友達がさ、言うんだよ。判るんだって。あいつは今生理だとか・・・。」
「んで、何で判るんだって?そのダチは。」
「そ、そ、そ、それがさ。ぼ、ぼ、ぼ、ボクもそれを訊いたんだよ。何で判るのって。そ、そ、そ、そしたらさ、笑われちゃってさ。そ、そ、そんな事も知らないのかってさ。・・・・。だから、そっと教えて欲しいんだよ。その秘密・・・。」
サチはふうんと考える。この正雄が男友達にもからかわれているっていう姿は、いかにもと想像出来る。
「に、に、においとか、かな。」
サチは正雄の思いがけない言葉に眉間に皺を寄せて訝しげに流し目を送る。
「アンタ、変態っぽいわね。そりゃあ、近くによって嗅いだら少しは臭うかもね。あ、アンタ、アタシのこと、臭い、嗅いだりしてないわよね。」
「や、や、や、や。そんな事は・・・。」
「多い日はずっと着けてると臭うから取り替えるんじゃないの。臭い出す前に。」
「え、替えるの?ナプキンって。」
「当たり前でしょ。衛生用品っていうぐらいなんだから。そりゃ、どのくらいでって人に依って違うでしょうけれど。会社に居る時だって、何度も替える人もいるってよ。あ、アタシはどうかって、教えないけどぉ。」
「か、か、か、会社でえ・・・。だ、だ、だ、だって、その後、どうするの。その汚れた、な、な、な、ナプキンと、と、とか・・・。」
「ほんと、ばっかねえ。アンタって。ほんとに何も知らないのね。トイレに必ず汚物入れってあるじゃない。あ、男子用には無いか。」
そう言われて、正雄は初めて気が付いたのだった。自宅のトイレにも正体不明の汚物入れなるものがあったことを。それは母親が使っていたものだったのだろう。正雄は会社の女子トイレに忍び込んだ時に、個室の中までは見なかったことを思い出した。あの時、よく見ておくのだった。あの時は慌てて飛び出してしまったのだった。
(そうか、それでマリコ様も自分のロッカーの抽斗にスペアを入れていたんだ。ということは、マリコ様も会社で付け替えているんだ・・・・。)
考え込んでいる正雄の顔を幸江は隣から不思議な物を見るかのように覗き込む。
「アンタ、そんなに真剣に何、考えてんのよお。」
「あ、ねえ、そ、そ、そ、それでさ。な、な、な、ナプキンってかぶれたりするの。」
「ま、嫌だあ。そんなことまで言わせるの。じゃ、ちょっと私も訊くわね。アンタのちんぽ、皮剥けてる。皮、剥けたの何時。」
「え、え、え、そ、そ、そんなの、言えないよぉ。」
「じゃ、アタシももう教えないっと。ほら、新しいボトル、来たわよ。じゃ、なんかつまみも取ろうか。フルーツ盛り合わせとかさ。」
正雄は次々に金を使われそうなので、(ちょっとトイレ)といって慌てて席を立ってきた。トイレに入って用を足しながらサチから聞いた言葉を反芻していた。
(そうかあ。会社でも替えてるのかあ。よおし、何かいい手があるかもしれないぞ。)
思わずほくそえむ正雄だった。
次の日から正雄は頻繁に残業で夜遅くまで居残るようになった。普段から仕事をこなすのはのろいほうだった正雄なので、仕事には事欠かない。上司も漸く腰を入れて仕事に精出すようになったのかと、安心している位だった。しかしそれがまさか仕事以外の目論見の為だとは事務所じゅうの誰もが思いもしなかった。
正雄は自分以外の誰もが帰ってしまう10時過ぎまではどんどん明かりが消えて薄暗くなってゆく事務所に独りで残っていた。その頃には正雄の居る事務所だけではなく、建屋じゅうが人っ子ひとりいない状態になっている。それをしっかり確認するように階段の踊り場まで出て様子を覗ってから、いよいよ行動に出るのだ。
正雄は指紋がつかないように黒い革の手袋まで用意していた。その手袋を嵌めた手で、上から二番目の抽斗のマリコの持ち物をチェックする。
(ひとつ、ふたつ、みっつ・・・。)
正雄の顔がにやっとほくそ笑む。前の日には確かに9個有った筈のものがひとつ減っている。抽斗をそっと元に戻すと、くるりと踵を返す。今度のお目当ては便器のある個室の中の汚物入れだ。汚物入れの中は、もう何度もチェックした。何度かその中に丸めた塊が入っているのを見たことがあったが、マリコのものではないと思うと、汚らしくて触ってみることも出来なかった。しかし、その日はマリコのものが入っているのに間違いないと正雄は確信していた。その為に、毎晩残業して独りになるまで残っては、夜な夜な女子トイレに忍び込んでマリコの持ち物をチェックしていたのだ。
正雄は汚物入れの中に手を伸ばす。指で慎重に摘み上げる。丸め込まれてはいるが、両脇のギャザーの部分に薄い緑のラインが入っているのが、マリコが特に選んで使っているブランドの物であることを示していた。すぐに広げてみたい衝動をなんとか抑えて、ズボンのポケットからビニル袋を取り出すとそおっとその中に手にした獲物を落し入れ、口の部分を厳重に絞って結わえ付ける。匂いさえも失いたくなかったのだ。
アパートに戻った正雄は逸る心を抑えながら、まず家の扉に内側からしっかり施錠をし、窓のロックも全部確認してから、いよいよ机の上のものに向かう。自分が締めたビニル袋の結び目がなかなか解けないのは、逸る気持ちで焦ってしまうからだった。漸く結び目が緩み、袋の口が開く。震える指先で中の物を慎重に取り出すと、丸められたその物をゆっくり開いていった。
ごくりと喉が鳴る。すでに股間のものはズボンの中でびんびんに膨れ上がっていた。
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