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美剣士、凛



その18


 弥太郎はいったい何なのか訳もわからず、目を白黒させていた。
そんな弥太郎に凛が聞かせたのは、懇意にしている尼僧院の住職、
比丘尼から聞いたこんな話であった。

 尼僧、比丘尼は元々は、凛等が仕える前島藩当主の愛娘、咲姫の
乳母をしていた。咲姫が初潮を迎えた矢先の頃、上様より腰元とし
て大奥へ上がるという話が浮上した。上様からのご下賜とあって、
断ることも出来ず、江戸城へあがることとなり、乳母であった比丘
尼も一緒に参内することとなった。姫には許婚ではないが、相思相
愛の仲の若い武者が居た。そんなこともあって、泣く泣く別れて姫
は参内することになり、武者は出家して仏門に入ってしまう。

 時の将軍公はしかしながら、男色家であるとの専らの噂があった。
大奥には多くの腰元を控えさせていたが、なかなか世継ぎには恵ま
れていなかったのはそういう経緯があるとされていた。大奥にて上
様の寵愛を待ちわびる腰元たちは、なかなかお呼びが掛らない。男
日照りが続く腰元の女官の中には、密かに出入りする僧侶と夜な夜
な関係を持つものが出てきてしまっていた。

 そんな中、とうとう夜中に密かに僧侶とまぐわいを持った腰元が
身篭ってしまう。その事に不審を抱いた大奥の春日局は、身篭った
姫の胤が将軍のものでないことをしり、姫と僧侶を打ち首にしてし
まう。

 その事件を契機に、大奥での姫と僧侶等の密かなまぐわいはなり
を顰めたかに見えたが、所詮男と女の欲情は防ぎきれるものではな
く、男日照りに我慢が出来なくなった姫君等は、胤を宿さないよう
に、僧侶等に尻の穴を犯させるようになったという。

 ところが、暫くして、僧侶等がつぎつぎと病に伏せるようになる。
ふぐりが腫れるというおのこのみが罹患する病であった。もともと、
尻の穴は不浄の穴と呼ばれるように、肛門内には体内の毒素が排出
される場所である。そこへ生身の陰茎を挿し込むのだから、黴菌に
感染するのは、詮無いことであった。ふぐりが腫れる病とは、肛門
接合の際に、陰茎が黴菌感染し、膀胱炎を発症して起こる病気なの
だった。

 ある時、比丘尼は、大奥宮中にて、参内している僧侶の中に、嘗
て相思相愛だったが出家して仏門に入った筈のおのこが居ることに
気づく。そしてその事をお仕えしている咲姫も知ってしまったこと
に気づくのだった。咲姫とその僧侶が密かに結ばれるであろうこと
は時間の問題と思われた。
 その事に気づいた比丘尼は、まだうら若い姫を守る為に、密かに
えた、非人の村を訪れる。猪豚の腸を調達する為であった。比丘尼
は若い頃、まだ藩に滞在していたバテレンの神父の世話をするよう
命じられていたことがあった。そこの調理場を任されている中で、
腸詰なる蛮人のみが食する食物を知ることとなる。そればかりでは
なく、その腸詰を作るのに使う猪豚の腸が、密かに夜の営みに用い
られていることを知るのだった。
 バテレンの神父に仕える下男たちも、主の女中などに手を出して
孕ませるようなことがあれば、打ち首は免れ得ない。そこで、下男
たちと女中等の間でひそかなまぐわいが行われる際に使われたのが、
猪豚の腸なのだった。猪豚の腸を七寸ほどの長さに切り取り、先端
を縛った上で、怒張した陰茎に嵌めた上で女と性交を持つというの
であった。


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