rin5

美剣士、凛



その13


 「く、曲者っ。何奴っ・・・。」
 弥太郎は、部屋の隅に置いた自分の脇差を探す。が、それより先
に忍びが投げてきた投網が身体に絡み付いてきた。
 「な、何を・・・。」
 弥太郎がもがけばもがくほど、網が絡みついてきて、思うように
動けない。女忍びの一人が網ごと、弥太郎を引きつける。もう一人
が弥太郎の横から何やら粉のようなものを投げ上げたと思う間もな
く、パッと火が点いて閃光が煌く。
 「しまった。目眩ましかっ。」
 突然の光に、目が眩んだ弥太郎が網に掛ったまま、一瞬無防備に
なる。そこへ女忍びの鋭い突きが下腹を襲った。
 「うぐぐぐ・・・。」
 弥太郎の身体が崩れ落ちる。女忍びは手際よく縄を出すと、弥太
郎の両手、両脚を背中で括りつけてしまう。
 目の前で弥太郎が、女忍びにていよくやられてしまうのを何も出
来ずに只、観ているしかない凛だった。括られて芋虫のように転が
された弥太郎を押さえ込むように蹲る二人の忍び。その背後に黒い
影が現れた。
 「お、お前は、九鬼陶玄斎っ・・・。」
 「ふふふ、久しぶりだな。冴島、凛っ。」
 陶玄斎は、刀の柄に手を掛けながら、あられもない格好で戒めを
受け、恥部まで曝している凛の身体を嘗め回すように検分している。
 「なかなかいい格好をしてるじゃないか。」
 剥き出しの股間に、凛は痛いような視線を感じる。
 「犯してくれといわんばかりの格好だな。」
 「くっ、何故このような所へ・・・。もしや、お前達、弥太郎を
つけてきたのか。」
 「ふふふ・・・。いかにも。どうやって、お前等を生け捕りにし
ようかと思案していたのだが、まさかお前等のほうから生け捕りに
してくれとばかりに、身体を差し出してくるとはな・・・。」
 凛は自由にならない後ろ手に力を篭めてみるが、しっかり解けな
いように弥太郎に縛らせたのは他ならぬ自分なのだった。脚も自分
では閉じることもままならない。
 「お前も武士の端くれならば、正々堂々と勝負したらどうだ。」
 そう言い切った凛だったが、陶玄斎等が素直に従って、戒めを解
いてくれるとは思えなかった。頼みの弥太郎は打ち身を充てられて
気を失っているし、正気に戻ったところで、手足の自由を奪われて
いて助けになるとも思えない。
 「お前に刀を持たせて、真剣勝負と行きたいところだが、この間
は随分な目に遭わされたからな。あの借りをまずは返しさせて貰っ
てからとしようじゃないか。」
 「どういうつもりだ、陶玄斎。」
 「ふふふ・・・。この刀じゃなくて、別の得物でお前をあの世に
やってやろうってことだ。あの世っていったって、命を奪おうって
んじゃない。昇天させてやろうって訳さ。」
 「な、何だとぅ。どうすると言うのだ。」
 「わしの、もう一本の刀でお前を昇天させてやろうというのだ。
ほれ、もうお前のその格好にわしの刀が疼いておるぞ。」
 そう言うと、陶玄斎は長脇差を外して床に降ろすと、袴の帯を解
き出したのだった。


続き


ページのトップへ戻る