妄想小説
超力戦隊 オーレンジャー 樹里の危機
十三
ふと正気に返った樹里は自分が再び十字架のようなものに磔にされていることに気づいた。しかも両脚は大きく開かされて固定されている上に、スカートの前半分が捲り上げられてベルトに差し込まれている為に、下着も付けていない股間を丸出しにして晒されている。それが分かったのは自分の真正面に据えられている大きな鏡に自分の姿が写し出されていたからだ。
辺りを見回すがデクスターの姿は既になく、見張りらしきパラノイアの兵士が一人居るだけだった。初めは背を向けていたその兵士も辺りの様子を覗う樹里の気配に気づいたようで振向いて樹里の姿をしげしげと眺めはじめた。
「み、見ないで。こんな格好を・・・。」
「ふん、今更何を言っている。ずっとその格好を晒していたっていうのに。」
「ど、どうして鏡をそんな所に置いているの?」
「さあ、儂にはわからん。デクスター様のお言い付けなのだ。」
(デクスターの言いつけ? 私に自分の惨めな姿を見せつけて、反抗心を奪おうとでも思っているのかしら・・・。)
「あなたたちは、私のこんな姿をみて何も感じないの?」
「感じる? 感じるとはどういう意味だ。」
「どういうって・・・。パラノイア人には欲情はないの?」
「欲情・・・? それはデクスター様が仰っていた性欲というものか?」
「性欲? 性欲っていうのが分からないというの・・・。」
「お前たち、人間どもには性欲というものがあるのか。」
「うっ・・・。そんな事、教えられないわ。」
(どうやら、パラノイア人たちには性欲というものがないらしいわ。)
樹里が考えていると、今度は兵士のほうが何か不審に思ったらしかった。
「お前たち、人間どもにはデクスター様と同じ性欲というものがあるそうだな。」
「デクスターと同じ・・・? そう言えばデクスターは何処に行ったの?」
「捕えた後三人の様子を見に行かれたのだ。男二人のほうを機械に掛けた後、性欲がどれ位変わるか調べてみるとか・・・。」
「機械に? 何の機械に掛けたの? あの二人に何をしたの?」
「心配することはない。我々も年に一度使っている機械だ。我々パラノイアの兵士は年に一度、兵役検査の為にあの機械に掛かることになっているのだ。ただ、機械の調整の仕方は我々とは違うようだが。なにせ、あの機械の使い方はデクスター様しかご存じないからな。」
「兵役検査に使う機械ですって?」
「そうだ。特殊な電波が頭に取り付けたヘッドギアから発せられて、われわれが兵役に適した脳の動きになっているか検査し、ずれを調整するものだそうだ。」
「そんな機械をあの二人のオーレンジャーに掛けたっていうの? それで二人は今何処へ?」
「デクスター様が二人をもう一人の女オーレンジャーのところへ連行していった筈だ。同じ檻の中へ入れてどう反応するか調べられるそうだ。」
「女オーレンジャーって・・・。桃のことね。ああ、桃。大丈夫かしら・・・。」
何か不吉な予感がした樹里は、桃と昌平、裕司のことを気遣うのだった。
ふと、樹里は訝し気にパラノイア人たちに疑問を抱き始めた。
「お前たち、パラノイア人には男とか女とかいうものはないの?」
「何をバカな事を言っているのだ。あるに決まっているじゃないか。」
「お前は男だろう。女のパラノイアは私は見たことがないわ。」
「女のパラノイア人は皆、月の裏側に棲んでいるのだ。そこで子育てをしてパラノイア人を増やしている。それでパラノイアの人口が増えてきて月の裏側だけでは手狭になってきたので、我々男の兵士が地球を征服してあらたな住処にしようとしておるのだ。」
「何ですって。地球をパラノイアの星にするつもりだっていうの。そうだったのね・・・。でも、パラノイアの男と女は接することはないの?」
「それはデクスター様が作られた掟で厳しく禁じられているのだ。もっとも、特にパラノイアの女に接したいという思いは別にないのだがな。」
「パラノイアの女と男は接しないのに子供が増えているというの?」
「そうだ。何の不思議もないだろう。女は子供を作り、男は兵士として戦うのだ。それぞれ役目が違っているのだ。」
(パラノイア人は男と女が接していないのに、子供が出来ている。これには何か秘密があるに違いない。)
「もしかして、パラノイアの女たちも年一回、兵役検査のと同じ機械に掛かっているのではないの?」
「見た事はないが、そうだと聞いている。兵役検査ではなく、子供を産む為の能力検査だと聞いているが・・・。」
(やはり、何か秘密があるのだ・・・。)
「お前たち、何をそんなに親し気に話しているのだ。何か余計な事を喋っていたんじゃないだろうな。」
突然背後から声が聞こえ、デクスターが戻ってきたのが樹里にもわかったが、十字架に磔にされた身では振返ってみることも出来ない。目の前ではデッダーが畏まってデクスターにひれ伏していた。
「デクスター様、申し訳ありません。親し気に話していた訳ではなかったのですが、つい色々訊かれて・・・。」
「まあ、よい。どうだ、オーイエロー。そんな格好で晒し者になっている気分は?」
デクスターが磔にされた樹里の目の前まで廻ってきた。デクスターの眼は当然のように剥き出しにされた樹里の股間に向けられている。
「み、見ないでっ・・・。」
「ふふふ。まだ羞恥心は残っているようだな。それもいつまで続くかな。」
デクスターは顔を赤らめる樹里の姿に不敵な笑みを浮かべる。
「私の仲間に何をしたのっ?」
「ふふふ。聞きたいか。あの機械は通称、感情制御マシンといってな。プログラムによって一時的に脳の動きを編集出来る装置なのだ。あの二人の男のオーレンジャー隊員の理性を麻痺させて、代わりに性欲を最大限に引き上げて、もう一人の女オーレンジャーの居る牢の中に放ってやったのだ。」
「何ですって? ま、まさか・・・。」
「餓えたオオカミを二匹、縛った兎の檻に放り込んでやったという訳さ。」
「何て酷い事を・・・。」
樹里は、桃が手枷を嵌められたまま、理性を喪って性欲の塊のようになった昌平と裕司に凌辱されている場面を思わず想像してしまう。
(駄目っ、そんな事。考えたくないっ。)
樹里は首を振って、嫌な想像を振り払おうとする。その時、背後で何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「デクスター様っ。大変です。オーピンクが見張りと二人のオーレンジャーを牢に閉じ込めて逃走しました。」
「何っ? わかった。今行く。おい、デッダー。この女をよく見張っておけよ。」
「はっ、わかりました。デクスター様。」
再びデッダーと共に残された樹里は、さっき聞いたデッダー隊長の言葉とデクスター総統の言った事を反芻しながら考えていた。
(デッダーは感情制御マシンとも言われる機械にパラノイアの兵士が毎年兵役検査と称して掛かることを義務付けられていると言っていた。そしてパラノイアの女性も月の裏側で年に一度、子供を産む能力検査として同じ機械に掛かっているという。それはどういう事だろう・・・。)
樹里はパラノイア帝国の秘密に一歩近づきつつあることを感じていた。
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