球場連行

妄想小説

麗華に仕掛けられた罠



 五

 「さ、ここまで来たらもうひと気も無いから、その手錠のカムフラージュは要らないわね。」
 そう言うと、吟子はそれまで後ろ手にされた麗華の両手首に嵌められた手錠を隠す為に掛けておいたスカーフを剥ぎ取り、麗華の手からダミーのバッグももぎ取る。
 「こ、ここは・・・。市民球場じゃないの。本当に美桜はここに居るの?」
 その場所は麗華もよく知っていた。市街地から離れた場所に作られたその球場は土日の昼間ぐらいしか人のやってこない少し淋しい場所だった。それは多少の悲鳴を挙げても近隣の住民までは声が届かないことを意味していた。
 「アタイたちに着いてくればすぐに分かるわよ。悦子。ほらっ。球場のスタンドへ入る扉の鍵を開けてっ。」
 悦子は何故か普段の平日は施錠されている筈のスタンドへ入る扉の合鍵を持っているようだった。悦子が辺りを窺って誰も見ていないのを確認すると、麗華の肩を小突くようにして麗華を中に入らせると、グランドの周囲を囲む観客席の方へ昇っていく階段をあがるように仕向ける。
 「美桜は何処に居るのっ?」
 両手の自由を依然として奪われたままの状態で、麗華は二人のスケバン達のほうを振り返る。しかし二人は相変わらず麗華の後ろから麗華を追い立てるように竹製の定規で観客席の上にあがるように顎で指し示すだけだった。
 「さっさと上にあがんなよ。上に行けば分かるからさ。」
 麗華は命じられるままに観客席の下に設けられた建屋からグランドを囲む観客席の方へ出てみる。
 「あ、貴方は・・・。」
 そこに待ち構えていたのは朱美という不良グループのリーダーをやっているスケバンの女だった。
 「やっと来たわね。待ってたわよ。」
 「貴方っ・・・。美桜は何処っ?」
 腕を組んで麗華を待ち構えていた朱美は顎でグランドの反対側を示す。
 「あそこに居るのが見えるだろ?」
 「えっ? あ、美桜っ・・・。」
 朱美と麗華が立つ観客席からみてちょうどグランドを挟んで向かい側に二人のスケバンに挟まれて立たされているのが美桜だということに麗華はすぐに気づく。

人質解放交渉

 遠目ではっきりとはしないが美桜は両手を縛られているらしく、スカートもたくし上げられていて裾から白い下着が覗いてしまっているのが見て取れた。
 「貴方達っ。美桜に何をしているの? み、美桜を解放してっ。」
 「ふふふ。それはアンタの心掛け次第さ。」
 「心掛けですって?」
 「おとなしくアタイ等の言うことをアンタが聞けば、あの小娘は自由にしてやるよ。」
 「貴方たちの言うことを聞くですって? もう充分に貴方達の言うことは聞いたわ。だからこうやって一人であの人達について来たんでしょ。」
 「ふふふ。言うことを聞くってのは、まだこれからのことさ。さ、どうすんのさ。アタイたちに服従して言うとおりにするの?」
 麗華は一旦躊躇したが、両手を後ろ手に手錠を掛けられていては反撃する術もなかった。まずはとにかく人質に取られている美桜の身を何とかせねばと覚悟を決めるのだった。
 「分かったわ。貴方達の言うことを聞くからまずは美桜を自由にしてやって。」
 「それはまずアンタの自由を奪ってからよ。」
 「自由を奪うって・・・。もう充分に自由を奪っているでしょ。私は貴方の子分たちに手錠を掛けられているのよ。」
 「ふふふ。それだけじゃまだ不十分よ。アンタ、妙な古武道を使うんだってね。聞いているわよ。そんなモノを使えないようにきちんと縛り付けてからでないと駄目よ。おい、悦子と吟子。鎖と手錠を持っておいで。」
 朱美が声を掛けると、すぐ傍に控えていた悦子と吟子が予め用意してあったらしい手錠と鎖を手にして近づいてくる。
 「後ろ手の手錠を外す前に、こいつが変なことが出来ないようにまずは片手を鎖の付いた手錠を更に掛けてそこの鉄柵に繋いでしまうのよ。」
 スケバン達は用意周到だった。一時も麗華に反撃のチャンスを与えない為に後ろ手の手錠を外す前に他の手錠と鎖で球場のフェンスの柱にまずは片手を繋いでしまう作戦らしかった。
 「そんな手のこんだ事をしなくっても、美桜を自由にしてくれれば言うとおりにするわよ。」
 麗華は抵抗する意思の無いことを表明してみせたが、スケバンたちはあくまでも慎重だった。女たちは一旦手錠と鎖で麗華の自由を奪っておいてから後ろ手の手錠を外し、改めてもう片方の手首を近くのフェンスの柱に繋ぎ直す。そうしておいてからもう片方の手首にも手錠を掛けて麗華が両腕を広げて完全に何の抵抗も出来ないような格好に手錠を掛け直すのだった。



reika

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