都会連行

妄想小説

監禁された女巡査



 第十八章 生還


 「いいこと。あんたが変な気を起こして、あの誓約書に書かれた文句に背くようなことを仕出かしたら、辛い目にあうのは、あんた自身よりもあの誘き出された素人の女なんだからね。」
 由紀が山の中で車から放り出されて解放された時に、最後に朱美が言い放った言葉が未だに由紀の頭の中をぐるぐる巡っていた。
 叢の中にポイっと捨てるように投げられた手錠の鍵を、後ろ手で何とか探り出し、漸く手錠の戒めから開放された由紀だった。里の方向は見当だけでも歩いてゆけそうだった。おそらく、もう彼等から凌辱を受けることはないだろうと由紀は悟っていた。それは由紀自身が誓約書に書かされたことを守りさえすればということではあったが。そして、それを由紀は自分自身の為ではなく、自分の為に人質としての生贄の目に遭わされた哀れな女性の為になのだと思い込んでいたのだった。

 由紀が次郎と朱美に連れられて山中で解放されていた頃、真穂のほうは、まだ光彦の手中にあった。光彦にとっては、最後の仕上げになるのだった。
 前夜遅くに、朱美に濡れタオルで身体を拭われた真穂は、最後に再び、手錠と鎖で柱に繋ぎ直されたのだった。その真穂の目の前に一人立ちはだかった光彦は、真穂に命令して盗み出させた由紀の物である拳銃を真穂の前でかざしながら、その感触を楽しむかのようにいじって見せていた。
 「拳銃ってのは、その撃たれた弾の条痕からどんな銃で撃たれたものか判るそうだな。」
 真穂の前で語り始めた光彦に、何を言おうとしているのか訝しげな顔で見返す真穂だった。
 「しかも、警察官の所持する銃は、万が一の悪用をされた時の為に、条痕が全て登録されてるって話だ。まあ、こっちの業界では、常識の話だがな。」
 「何が言いたいの。」
 光彦が語ろうとしていることに不安を憶えながらも言い返す真穂だった。
 「お前が不心得なことを仕出かした時の為の保証って訳さ。マサはあれでも焚き付ければ、すぐさま拳銃乱射事件を起こさせるぐらい訳ないからな。だが、その発射された弾が警察官が所持していた筈のものだと発覚したら、困るのはいったい誰かな。」
 真穂の頭が鋭く回転した。そうなのだ。もし、その銃で乱射事件でも起こされたら、世間は警察官の銃が暴力団の手に渡っていたことを知ることになるのだ。その銃を奴等の手に渡したのは自分自身だ。由紀を人質に取られていた為と言ってみても正当化はされないだろう。しかも、その銃は自分自身の物ではなく、同僚の由紀の物なのだ。自分自身だけの責任で、全てを投げ打って白状したとしても、責任は自分だけに降り掛かる訳ではなく、由紀を巻き込むことになる。そればかりか、警察官として由紀と覚悟を決めて、暴力団達の犠牲になったことを名乗り挙げたとしても、暴力に屈して拳銃を暴力団に渡したとなれば、警察の威信が崩壊する。そんなことを上司や上の連中が許してくれる筈も無かった。そして更には、そんな行為の果てには、無関係の素人の犠牲者まで凌辱の恥じを公開されてしまうことになりかねないのだった。

 車が都心の繁華街の駅前ロータリーの脇に停められると、横に居た次郎に携帯電話が掛かってくる。真穂は次郎と朱美に挟まれるようにして後部座席の真ん中に座らされていた。身に着けさせられているのは、伸縮性のある布地で出来た黒のタイトミニのワンピースだ。只でさえ丈の短い裾は座ることで、その位置が更にずり上がる。後ろ手錠を掛けられているので、ずり上がってしまう裾を直すことも出来ないのだ。膝と膝をぴったり合わせていても、どうしても腿の奥にデルタゾーンが覗いてしまう。それをさっきから運転席のマサはちらちら、バックミラー越しに覗いていた。
 次郎に掛かってきた電話は、光彦からのようだった。どこか近くの別の車から掛けてきているらしかった。
 「・・・。わかりました、若。」
 次郎は電話を切ると、小さな布袋から薄型の携帯電話を取り出すと受信のスイッチをいれ、それに繋がっている耳の中にすっぽり入り込んでしまうイアホンを朱美に渡す。朱美はそれを真穂に着けさせ、携帯の入った小袋は腰に巻いた飾りのチェーンベルトに括りつける。
 (俺の声がちゃんと聞こえているな。聞こえていたら、次郎に合図するんだ。)
 突然、イアホンから光彦の声が聞こえてきた。真穂は横の次郎に目配せで合図する。それを確認すると、次郎は車の窓を少しだけあけて、手を出して合図をしたようだった。
 それから、真穂の背中に手を伸ばし、手首を掴むと、手錠を外しはじめた。
 「さあ、これからは自由に歩かせてやる。手錠は無しだ。携帯からの指示だけで動くんだ。ちゃんと言うことを聞けば、約束通り、もう一人の警察官は解放してやる。」
 真穂は覚悟を決めた。昨晩、凌辱の限りを尽くされ、自暴自棄の思いにもかられた。もうこれ以上自分の身に何をされても、失うものはないとまで思うようになっていた。今はただ、由紀を救うことだけを考えようという気になっていた。

 朱美が車のドアを開け、身をずらして真穂を通させる。真穂はミニワンピースの裾を抑えながら、車の外に降り立った。真昼間の繁華街だ。若者が多く闊歩する街で、真穂自身はあまり来たことが無い。皆、自分たち以外には無関心そうで、夫々てんでばらばらに行き交っている。都会の喧騒と雑踏の代表のような街だった。
 真穂はスクランブル交差点を突っ切って、駅ビル前の大きな広場のほうへ向うよう指示された。身体の線をくっきり出し、ストッキングを許されていない生脚を大胆に露わにしているミニ丈のワンピースは、一人で居れば、そうとう目を惹く格好だが、大都会の雑踏の中では、それほど目立たない。それでも、中年親爺たちには、目を惹くらしく、何でもない振りを装って、颯爽と歩こうとしている真穂のほうを擦れ違い様に振り返っていく男たちも少なくはなかった。
 駅前広場は、人待ちをする人間で溢れていた。真穂も、広場中央の銅像を背にして人を待つ振りをして立たされた。目の前を何人もの人間が通り過ぎていく。
 (そこにしゃがんでから、髪をアップに纏めるんだ。)
 次の命令に、真穂は息を呑んだ。それが何を意味するかはすぐにも理解出来た。こんな短い丈のワンピースでしゃがめば、どうしたって裾の奥が覗いてしまう。それを両手で髪を纏めることで隠すことも封じようというのだった。
 真穂は命令に背くことは出来なかった。ゆっくりしゃがみこむと、両手を髪に回していく。さすがにその格好は目を惹くようだった。あちこちで自分のほうへ視線が向けられるのを意識してしまう。下着が丸見えになっているのは間違い無かった。真穂が穿かされている白いショーツは黒いワンピースの中で余計に目立っている筈だった。
 通行人が露骨に近くを通り、おもむろに真穂の股間を覗きこみながら通り過ぎていく。真穂は知らぬ振りをしているしかなかった。朱美に渡されていた髪留めを使ってセミロングの髪を器用にぐるぐる巻くと、後頭部で纏め上げて髪留めで留めるのに、1分と掛からない。しかし、イアホンから聞こえてきた声はそのまま手を下ろすことを許さなかった。

街頭パンチラ

 カシャッ。
 突然目の前で聞こえた音に真穂ははっとなった。誰かが通り過ぎざまに、携帯電話のカメラで真穂の格好を盗み撮りしたらしかった。ふと気づくと、あちこちで気づかれないように、携帯カメラのレンズを真穂のほうへ向けているのが判る。中年の男達が多いが、中には若いカップルの女子高生ぐらいの娘でレンズを向けているのもいる。真穂は情けなさと口惜しさに唇を噛んで俯いてしまう。身体を蹂躙され尽くしたあの夜は、もうどんなことをされても恥かしさを感じないだろうとまで思った真穂だったが、珍しいものを覗きこむかのように、好奇心と助平心でスカートの奥の下着を覗き込まれるのは、やっぱり恥かしいことだった。
 散々、行き交う見知らぬ通行人達に、パンツを覗き込まれた末に、漸く立ち上がることを許されたのは、5分と経っていなかった筈だが、その辱めを耐え忍んでいた真穂にはその何十倍にも感じられた時間だった。
 真穂に次に告げられた命令は更に過酷なものだった。駅前広場から繋がる大きなスクランブル交差点の真ん中で、パンツを脱げというのだった。真穂には初め、そんなことが出来る筈がないと思った。しかし、都会の雑踏の中では、皆基本的に人のことは無関心だ。誰かのことをじっと見つめている人間はそうは居ない。まして、いつ信号が赤に変わるかもしれないスクランブル交差点の中で、先を急ぐ通行人が他人がしていることをじっと様子を眺めている余裕は無いのかもしれなかった。しかも、真穂には出来る、出来ないの問題ではなくて、やる、やらないの選択肢はないのだった。真穂は何度か信号が青になるのを見過ごしてから、覚悟を決めた。
 信号が青になる。交差点際で待っていた人ごみが一斉に動き出す。駅前のスクランブル交差点は幾つもの道が入り込んで交差しているので、そこを行き交う人の流れは縦横無尽で複雑だ。真穂はなるべく人の流れの多いほうへ向った。人が多いほうが、注目される度合いは少ないだろうと踏んだのだった。
 交差点のほぼ中央に達した時、真穂は意をけっして、さっと尻のほうからスカートの奥に手を伸ばした。ちょっと腰を屈めてショーツを膝まで下げると、一気に脚を抜き取った。ワンピースの丈が短いのが脱ぎ易さを助けてくれたのが皮肉な事実だった。

街頭パンツ脱ぎ

 膝までショーツを降ろした瞬間、背後であっという声を誰かが挙げたのに気づいたが、無視して、最速で脚を抜き取った。そのままショーツを手の中に丸めると、小走りになって、近くのデパートの入口を目指した。後ろも振り向かず、周りの視線も一切無視して、ただ建物の中に紛れ込んでしまうことだけを考えた。
 真穂が向ったのは、スクランブル交差点に面したデパートの地下の女性用トイレの個室だった。犯罪を犯したばかりの犯人の心境だった。はあはあと、息が切れそうなのは、小走りに走ってきたせいばかりではなかった。何人の人間に見られたか見当もつかなかった。地下で携帯電話は圏外になっている。光彦からの指示は届かない筈だった。だが、そのまま逃げる訳には行かないのだった。下着を再び身に付けることを許されるのかどうか判らなかったが、もう一度穿いて外に出ることにする。真穂は朱美に穿かされたハイヒールを履いたまま下着に脚を通そうとして、クロッチの部分が既にしっとり濡れているのに気づいた。衆人の中で辱めを受けたことで、身体が反応しているのだと気づいて、自分自身にやりきれなさを感じる。脇のトイレットペーパーで拭うが、既に沁みになってしまっていた。

 再びデパートから外に出ると、携帯の音声はすぐに響いてきた。何処からか真穂のことを見張っているのは間違いなさそうだった。
 (遅かったじゃないか。また、パンツは穿いたんだな。)
 真穂は辺りを見回しながら、軽く頷く。何処かのビルの上のほうから、双眼鏡でも使ってこちらを覗いてきているらしかったが、交差点を取り囲むビル群の数の多さから、真穂にはその位置を見定めることは不可能だった。
 (xx公園へ今度は向うんだ。)
 その公園は繁華街を通り抜けた先にあるのは、真穂も知っていた。若者が多い街のすぐ傍にあるその公園は樹木も多く、人々の憩いの場であるべきだったが、都心の真ん中ということで、家族連れが訪れるのは稀で、専ら若い恋人たちが、戯れる場所になっていた。そのことは、その姿を求めて何処からともなくやってくる、覗き屋達のメッカであることも意味していた。勿論、単なる覗きだけではなく、多くの場合は盗撮を伴っている。
 真穂は専ら電車内の痴漢退治が専門で、そういう盗撮などの軽犯罪の取り締まりには関ったことはなかったが、仲間内ではそういう情報も流れてくるのだった。

 真穂は公園の隅の目立たない通用口から、園内に入った。指定された場所は公園内ほぼ中央にある円形の芝生の広っぱである。園内は木々が多く、その中に紛れてしまうと一目につき難いので、キスをしたり、抱き合うカップルが少なからずいて、木立の中を抜けるのに、見え隠れしていた。真穂は気づかない振りをして、無視しながら、ひたすら公園の中央を目指した。その場所は公園内で唯一見通しのいい場所とも言えた。芝生の広場の中央には一本だけ枝を四方に広げた樫の大木があるだけで、周りの木陰からはそこが見渡せるのだ。光彦の指示はその樹の下まで行けというのだった。
 さきほどの街中で下着を取らされたことから、今度も晒し者にしようとしているのは薄々気づいている真穂だったが、命令に逆らうことは出来ないのだ。
 その広場の端の木陰から広場の中央にある樫の樹のほうを見て、真穂は息を止めた。周りの薄暗い茂みのほうから、広場の中央は丸見えなのだ。その広場を囲う木々の奥には、覗き屋や盗撮者たちが何人も潜んでいるのは間違いなかった。
 真穂は、それでも仕方なく、その樫の樹の根本を目指して進んでゆく。光彦も既に近くまで来ているのかもしれなかった。
 樹の根本まで来て、真穂は足を止める。俎上の鯉の気分だった。
 (さっき穿き直したパンツを、膝の上までもう一度下ろすんだ。)
 光彦の命令は真穂が想像した通りだった。真穂は樹の幹を背にして、今度はゆっくりとした動作で、尻のほうからワンピースの裾に手を伸ばす。下着を取れと言われるほうがまだ良かった。急いでさっと済ませば、多くの者に気づかれないで済むかもしれなかった。しかし、光彦の命令は、膝の上まで降ろしてそのままにしろというのだ。真穂の方を見る視線には、下着を着けていないことをいつまでも判らせるようにしろということなのだった。言われるままにするしかなかった。急いでも仕方ないのだと悟ると、真穂はゆっくりとショーツを下げていった。膝まで下ろしてしまうと、真穂は両手を後ろで組むように命じられた。ショーツが滑り落ちてしまわない為に、脚は少し開いていなければならなかった。その格好は(私はこのワンピースの下には何も着けていないのです)と首から看板を下げているような気分だった。ワンピースの短い丈は、膝まで下ろしたショーツを隠してはくれないのだ。真穂のほうからは見えないが、何人もが息を呑んで真穂のほうへ熱い視線を送っているのが、嫌が応にも感じられた。
 散々その格好で放置された後に、真穂が怖れていた最後の命令がやってきた。
 (最後の命令は、もう言わなくても判るだろう。自分でスカートの前をつまんで上へ引上げるんだ。)
 下着をミニスカートの裾から見える場所に降ろした格好で暫く放置されたのは、周りに潜んでいる覗き屋たちに少しでも多く気づかせる為に違いなかった。その上で、自分で剥き出しの股間を晒せというのだった。真穂は口惜しさに、再び唇を噛んだ。しかし、命令には従わざるを得ない。
 真穂は後ろで組んでいた両手をゆっくり両腿の脇へずらすと、ミニの裾の端を掴む。その裾が、じわりじわりと上へ持ち上げられてゆく。股間ぎりぎりになったのは真穂にも判っている。出来れば、そこまでで逃げ去りたかった。しかし、光彦からの許しの言葉は聞かれなかった。
 (もう今更どうあがいても仕方ないのだわ。いいわ、幾らでも見るがいいわ。)
 真穂は意を決して、叢に蔽われた股間のその部分をとうとう露わにしたのだった。

公園晒し



 真穂はいつもの職務に復帰していた。痴漢撲滅キャンペーンは相変わらず続いていて、真穂はその当番勤務から外されることも、自分から辞退して抜けることも出来なかった。由紀には月一回ある連絡会で顔を合わせることはあったが、いつも遠くの席になるようにして、互いに声を掛けることもなかった。
 真穂は、由紀の受けた凌辱のことを知っているが、由紀のほうは自分のことを何処まで知っているのかは知らされていない。自分から声を掛けることも出来ない。ただ、何も無かった振りをするしかないのだった。
 由紀のほうも、相変わらず痴漢撲滅パトロールの当番任務を続けていることだけは真穂も知っていた。どんな思いで、その任務を果たしているのかは、真穂には想像してみるしかない。そんな真穂を暗い気持ちにさせるのは、昨日聞いたばかりの噂話だった。
 「ねえ、これだけ痴漢撲滅キャンペーンを張っているのに、全然痴漢の数は減っていないどころか、あの沿線は却って増えているらしいのよ。それというのも、痴漢に身体を任す女性ってのが居るらしいの。あの連中たちの間では、「させ子」って言われてるらしいの。それも一人だけじゃないらしいの。噂が噂を呼んで、痴漢の裏仲間の間で広がって、今では全国からその「させ子」目当てに痴漢が地方からもやってきてるらしいわ。全く、何て世の中なんでしょうね。」

 その日も、電車の中で、ぼんやりと由紀のことを考えていた真穂だった。男の手が真穂の尻のほうを撫でるように触れてきたのに気づいたのはその時だった。揺れる電車の中で、真穂は痴漢に身を任せるしかない自分の運命を呪うのだった。

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