偽装逮捕

妄想小説

監禁された女巡査



 第七章 新たな捕獲


 鈴木亜美は、その日も恋人の狩野正人といつも車を駐めるのに使っている公園の駐車場で別れて、自分のアパートに戻ってきたところだった。狩野とのデートの時はいつも自分の車で公園駐車場まで出て、そこから狩野の車に乗り換えてゆく。だから、別れるときはいつも公園駐車場なのだ。以前はアパートまで送ってきて貰ったこともあったが、近くに棲んでいるらしいヤクザ風の輩で、「男といちゃつきやがって。」などと酔った男にからまれそうになったことがあってからは、車で出掛け、車で帰ってくるようにしているのだった。アパートから少し離れた路地に見慣れない白いバンが停まっているのを見て、何となく不安に駆られる。アパートの鍵を開けて、入ろうとして後ろから女性の声に呼び止められた。
 「鈴木さんですよね。」
 振り返ると、制服を着た女性警察官だった。亜美の不安は更に高まる。
 「ええ、そうですけど・・・。」
 不安そうな面持ちの亜美に、女性警察官は胸ポケットから徽章のついた黒い警察手帳を亜美にかざしながら近づいてきた。警察手帳を目にするのは初めてだが、テレビのドラマなどに出てくるもので、最近、デザインが変わったらしいことは何となく知っていた。
 「少々お尋ねしたいことがあるので、ちょっと来て頂けませんか。」
 亜美が一旦入りかけたドアを出て、鍵を再び掛けようとすると、女警察官が手で止めた。
 「あ、いいですよ。すぐ済みますから。」
 そう言うと、引っ張るように亜美を従えて、二階建てになっているアパートの下のバンのほうへ連れていこうとする。亜美がもう一度良く見ると、バンの屋根の上に赤い回転灯が点っていた。
  (警察の車だったのだわ。)
  それを見てすぐに亜美はそう思った。女警察官と亜美が近づくと、中から警察官の制服を着た男性が後ろのドアをスライドさせて開け、中へ招きいれる。
 亜美はタイトなミニスカートを穿いていたので、下着を覗かせないように注意しながらバンの後部座席に乗り込む。ちょうど男性の警察官と後から乗り込んできた女性警察官に挟まれるような形になった。運転席にはもう一人の男性警察官が乗っている。
 「鈴木さん。亜美さんで宜しいですね。お聞きしますが、最近、どなたか男性の方とお付き合いされていますよね。」
 「えっ、・・・は、はい。」
 亜美は今別れてきたばかりの狩野正人の顔を思い浮かべる。
 「その方のお名前を仰ってください。」
 隣の男性警察官は、何やらメモされたクリップボードの書類を見ながら質問している。メモそのものは亜美には見えないようにしている。
 「あの、狩野、狩野正人さんですが・・・。」
 「ふうむ。やはりそうですか。・・・。鈴木亜美さん。緊急捜索令状が出ています。家宅捜査にご協力していただきます。」
 隣の警察官はクリップボードの下から何やら印刷された紙をかざされた。亜美の目に、「緊急捜索」、「麻薬」、「不法所持」、「xx裁判所」などの文字が飛び込んでくる。じっくり見ようとする前にその紙は伏せられ、代わりに黒光りする手錠が出された。
 「捜索中は、規則で一時手錠をさせていただくことになっております。証拠隠滅防止の為の措置で、これは規則で決まっているものです。違反をすれば、公務員執行妨害罪になります。」
 立て続けに言われる警察官の言葉に戸惑って、亜美は返事すら出来ないでいた。隣の女性警察官が亜美の手首を捕えて、優しく、しかし有無を言わせぬ調子で、亜美の両手首を後ろに回させると、もう一人がそこへガシャリと手錠を嵌めてしまう。亜美は突然の出来事に心臓が止まりそうなほどどきどきして、何を言っていいか判らず、頭の中が真っ白になってしまっていた。
 男性のほうが目配せをすると、女性警察官はドアを開け一人だけ出て、又ドアを閉めると、アパートの方へ向って歩いていった。
 「女性のアパートなので、捜索は女性警察官にやって貰いますので、安心してください。」
 そう言われたが、安心できるような状況ではなかった。
 両手を後ろ手に繋がれてしまった為に、膝元が無防備になってしまっている。タイトミニはずり上がってしまっているので、手で隠していないと、裾の奥が覗きそうになってしまっている。男性警官の目がちらっと自分の腿のほうを見たの認めたが、これからどうなるかの方が目下のところ最大の心配点だった。
 「ま、麻薬の関係の捜査なのですか。」
 さっきちらっと見せられた捜査令状らしき紙に見た文字から、亜美はおそるおそる言ってみた。
 「今の段階では何もお答えすることは出来ません。これは定められた規則ですので。」
 「か、狩野、狩野正人さんに関ることなのですか・・・。」
 「それも今の段階ではお答えできません。済みませんが、もう暫く待ってください。」
 バンの中に沈黙が流れる。亜美は息が詰まりそうな気がした。男の前に剥き出しの腿を晒したくないのだが、背を向けると手錠の手を見せることになる。手錠を掛けられているところを見せるのも、何となく嫌な気がして、それを隠すように、真直ぐ前を向いているしかなかった。

 女警察官が何やら黒い大きなビニル袋に入ったものを持って戻ってくると、運転席に居たほうの警官がドアを開けて外に出、何やら外で女警官とひそひそ話し始めた。それから男のほうが大きく頷くと、再びドアを開けて運転席へ戻る。後ろを振り向きながら、時計を見る。
 「麻薬不法所持が見つかりました。緊急現行犯逮捕に切り替わります。16時23分、身柄拘束です。」
 「ええっ、何ですって・・・。わ、わたしっ、麻薬なんか持ってません。麻薬なんか出る筈ありません。」
 「麻薬がどこから発見されたかは、規則で今は言うことが出来ません。警察署での取り調べの際に確認させていただくことになります。それでは署に連行します。」
 女警察官も再び亜美の隣に乗り込んできて、がっしりと亜美の腕を捉える。亜美は最初に恋人の名前を聞かれたことから、正人が何か関係していたのではと不安に思い始めていた。自分自身については全く見当たるものがなかったからだ。亜美は最近、正人から貰ったり預かったりしたものが無かったか、必死で思い出そうとする。が、頭はパニック状態になっていて、考えがどうしてもまとまらず、同じことを頭の中で堂々巡りさせてしまっていた。
 「近所の方に見られると困ると思いますので、上着を掛けさせてもらいます。」
 そう言われるや、男性警察官が後部座席の後ろに置いてあったらしい男物の大きな黒いコートを亜美の上半身に被せると、亜美には周りが見えなくなってしまった。そのまま車は発進し、亜美は二人にしっかり腕を捉えられたまま、連れていかれたのだった。

 車が急ブレーキを掛けて停められたので、まわりが見えず、両手の自由も奪われていた亜美は、思わず前につんのめりそうになる。それを抱きかかえるように抑えたのは、男性警察官の方だったように思われた。
 「ここまで来れば、もう誰にも聞かれる心配はないと思うが、念の為に、猿轡を噛ませたほうがいいだろう。」
 男性警察官が女性警察官のほうに指示しているように亜美には聞こえた。声の調子が今までとは微妙に変わってきているのにも気づく。
 「まず目隠しをさせたほうがいいわね。」
 そう女性警察官の声がすると、亜美は掛けられたコートの上からがっしり男性側に羽交い絞めにされる。身動き出来なくなったところを反対側から女性警察官のほうがコートを引き剥がすようにして亜美の顔を出させると、素早く頭にアイマスクを被せる。亜美に辺りの様子が見えたのは一瞬だった。どこか森の中のようなところに居ると見えた次の瞬間には、アイマスクが目の上に被せられていたのだ。
 「何処、ここは・・・。」
 声を挙げた亜美は、突然鼻をつままれる。
 「あふふふふっ・・・。」
 息苦しさに思わずあけた口の中に何やら布切れのようなものが押し込まれ、女性の掌で口を塞がれたと思うや、その上から更にスカーフのようなものが口を割るような形で顔面に掛けられ、後頭部のところでしっかり結ばれる。亜美はくぐもった声しか出せなくなってしまった。
 羽交い絞めが解かれるや、今度は亜美は胸の辺りを縄でぐるぐる巻きにされるのを感じた。更には後ろ手の手錠のところを通された縄の先が、亜美の首に巻かれると、そのまま再び背中のところで胸の部分を巻いている縄に結び付けられたようだった。亜美はもがいて手錠を掛けられた両手を動かそうとすると、自分で首を締めてしまうのに気づく。最早大人しく縛られたままで居るしか無くなってしまったのだった。足首にも縄が括りつけられる。亜美にはスカートの裾から下着が覗いてしまわないようにひっぱり両脚を揃えておくぐらいしか出来ない。それでも覗いてしまっているかも知れなかったが、亜美には確かめることすら出来ない。
 スライドドアが開く音がして、亜美は肩を掴まれて、車外に引き摺り出された。脚を大きく開こうとすると、足首の縄が突っ張る。50cm位の間隔で、足首と足首が繋がれているらしいことを悟る。
 (どうしたの・・・。ここは警察ではないのかしら。)
 声が出せないので、訊いてみることも出来なかった。しかし、車が停まってから突然、二人の警察官の扱いが乱暴になったのは間違いなかった。(何かがおかしい。)漸く亜美は不審に思い始めていた。

 ホールの中央部分の柱の前で天井の梁に付けられた滑車から、下半身部分を逆さ吊りにされていた真穂は、外に車が入ってきた音を聞きつけていた。一人残されていた間、何とか括られた縄を解こうともがいてみたが、足首に余計に締まってくるばかりで、どうにもならなかった。どこかに移動でも出来れば、何かの角にでも縄をこすり付けて、緩めたり、切ったり出来るのではと思うのだが、足から吊られた状態では、這っていくことすら叶わないのだった。
 やがて、玄関の向こうで物音がして、ホールへのドアが開かれた。真穂が目にしたのは、警察官の服装に変装した次郎とマサが両腕をしっかり捉えている、縄で厳重に後ろ手縛りに拘束され、アイマスクと猿轡を着けさせられて連行されてきたミニスカートの女性の姿だった。二人は逆さに吊られている真穂の目の前へその女性を引っ張ってくる。
 「さて、一瞬だけご対面をさせてやろう。」
 そう次郎が言うと、マサのほうへ顎をしゃくって合図し、マサが女のアイマスクを顎のほうへ下げる。女は、目の前の真穂の格好を目の当たりにして目を丸くさせている。何せ、下半身を逆さに吊られている為にスカートはすっかりずり下がって、ショーツを丸見えにさせているのだ。しかもそのショーツの下には無様に紙オムツが嵌められて膨らんでいるのだ。
 真穂は女のほうが意外と若そうなのに気づいた。二十歳前後の大学生ぐらいのように見える。猿轡が苦しそうで、鼻で喘いで息をやっとしている。お互いの目と目が合ったところで、マサが再びアイマスクで女の視界を塞ぐ。
 「この人をどうしたの、貴方達は・・・。」
 猿轡を外して貰うや、真穂は詰るように、二人に声を挙げる。
 「お前の警察手帳で騙して連行してきたのさ。」
 真穂は懼れていたことが現実に起きたのを知った。
 「な、何てことを・・・。」
 「ううっ、ううっ、ううっ・・・。」
 猿轡を噛まされている女のほうも、初めてはっきり騙されたのだと知って、声を挙げようとするがしょせんくぐもった声が微かに洩れるだけだった。
 真穂にはあまりのことに、言葉が続いて出てこなかった。呆然としている真穂を尻目に、再び目を見えなくさせた女を引き立てて、二階へ通じるドアのほうへ二人は出ていってしまった。何時の間にか、女警察官に扮した朱美が遅れてやってきていて、真穂のすぐ傍に立っていた。
 「貴方達は、まさか、何も関係のない素人の人を騙して拉致したのじゃ・・・。」
 朱美は真穂の下半身を吊り上げている縄を解き始めていた。ずる、ずるっと、真穂の脚が床のほうへ下りてくる。やっと足首が自分の体重から解放されるのを感じる。それと同時に、真穂は我慢していた尿意が限界を超えて、紙オムツの中を生温かいものが溢れ始めるのを感じた。逆さに吊られていて、腰の部分から尿が漏れ出すことを懼れて、吊られている間はどうしても放尿する勇気が出なかったのだ。朱美は真穂の身体の動きで、放尿しているのが分かっている様子だった。恥かしさに顔を上げられない真穂だった。
 「さあ、もう充分出したかしら。いい子にしてたようだから、ご褒美に今、おむつを替えてあげようかしら。」
 朱美は真穂が口惜しさに顔を顰めているのを嬉しそうに見つめながら言い放った。シモの始末を若に言い付かった時には、嫌な顔をして仕方なくだったのだが、自分より明らかに美人顔の女警官が恥かしさに口惜しそうな顔をするのを見る度に、朱美の根っからの嗜虐心が疼いてきて、今では楽しくて仕方なくなっているのだった。

 若と呼ばれていた男は夜になって朱美を伴ってやってきた。部屋の端には大きな液晶モニタテレビが運び込まれ、それに何やらパソコンが繋がれていた。朱美が液晶モニタのリモコンとパソコンを操作すると、液晶画面が映し出された。画面中央部にXの字に張られた柱に夕方拉致されて連れてこられた若い女性が両手両足を繋がれて磔にされている。何処かの部屋に置かれたモニタ用カメラで撮影されたものが、パソコン経由で電送されてきているようだった。音声は態となのか消されている。女性は猿轡が外されていて、何やら叫び続けているが、その声は聞こえてこない。そこへカメラの後方に居たらしいマサが女のほうへ近づいていくのが映った。女性の顔が恐怖に引き攣る。しかし、マサの手はするすると女性のスカートに伸びていって、裾から奥へ手を忍び込ませていった。女は身体をくねらせて逃れようとするが、両手、両足はがっしりとXの字の柱に括りつけられている為、どうにもならない。マサのもう片方の手は女のブラウスにも掛けられ、胸元のボタンを上から一つずつ外してゆく。手が入るようになると、襟元にも手を伸ばし、ブラジャーの中に手を突っ込んでもみ始めた。女は一層身悶えを始めるが、どうにもならないで、マサに身体を蹂躙され続けていた。

 食い入るように画面を見ていた真穂だったが、そこですっと画面が消されてしまった。真穂は若のほうへ振り向くと、キッと目を光らせて睨みつけた。
 「あの男のしてることを止めさせてっ。」
 若は腕を組んで画面を眺めていたが、ゆっくり真穂のほうへ向き直る。
 「それはお前の心掛け次第という訳さ。」
 「どういう事っ?」
 「お前が全て俺達の言う通りにするというのなら、明日にでも解放してやるってことさ。」
 「言うことを聞く?この上、私に何をさせるっていうの。」
 真穂は鎖と縄と手錠で雁字搦めにされているのだ。言わば何も出来ない状況だった。
 「朱美っ、もう一度画面を見せてやれっ。」
 再び朱美がリモコンのスイッチを入れる。画面がぱっと明るくなって、再び磔にされた女とそれに取り付いているマサの姿が映し出された。既に女はショーツを膝の辺りまで降ろされてしまっていて、胸元からは裸の乳房が半分覗いてしまっていた。
 「な、なんてことを・・・。」 
 「俺が、電話をすれば、すぐにマサを止められるんだが、どうする?」
 「ど、どうするって・・・。お願いします。すぐに止めさせてください。」
 「だったら、貴方様のいう事は何でもしますと、ここで誓ってみせろ。」
 「えっ、・・・・。わ、わかったわ。・・・。あ、貴方、貴方様のいう事は何でも言うとおりにします。」
 最後は消え入りそうな声になって、顔を伏せてしまう真穂だった。
 「ほう、そうかい。・・・。ようし。」
 若は手にした携帯のボタンを押す。
 「おい、次郎っ。それまでだ。マサに女の身体を放すように伝えろっ。」
 マサは何か言われた様子で、カメラのほうに向き直ると、しぶしぶ女の身体を放した。膝まで下ろされてしまった下着と大きく肌蹴たブラウスとブラジャーはそのままにされた。カメラが女のほうにズームアップしていって、凌辱にうな垂れた女の泣いている姿を大写しにしたところで、画面はさっと消されてしまった。
 「さてと、どれだけちゃんと言う事を聞く気になったか、テストしてやろう。」
 若は再び真穂の真正面に立って真穂を見つめだした。
 「朱美っ。お前、今、おしっこだせるか。」
 突然、若は朱美に振り向いて言った。
 「ええ~っ、いまあ~?まあ、ちょっとだったら出せるかも。」
 「だったら、そこの水を張ってたソースパンの中に出してみろ。」
 「え~っ、今すぐに~?ちょっと待って。」
 朱美はそう言うと、革のミニスカートの両端に手を突っ込んで、ショーツを引き下げると、真穂の方に向いたまま、膝を屈めてソースパンの上にしゃがみこんだ。真穂のほうからは朱美の陰部が丸見えになっているが、朱美は一向に気にしてない風だった。
 暫く朱美はいきんでいたが、やがて陰部の割れ目から、チョロッ、チョロチョロッと音をたてて雫がソースパンの中に垂れ流されてきた。
 真穂には、幾ら相手が同性であると言っても目を背けたかった。そんなはしたない真似が出来る朱美の神経が信じられなかった。しかし、その後、真穂に命じられた事は、朱美のはしたない行為とは比べ物にならないほどの屈辱だったのだ。
 「さあ、今度はお前の番だ。朱美が折角いきんで絞りだしたその汁を、そこに這いつくばって、舌で舐めるんだ。」
 あまりの仕打ちに、真穂は表情を凍りつかせていた。その真穂の後ろに用を足したばかりの朱美は回りこんでいって、真穂をホール中央の柱に繋ぎ留めていた鎖の錠を外す。
 暫く沈黙が流れていた。が、真穂はやがてうなだれていた顔を上げると、もう一度、若のほうを吃と睨んでから、おそるおそる身体をソースパンのほうへ落とし、膝を床につけてから身体を丸めて顔をソースパンに近づける。つんとアンモニア臭がするのを感じると、顔を顰めて横に向ける。しかし、この仕打ちから逃れる手立ては真穂にはないのだった。
 真穂は大きく息を吸い込むと、意を決して舌を出し、顔をソースパンの中に埋めたのだった。

嘗めさせ



 次の日の朝、真穂は都心に近い郊外のベッドタウンの駅のホームに居た。早朝から次郎、マサに伴われて若と一緒に連れてこられたのだった。両手は相変わらず手錠が後ろ手に嵌められ、着せられていた濃紺のブレザーの内部を通して背中側で首輪と手錠を鎖で繋がれている。その為、真穂には両手を腰の位置から下げられない。それはお尻を手で防ぐことが出来なくすることを意味していた。首輪は真っ赤な派手なものから、黒く細い目立たないものに替えられた。一見すると、お洒落なアクセサリーに見えなくもないものだ。更にはその上から赤いチーフがカムフラージュに巻かれてシルクのブラウスの襟元で首輪を隠していた。ブレザーの下の白いシルクのブラウスと、淡いクリーム色のミニの襞スカートは、初々しい女子大生のイメージを真穂に与えていたが、それが拉致された亜美のアパートから朱美によって持ち出されたものとは真穂には知る由もなかった。スカートの下にはこれも亜美の洋箪笥の中から大量に持ち出された下着の中から選ばれた最も薄手の小さなショーツだった。下着はそのショーツのみで、ストッキングを穿くことは許されず、ミニの裾下から生脚を露わにさせられていた。その女学生風の格好は明らかに、都心へ向う郊外電車の路線の中に巣食う痴漢たちを呼び寄せる演出に違いなかった。その為に、真穂は、乗れる筈の電車を見送って、わざわざ次の電車まで一本待つように指示され、次の電車を待つ列の先頭に長い時間立たされたのだ。真穂のミニから伸びる露わな生脚は当然ながら、男達の目を惹いただけでなく、パンツルックでミニを穿く勇気の無いおばさん連中の顰蹙の目にも注目されてしまっていた。それとなく、真穂の後ろに並ぶ男達は明らかに下心を持っての行動であることに間違い無いと真穂は気配を窺がいながらも確信していた。
 次の電車が入って来た。降りる乗客は殆どなく、一方的に都心へ向けて乗客の列が一斉に雪崩れ込むばかりである。真穂も押されるようにして、既に満員に近い電車の中へ乗り込んでいく。ちらっと横をみて、若が隣の扉から乗り込み、次郎のほうは監視役の如く、真穂と同じ列からほぼ最後のほうに乗り込んできた。

 真穂はすべての抵抗を禁じられていた。しかし、禁じられていなくても後ろ手の手錠に首輪からの鎖で繋がれていては、抵抗のしようもなかった。走って逃げ出すことも、声を挙げて助けを求めることも、真穂には出来ない。真穂の警察手帳を使って陥れられた亜美を人質に取られている限りは、若たちの指示に素直に従うしかないのだった。
 車内は立っているのがやっとというくらいのスシ詰め状態だった。真穂は電車のドアを入ったすぐの真ん中辺りに立つように指示されていた。好きな場所に立つのが選べるような状況ではなかったが、何とか真ん中付近には居ることが出来た。ドア付近からは次郎が監視しており、通路を隔てて、隣のドア付近からは若がサングラスを通して、真穂の様子を窺がっているのがかろうじて見て取れた。真穂のうしろに列を為して並んでいた男達の多くが、最初から意志を持って並んでいただけあって、男の手が真穂の腰周りに伸びてくるのに時間はかからなかった。しかもそれは一本や二本ではなかったのだ。普段なら吃と睨みつけたり、男の手首を捩じ上げて、一喝するのが常だっただけに、黙ってされるがままにしなければならないのは口惜しさがこみ上げて堪らなかった。真穂は唇を噛み締めて、俯いているしかなかった。男たちの手は最初は甲のほうで押されて仕方なく鞄の手を押し付けてきているような程度だった。が、真穂が避けることもなく、ただされるがままになっているのを確認すると、くの字に曲げた指の甲を露骨に押し当ててきたり、掌返しにして、将に愛撫してきたりしだすのだった。この状況では、単に触られ続けている程度では済まなくなってくるのは目に見えていた。それでなくても薄手でフレアな襞スカートは捲り易い構造になっている。真穂はスカートの裾が横のほうですっと持ち上げられたのを感じたとき、恩赦を乞うような目で若のほうの視線を探した。人影の間にそのサングラスをした若の顔の輪郭を見た瞬間、真穂は電気で打たれたような衝撃的なものを感じた。
 (あの時の男なのだわ。)
 真穂は顔の輪郭だけではっきり思い出したのだった。若は、なるべく顔を真穂に見せないようにしていたし、顔を合わせる時はいつもサングラスを欠かさなかった。どこかで見たような気がしていたのだが、今まで思い出せなかったのを、この瞬間はっきり思い出したのはシチュエーションのせいだった。一箇月ほど前、同じ超満員の電車の中で、サングラスをしていないこの男の顔を見ていたのだった。

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る