満員電車

妄想小説

監禁された女巡査



 第一章 捕獲


 その朝も、いつものように真穂はスシ詰め状態の満員電車の中で押し合う乗客に揉まれながらも、周囲の異変に目を光らせていた。
 池上真穂は、都心の港北署に勤める現役の巡査で、今は生活安全課で、普段は交通パトロールなどが主な職務だったが、鉄道公安局の依頼を受けて、電車内の痴漢撲滅活動の一環として半年ほど前から定期的に管内を通る私鉄路線の電車に、朝の通勤時間帯の間、私服でパトロールに派遣されている。
 電車内で不埒な行為に声も挙げられない女性達に代わって憎むべき痴漢を検挙し、彼女たちを救うのが本来の目的なのだが、自由に身動きするのが難しい満員の車内では、被害にあっている女性を見つけても、すぐに検挙できるとは限らない。乗客をかき分け近づいていっても、その場に辿り着く前に気づかれて痴漢行為を止められてしまっては、被害にあった女性が申告しない限り、現行犯での立件は難しい。逆に言えば、痴漢被害を申告する女性のほうが少ないのだ。
 だから、自分自身が痴漢行為を受けて、そのまま犯人を現行犯逮捕するのが一番手っ取り早く確実なのだ。その為、警察官が乗車しているのを気づかれないようにする私服ではあったが、その中でも男達の気を惹きやすい、短めのスカートにフェミニンなブラウスを身にまとって乗っているのだった。それでも逮捕劇が何度か続けば、すぐに顔を憶えられ、警戒されてしまうため、路線や乗車時間をいろいろに変えながらローテーションでの交替勤務をこなしているのだ。

 その日の真穂は、長い髪をアップに纏めて上げ、濃い目のタイトなミニスーツを身にまとって秘書でもやっていそうなOL風を装っていた。うなじには微かに匂うように、軽くコロンを振りかけてきている。女らしい香りが男の官能を昂ぶらせることは、経験からよく承知していた。しかしそれは彼女自身の恋愛経験によるものではなく、痴漢逮捕での確率の良さでなのだった。
 女性としては、長身なほうで、鼻筋の通った顔立ちは、実家の母親が配りまくっているらしいお見合い写真での評判はとてもいいらしかった。が、実際の真穂は、切れ長の眉のしたの聡明そうな瞳は、警察官らしいきりっとした鋭さを持っていて、それがひ弱な男達を敬遠させる結果となっていて、男勝りの勝気な性格と相まって、男達に近づき難い雰囲気を醸し出してしまうのだった。痴漢をおびき寄せる囮捜査にも、真穂の凛とした雰囲気はマイナスになってしまうので、意識的に伏し目勝ちにして頼りなげな女性を装っているのだが、これが意外にも効果的だった。

 痴漢の現行犯逮捕歴は、真穂はずば抜けて成績が良かった。真顔を見せない真穂の後ろ姿は、男心をそそるものがあるようで、いざ検挙となった時に、自慢の合気道の腕前が功を奏するのだった。警察学校時代に代表選手にも選ばれた合気道の腕前は、交通パトロールでは腕前を発揮する場面も殆どなく、普段の勤務に飽き足らない真穂は密かに刑事の試験を受ける勉強にも励んでいた。鉄道公安局からの痴漢撲滅キャンペーンの話が来た時も、自ら志願したのは、自らの美貌はともかく、合気道の腕前を試してみたいという気持ちにかられてのことだった。
 テレビなどでも有名なコメンテイターとして活躍していたとある大学教授の犯行現場を見事に捕え現行犯逮捕したのも、真穂のお手柄によるものだった。

 その日は何故か、真穂が無防備を装っているタイトミニのぷりっとしたお尻に魔の手を伸ばしてくる輩は居らず、痴漢囮捜査も空振りに終わったかと思い始めていたその時だった。真穂が立つ車両中央付近から少し離れた乗降ドアの付近で窓の外側を向いて不自然に身体をくねらせている若い女性が目に入った。その真後ろをぴったり寄り添うように身体をくっつけている男が居る。満員電車なので、身体と身体が触れ合っているのは極ありふれている。しかし、それでもこれまでの経験から不自然な寄り添い方というのは直感で真穂にはわかった。しかも、男に不自然に寄り添われている女性は顔を下に俯かせて、必死で堪えているのが遠目にも感じられた。
 真穂はぎゅうぎゅう詰めの車内を乗客の間をすり抜けるようにして二人に近づいていった。無理に乗客たちの間をすり抜けようとしているので、乗客たちの中には、態とそっと手を出して、擦れ違い様に偶然手が触れてしまったかのように腰などに触ってくる輩もいた。が、その時の真穂は早く被害にあっている女性に近づくことを優先させて、自分の腰に手を伸ばしてくる男達は無視してひたすら気づかれないように女性と男ににじり寄っていった。

 男は黒っぽい背広の下に派手な色柄のシャツを着ていて、いかにもヤクザ風だった。薄めのサングラスも、顎を薄く蔽う髭も、通勤に通うサラリーマンといった感じではなかった。女のほうは若そうで、近づくにつれ、私立女子高の制服のような格好であることが判ってきた。真穂の位置からは見えない女性の下半身は、捲れやすい流行のチェックのプリーツミニなどであるに違いなく、既に男の手がその中に滑り込んでいることが、女性の身体の動きから察せられる。
 真穂が手を伸ばせばなんとか届くぐらいの位置まで近づいた時に、電車は急に減速を始めた。乗客が一斉に進行方向に向って倒れ掛かる。真穂のほうにもすぐ横にいた背の低い禿げ親爺が仕方ないのだとばかりに身体を寄せてきたので、それを肘で払いのけるので精一杯だった。男と女性のほうをさっと見返すと、ホームに近づいていく電車の中で、ぴったり寄せていた身体同士が一瞬離れたようだった。
 (しまった。現行犯逮捕のチャンスを逃してしまったかも・・・)
 折角のチャンスを逃したかもしれないと思いながらも、もう少しだけでもと傍に寄ろうとするが、倒れかかってくる乗客たちの重みで、動きが自由にならない。

 電車が停まってドアが開くと、女子高生は逃げるようにぱっとホームに走りでた。一瞬待って様子を見ていた真穂だったが、男が続いて後を追うように外へ出たのをみて、真穂も慌てて乗降口へ向った。
 「済みません。降りますので・・・。」
 立ち塞がる乗客に声を掛けて道を空けてもらい、真穂も続いてホームに降り立つ。真穂が車外にやっとのことで出られた時には、女子高生は短いスカートでお尻をかろうじて蔽っている裾を鞄で隠しながら、階段を駆け上がっていくところだった。男のほうは、走るでもないが、確実に女子高生に置いてゆかれない程度には早足でさり気なく女子高生を追っている風だった。真穂も間は詰めないように気を配りながら、遅れないように早足で後を追う。
 改札を出た先は、真穂も殆ど降りたことのない寂れかけた下町風の駅前だった。細い路地が続く商店街は両側とも殆どの店がシャッターを閉じている。都市再開発で無人化してゆく古い街並みの典型だった。
 50mほど先を少女が小走りに歩いている。20mほど後ろをやはり小走りで追っている男のほうを時々振り返ってみては、逃げるように早足で先を急ぐ。その後を追う真穂には、少女が行く充てがあってなのか、むやみに走っているのか、計りかねた。

 その時、少女の影がふいに横へ逸れて姿が見えなくなった。その後を男も追って姿が見えなくなる。慌てて小走りになって消えた場所へ追いつくと、そこは古い雑居ビルのようだった。今現在入っているテナントは無さそうな、廃墟ビルと言っていいようだった。少女と追う男は中の階段を昇っていったようだった。小さなビルで、エレベータは付いていないらしかった。真穂は足音を立てないように注意しながら後を追って、コンクリートの階段をそろりそろりと上がってゆく。二階に両開きのドアがあったが、板を釘で打ちつけてあり、しっかりと封鎖されている。二人は更に上へ昇っていったようだった。真穂が三階へ向う階段を昇り始めた時に、少女の悲鳴のような声が微かに聞こえた。明らかに上の階だった。踊り場を廻ると、二階と同じような両開きの鉄のドアがある。しかし、こちらはうっすらと開いていて、閉ざされてはいない。真穂は音を立てないように忍び足でドアに近づいた。女のすすり泣くような声がドアから洩れて聞こえてきていた。真穂は薄く開かれたドアの隙間から中を窺う。引越し後のがらんとしたフロアのリノリウムの床に太いコンクリートの柱だけが目立って見える。その柱の陰に、仰向けに寝かされた少女の上に馬乗りに跨っている男の背中が見えた。男の背中から少女の白い腿が淫らに覗いていた。
 真穂は音を立てずに男の背後に歩み寄る。至近距離まで近づくと、真穂は男に飛び掛った。男の片腕を素早く捕らえると、横に身を転ばすようにして捩じ上げ、少女の身体から男を引き離す。
 「痛ててて・・・。何しやがんだ、このアマっ。」
 真穂は捩じ上げた腕を片手に取り、もう一方の手を男の背中の肩口にあてて、体勢を立て直すと、男の身体を引揚げて立たせる。
 「警察よ。少女暴行現行犯で逮捕します。」
 「何だってえ・・・。」
 厳つい形相でサングラスの男が真穂のほうを振り返ろうとするが、捩じ上げられた腕が痛くて、顔を上げることが出来ない。真穂は男の身体をフロア中央付近の柱に押し当てるようにすると、肩から手を離して胸ポケットの手錠を探る。
 ガシャリ。冷たい金属音が空虚なフロアに響く。真穂が暴漢の身柄を確保するまでは、あっという間だった。
 
「おい、姐ちゃん。おとなしくしなっ。」
 突然、背後から聞こえてきただみ声に、真穂ははっとした。振り向くと、何時の間にか現れた見知らぬ男が、犯されそうになっていた少女を押さえ込んでいて、その首元に光るナイフの刃を当てている。さっと合気道の身構えをするが、飛びかかれるまでの近さにはない。
 (もう一人居たなんて、迂闊だった・・・。)
 真穂は、内心で悔いてみるが、あとの祭りだった。非常に悪い形勢にあった。

 「おい、ゆっくり手錠の鍵を出しな。」
 ナイフを手にした男は不敵な笑みを浮かべながら真穂に命令する。手錠を掛けて確保したばかりの男はすぐ傍に蹲っていた。真穂は構えを緩めないまま、沈黙で睨みつけていたが、今は男の言うことを聞かない訳にはゆかないのは明らかだった。
 真穂は目の前の男から目を離さないようにしながら、手探りで、胸ポケットの鍵を探る。
 「手錠を外してやんな。」
 真穂はゆっくり床に蹲っている男の背後に向う。折角捕えた暴漢だったが、手錠を外してやるしかなかった。その後がどのような展開になるか考えて見るまでもなかった。真穂は唇を噛んて口惜しい思いをしながら、鍵を手錠の鍵穴に差し込む。
 手錠が外れると、蹲っていた男は真穂の手を払いのけるようにして立ち上がった。
 「ふえい、痛かったぜ。今度はお前が手錠を掛けられる番だ。それっ、さっさと手を出しな。」
 男は形勢が逆転した途端に、居丈高になった。おそるおそる差し出す真穂の手首をさっと取ると、捻じって背中のほうに回させ、後ろ手にさせて乱暴に手錠を嵌めてしまう。
 「痛いっ。」
 手錠を嵌めるのに、金具が一瞬真穂の手首を挟んだので、今度は真穂が悲鳴を挙げる番だった。手錠の輪ががっちりと真穂の手首に嵌め込まれたのを確認すると、男は後ろから真穂の襟首を掴み、下に引き下げるのと同時に真穂の膝の裏を蹴り上げる。
「あ、嫌っ。」
 一瞬バランスを失って、その場に尻餅をついて倒れ込む。短めのスカートの裾が割れて、下着が覗きそうになるのを、さっと脚をすぼめて隠す真穂だった。その裾の奥を男は覗き込むようにしながら、腰を屈め、床に落ちていた手錠の鍵を拾い上げ、ポケットにしまいこむ。
 「スペアの鍵はどこだ。」
 男が嫌らしそうな目付きで、真穂の身体を嘗め回すように見ながら言った。真穂は唇をきっと噛んで答えない。
 「そうかい。それじゃあ、身体検査、させて貰うとするか。」

身体検査

 (身体検査)と聞いて、真穂は身体を強張らせる。
 「ま、待って。言うわ。そ、そのショルダーバッグの中よ。」
 慌てて真穂はそう言ってしまった。こんな男達に、身体中をまさぐられるのは堪らなかった。
 男は振り向いて、床の隅に落ちていた真穂のショルダーバッグを見つけると、近寄っていって、それを取り上げる。
 「どれどれ、・・・。ふうむ。これは警察手帳だな。・・・。おう、あったぜ。」
 真穂は頼みの綱の手錠のスペアキーまで奪われてしまい、反撃する望みをまたひとつ失ってしまった。
 「立ちな。」
 男が顎でしゃくりあげるように真穂に命令する。真穂は手錠を掛けられた両手を背にして、男に向きながら、ゆっくりと立て膝で立ち上がろうとする。男の視線が短いスカートの裾が割れるのに釘付けになる。男の喉がごくりと鳴った。
 真穂は柱を背にして男に向き合っていた。男が一歩、真穂のほうに踏み出す。いきなり男の手が伸びてきて、真穂の胸の膨らみをスーツのジャケットの上から鷲掴みにすると、真穂の身体を柱に押し付ける。
 「あ、嫌っ。何するの。」
 「身体検査さ。他にスペアキーを持ってないか、武器とか隠してないか、ようく調べてやる。」
 「や、やめて。何も持っていないわ。」
 真穂の必死の懇願も虚しく、男は抵抗出来ない真穂の身体を服の上からまさぐってくる。両方の乳房を捕えていた片方の手は、胸から次第におりてきて、臍の上を通り越して、下半身へ滑り降りてくる。男の手がスカートの上から真穂の股間の恥骨の辺りを捉える。それは身体検査というよりは、痴漢行為そのものだった。
 「おい、余計な楽しみは後だ。変に抵抗されるといけないから、まずこれを付けておけ。」
 少し離れたところで、少女にナイフを当てていたほうの男が、真穂の身体をまさぐっていた男の方に向って、何やら投げて寄越した。飛行機の上などで配られるアイマスクだと、真穂はすぐに気づいた。
 「そうだな。女の口惜しがる目付きを見ながらのほうが楽しいんだが、変なことされちゃあ危ないからな。そらっ。こいつを嵌めるんだ。」
 男は足許からアイマスクを取り上げると、真穂の首に通して、目の部分をぴったり塞ぐ。
 視界も奪われて、最早真穂には反撃はおろか、身体を蹂躙されるのに抵抗することすら出来なくなる。
 「それからお楽しみはまだ駄目だ。若からきつく言い付かっているだろ。ポケットの中を調べるだけにしておけよ。」
 ナイフを持っていた男の方が、上らしいとやり取りから真穂は察した。(若)という言葉が何を意味しているのかは、まだ真穂には検討もつかない。
 「ちぇっ、もうちょっと楽しみたかったのによ。」
 そう言うと、名残惜しそうに、最後に恥骨の下のデルタゾーンを思いっきりぎゅっと一度だけ掴むと、男は真穂の下半身から手を離し、胸を掴んでいた手を真穂の上着の襟首の部分でしっかり掴んで、上着の内ポケットから順に探っていく。
 痴漢の逮捕だけなので、武器は手錠以外は携帯していない。しかし、そう言ったところで信じて貰えるとは思えなかった。上着のポケットが一通り探られたところで再び男の手が下半身に伸びてきたのを気配で感じる。太腿の前部分が掴まれたようだった。
 「ほう、白いパンティか。」
 男の声でスカートが捲り上げられたのを悟った。
 「スカートの下には何も隠していないようだな。よし、いいだろう。」
 男は最後に真穂の無防備な尻をスカートの上から、ぽんと叩くと、真穂の身体を放した。
 「あんまりゆっくりやっていると、若にまた怒られるから、手早くやろうぜ。ほら。」
 声から、ナイフを持っていた男のほうが声を掛けたのだと知った。何やらもう一人の顎鬚の男のほうに手渡したようだったが、アイマスクで視界を奪われているので真穂には何かは判らない。しかし、それは縄だったようだ。真穂の背後で手錠に通した後、胸の廻りをぐるぐる回され、身動き出来ないように縛り上げられた。更には余った縄尻が足首のほうにも回され、ぐるぐる巻かれていく。縄尻をきつく結び上げられてしまうと、真穂は立っているのがやっとで、歩き出すことさえ出来なくなってしまう。
 「口開けな。」
 顎鬚の男の声がしたと思うと、いきなり真穂は鼻を指でつままれた。息が苦しく口を開けざるを得ない。そこへ何やら布きれをぐいっと押し込まれた。うっすらと匂う香水のかおりから、ショルダーバッグに入れておいた自分のハンカチだと気づく。その上からさらに口を割る格好で、別の布切れが真穂の顔面に掛けられ、頭の後ろでしっかり結ばれる。口に入れられたハンカチとその猿轡で、真穂は声を挙げることまで封じられてしまった。
 男達が真穂の自由を次々と奪っていく間じゅう、真穂はナイフを当てられていた少女のことが気掛かりだったが、何時の間にか全く声も聞こえなくなっているのを不審に思っていた。
(自分が捕えられ、少女のほうは解放されたのだろうか。)
 アイマスクを着けさせられた真穂には、聞こえてくる音だけが、辺りの状況を掴む唯一の術だったが、少女の気配はまったく感じられない。

婦警運搬

 「それじゃ、こいつを被せて。」
 ナイフの男の声がしたかと思うと、いきなり真穂は頭から麻袋のようなものを被せられたのを感じた。それはとても大きな布袋のようで、二人掛かりで真穂の身体全体を蔽っていく。すっぽり身体全体が包まれてしまうと、男の手が乱暴に真穂を押し倒す。真穂は膝を折って何とか頭から倒れ込むのを防ぐが、縄と麻袋で身体の自由は効かない。身体を斜めにして何とか肩から倒れ込んだ。麻袋の口が真穂の足首を収めたところで、紐で括られて閉められたようだった。
 「せえのおっ・・・。」
 男らが声を掛け合うのが聞こえると、真穂の身体が宙に浮き男の肩に載せられたようだった。
 「おっ。重てえな、結構・・・。」
 顎鬚の男が真穂を担いだようだった。真穂は袋の中でもがくことも出来ず、為されるがまま、運ばれていくのだった。

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