妄想小説
監禁された女巡査
第二章 隠れ家
縛られて袋詰にされたまま車のトランクらしきところに押し込められて、かなり長い距離を走ったようだった。車のトランクに詰め込まれそうになる時、声を挙げてみたが、くぐもった呻き声が微かに出たに過ぎなかった。人通りの殆どない寂れた路地で、誰かが聞きとめてくれるとは思えなかった。
車に揺られて連れ去られていく間じゅう、真穂はいろいろ不審な点について考えていた。ひとつは途中から少女の声がすっかりしなくなったことだ。真穂が駆けつけた時は泣き叫んでいたようで、ナイフを当てられていた時は、恐怖に怯えてはあはあ息使いが聞こえていたように思う。それが何時の間にか物音ひとつ立てなくなっていたようだった。
もうひとつは、真穂を捕えて自由を奪うのに、妙に手際が良かったことだ。あっと言う間に何も抵抗出来ないように動けなくされてしまった。男が一人だと思い込んでいたうちは、真穂が男を捕えるのが自分でも手際良かったと思っていた。しかし、少女を人質に取られて形勢が逆転してからは、男達のほうが手際が良かった。手錠と口に押し入れられたハンカチは真穂のものだったが、アイマスクも身体を縛る縄も、身体全体をすっぽり蔽っている麻袋も最初から用意されていたとしか思えない。
二人目はいつ何処から現れたのかも不思議だった。少女と顎鬚を追っていた時には全く姿が見えなかった。最初から廃墟ビルに居たとしか思えない。
(まさか・・・。自分は誘き出されたのではないだろうか。)
冷静に考えると、最初から仕組まれていたとしか思えなくなってきた。そこまで考えついたところで、キィ―っというブレーキ音と共に、車が停まったようだった。
車の前のほうでドアが開く音が聞こえ、その後しばらくしてトランクが開けられたようだった。アイマスクと麻袋を通して、微かに光が感じられた。
「なあ、ここまで来たら、もうこいつに自分の足で歩かしてもいいんじゃないか。担いで運ぶのは重くて適わねえよ。」
さきほど自分を運んだらしい顎鬚の声が聞こえた。
真穂の身体は袋ごとトランクルームから引っ張り出され、そのまま乱暴に地面にドスンと落とされた。足許で袋を閉じてある紐が緩められ足首だけが引っ張り出される。足首の縄が解かれていくのが気配でわかる。
「逃げるといけねえから、足と足は歩けるだけすこし弛ませて縛ったままにしておけよ。」
ナイフの男が用心深く、相棒に注意している。真穂は暗闇の中で男等の注意深さに舌打する。
やがて、真穂の身体から麻袋が引き剥がされると、男はアイマスクも真穂の顎の下へ引き下げた。眩しさに目をしばたかせていた真穂だったが、次第に目が慣れてあたりの様子が判るようになる。真穂は最初何処かの森の中へ連れ込まれたのかと錯覚した。が、よくみると真穂が森と思ったのは、大きな屋敷の敷地に植えられた植え込みの木々であることに気づいた。屋敷は二階建てのそこそこの大きさのようだが、屋敷の敷地は相当広いらしく、森と見まがうのも無理もないような広さの庭木に囲まれていた。何処かの別荘のように見て取れた。
「そら、立ちな。」
顎髭の男は何時の間にか竹刀を手にしていて、それで真穂の身体を小突くようにして引き立てていこうとする。足と足を50cm間隔ぐらいに縄で繋がれていた。立って少しずつなら歩いて行けそうだが、走り出せば、忽ち転んでしまう。男の周到なやり方が真穂には恨めしかった。
真穂は男達の前で立ち上がると、余った縄を引き摺って、屋敷の玄関らしき方へ歩き始めた。その縄尻を顎髭がしっかり後ろから握って付いてゆく。
屋敷は洋館風の造りだが、矩形の形をしていて、一部三階部分があるニ階建屋のようだった。壁はブロックを積み上げたような工法になっていて、頑丈そうだ。内部は見て取れない縦に細長い窓を縁取る飾りが、洋館らしさを醸し出している。真穂は引き立てられながらも、辺りをさっと見回し、場所の確認をしようとしたが、屋敷を取り囲む高い庭木が見渡せるだけで、場所を特定できそうなものは何も見えなかった。
玄関は二階部分まで繋がった高い吹き通しの構造になっていて、二階部分の手摺の向こうから見下ろせるようになっている。玄関を上がるとすぐのところに両開きのドアがあって、その奥へ真穂は連れ込まれた。そこはおそらくその屋敷の中で一番広い部屋と思われるホールになっている。内部は山小屋風の造りで壁は細長い板張りで覆われている。普通の部屋よりずっと高い天井には太い白木の丸太が縦横に梁として通されている。そのホールの丁度中央辺りが縦横に伸びる梁の交点になっていて、そこに大きなホールを支える大黒柱のような太い柱がある。その真上の梁には大きな鉄製の滑車が取り付けられていて、鎖が大黒柱に沿って降りてきている。真穂はその真下に立つように命じられた。
「縄じゃなくて、鎖でその柱に繋いで置けよ。」
天井から垂れているのとは別の鎖が持ってこられて真穂が後ろ手に拘束されている手錠を潜らせて円柱に巻かれ、大きな錠前で留められた。大型犬などを繋いでおく用の鎖のようだった。先にがっしりと鎖で繋がれ逃げられなくしてから、最早無用となった縄が解かれた。足首を繋ぐ縄だけは、蹴りを用心しているのか解かれずに、これも柱に括りつけられた。最後にこれも大型犬用かと思われるような赤い革に鋲が打ってある幅広の首輪が持ってこられ、真穂の首に嵌められる。その首輪に付けられた茄環が天井から降りてきている鎖にカチンと嵌められると、真穂はしゃがむことすら出来なくされて、柱を背に立たされることになった。完全に柱に繋ぎ留めてしまうと、漸く真穂は口の猿轡を外された。ぐっしょりと濡れたハンカチから涎が一筋床へ垂れた。漸く自由になった顎が痛くて、すぐには声も出せず、はあはあと息をするのが精一杯だった。
「さてと、用意は出来たから、若に連絡しなくっちゃ。」
ナイフ男はポケットから携帯電話を取り出すと、会話を聞かれたくないのか、隣の部屋へ通じているらしいドアに向う。
「ね、待って。いったい、どういうつもり。私を拘束してこんなところへ連れてきて、いったいどうしようっていうの。」
真穂は何をされるのか判らない恐怖に、思わず叫んだ。
ナイフ男は真穂の声に一瞬立ち止まって振り向く。その顔がにやりとする。
「ま、すぐに判るさ。おい、マサ。変なちょっかい出すんじゃねえぞ。先に味見したりしたら、若にこっぴどく叱られるからな。」
「わ、わかってらあな、次郎兄貴。」
顎鬚がマサで、ナイフ男が次郎だということだけは判った。
「ちょっと・・・。ちょっと待って・・・。」
手錠と鎖で繋がれた真穂が言い難そうに語尾を濁した。
「あ、あの・・・。おトイレ、おトイレにいきたいの。」
最後は首を垂れて下を向いてしまった。
「ふへへへっ。こりゃあ、さっそくいいもんが見れそうだぜ。」
真穂の情けない言葉に小躍りして喜んだのは、マサと呼ばれた顎鬚の男だった。その言葉は素直に真穂にトイレを使わせて貰える状況では無さそうなことがありありと感じ取れる。
「マサ、ちょっと待て。若に相談してみるから、変な手出しはするなよ。おい、女警官。ちょっとの間、そのままで我慢してな。」
そういうと、次郎と呼ばれた男は、携帯を手にドアの向こう側へ向って行ってしまう。絶望に呉れる真穂にマサが近寄ってくる。うなだれている真穂の顎に手を掛けて、無理やり俯かせる。
「もう洩れちゃいそうなのかい、お嬢さん。」
「い、嫌っ・・・。」
男の嫌らしそうな目付きに、真穂は首を横にして逃れようとする。しかし、柱に括り付けられ、首輪まで繋がれた状態では逃れられる範囲はしれていた。どんな苦境に立っても立ち向かう凛とした気丈さを持ち合わせている真穂でも、生理的要求には勝てない。しかし、こんな卑劣な男たちの前で、粗相をするのだけはやりきれない気持ちだった。
真穂がマサという男のほうには、見向きもしないので、マサは少し離れると、真穂が立たされている真正面のフローリングの床にどかっと腰を下ろし、低い目線から繋がれた真穂をまじまじと眺め始めた。
「しかし、じっくり見るといい女だねえ。警官にしとくのは勿体ねえってもんだ。若のお許しが出たら、たっぷり可愛がってやるから、それまで待っとくんだな。」
いやらしい目付きで真穂の顔と腰周りを何度も繰り返し見やりながら、さも惜しそうに顎髭をさすっている。そのうちにも真穂のほうはもじもじと不自由な二本の脚を擦り合わせるようにして堪えている。
真穂には気が遠くなるほど長く感じられたが、次郎は5分ほどで部屋へ戻ってきた。
「もう若はこっちへ向ってるそうだ。それまで辛抱出来ないようなら、朱美に始末をさせろとさ。俺達は見るだけでも駄目だと、釘を刺されちまったから、なんもしちゃ駄目だぞ。」
次郎はマサに言い含めるように言うと、今度は真穂のほうへ向き直る。
「おい。まだ、我慢できそうか。女ポリ公。」
一瞬躊躇った真穂だったが、下を向いたままかぶりを振る。真穂には堪え切れない屈辱だったが、もう限界は近かった。
「おい、マサ。二階へ行って朱美に声を掛けてこい。お前は二階に居るんだぞ。俺は若を迎えに行ってくる。」
そう言うと、次郎のほうは玄関へ向う両開きのドアのほうへ向う。声を掛けられたマサのほうは、(チェッ)と舌打すると、さっき次郎が出ていったほうのドアへ向う。広々したホールに独り残された格好になった真穂だった。
不安と募り来る尿意に必死で絶えながら、もじもじと脚を擦り合わせている真穂の元へそおっと二階へ通じているらしいドアが少しだけ開くと、金色の茶髪に染めた髪をカールさせた化粧の濃い女が顔を覗かせた。どこかで見たような顔立ちだが、すぐには誰だか判らない。
柱に括りつけられている真穂の格好を確認すると、何やら背に隠し持ちながら女は真穂に近づいてきた。屈めばすぐに下着が覗いてしまいそうな短いレザーのタイトミニを穿いている。その大きく露わになった脚の先はピンヒールの赤いサンダルを穿いていて、上に羽織っているこれもビニルレザーの短めの赤いジャケットと合わせている。お洒落だが品が無いという印象を受ける。真穂の真正面に立って試すようにじっくり顔から足の先までを検分した女は、真穂の耳元へ顔を寄せた。
「おしっこが洩れそうなのですって?」
上品をそうに態と言うのが、却って真穂には惨めに思われてくる。しかし、その目の前の女に助けを求めるしか、真穂には手立てがない。
「お、おトイレへ行かせてください。」
やっとのことで、真穂は顔を赤らめながら目の前の女に頼み込んだ。
「ちょっと・・・。人に物を頼む時は、ちゃんと相手の目を見て言いなさいよ。」
朱美らしき赤い服の女は、ぴしゃりと打つかのように言い放った。その声に圧倒されて、顔を上げる真穂だった。長身の真穂に対して、朱美のほうはそれほど背は高くない。まっすぐ立てば真穂のほうが見下ろすようになる筈なのだが、募り来る尿意を必死が我慢するのに身を屈めているので、どうしても目線は上目遣いになってしまう。真穂は朱美に懇願するように言った。
「お、おトイレに行かせてください。」
「ふん、おトイレを使わせてくださいだろっ。」
真穂は口惜しさに唇を噛みしめる思いだったが、素直に従わざるを得ない。
「す、済みません・・・。お、おトイレを・・・、使わせてください。」
「うふふふ。そらっ。おトイレ。」
そう言って朱美が背後に隠し持っていたものを真穂の目の前に出す。なんとそれはガラス製の尿瓶だった。
「嫌っ、そんなもの。」
てっきりトイレに連れて行って貰えるものと思い込んでいた真穂は、あまりの仕打ちに気が動転してしまう。
「へえ、いいのかい。我慢出来るのかい。お洩らししたりしたら、あいつ等にこっぴどくお仕置きされてしまうんだよ。男達の目の前で垂れ流すのを見られないだけ良かったと思いなよ。さあ、どうすんの。おしっこ、するの、しないの。」
朱美に詰め寄られて、真穂は言葉を失った。(男達には見られないで済むのだ。)真穂は自分を言い聞かせるように、心の中で呟いた。
「判りました。お願いします。」
「そうら。最初からそう素直になりゃいいのさ。ほら、脚、広げなよ。」
朱美は真穂が脚を広げるのも待たず、真穂のタイトスカートをずりあげると、尻のほうへ手を回してさっさとパンティをストッキングごと膝上まで引き下げてしまった。
「ああっ・・・。」
情けなさに涙を浮かべる真穂だったが、尿瓶の口が股間に押し当てられると股を開かざるを得なかった。
ジョ、ジョビ、ジョビ、ジョビッ・・・。
真穂が耳を塞ぎたくなるような音が股の間から聞こえてくる。真穂はもう恥かしさに堪えられず目を瞑ってただひたすら股間の括約筋を緩めるだけだった。
立ったまま放尿をさせられるのは初めての経験だった。どうやっていいのか判らない。ゆばりは勢いがなくなっても、なかなか滴が垂れ落ちるのが止まらない。チャポーン、チャポーンと情けない音をいつまでも立て続けている。勢いをつけて一気に出してしまえばよかったのだろうが、初めて立ってする放尿で、勝手が判らなかったのだ。
「まあ、何時までも、ちょろちょろと糞切りの悪いオマタだねえ。あ、糞じゃなくておしっこかあ。あはははは。」
一番触れられたくないことを嘲られ、真穂は耳を真っ赤にして恥かしがる。しかし、今の状況の真穂には朱美に始末をして貰うしか手がないのだった。
「さ、いいかい。じゃ、ティッシュで拭ってやるよ。」
そう言うと、出したばかりの小水が微かに湯気を立てている尿瓶をこぼさないようにそっと床に置くと、何時の間にか手にしていたポケットティッシュから一枚取り出して真穂の股間を下からなぞりあげる。その刺激に思わず真穂はぶるっと身体を震わせてしまう。思わずでた仕草が恥かしいことを見せてしまったように思われ、堪らなくて真穂は横を向いて朱美の視線を避ける。
「ふん、犬みたいだね。」
またしても言われたくないことをずばりと言われてしまったと真穂は思う。股間を拭ったティッシュを尿瓶の脇へ置くと、朱美は真穂のほうへ向き直って、中腰の格好のまま、真穂の膝元から真穂のパンティとストッキングを引揚げようとする。立ったままされている真穂から見下ろすと朱美のパンツも丸見え状態になっている。おそらく普段から男の前でこんな格好を平気でしてしまう女なのだろうと真穂はちらっと思う。
(自分はそんなはしたない女ではないのだ。)と自分に言い聞かせようとするのは、今この女の前ではしたない格好を強いられた自分の惨めさを少しでも晴らそうとする思いからなのだった。
朱美は今度は黙って、真穂の下着を穿かせ終えると、ずり上がったスカートを元に戻す。真穂は自分の恥かしい粗相を男達に見られずに済んだだけでも良かったと思うことにしてほっとしていた。が、朱美の仕打ちはそれだけでは済まなかったのだった。朱美は中身の入った尿瓶と濡れたティッシュを床に置いたままで、部屋の隅へ行ってしまう。そこには腰の高さぐらいの木製の彫刻を施した台座の上に大きな花瓶が載せられて飾られている。その陶製の大きな花瓶を横へ下ろすと、木製の台だけを抱えて真穂の前へ戻ってきた。台座を真穂の真正面に据えると、床に置いてあった出したばかりの小水の入った尿瓶を、これみよがしに載せ、脇には股間を拭ったティッシュの丸めたままのものも、載せたのだった。
「ま、まさか・・・。」
朱美がしようとしていることを何となく感じて、真穂は青ざめる。
「じゃあ、あたしの役目は終わったからこれで失礼するわ。また逢いましょう、そのうちに。」
そう言い放つと、朱美は尿瓶を前に立たされた真穂を置き去りにして、二階へ通じるドアのほうへ出ていってしまったのだった。
立たされている真穂の目の前に置かれた中身の入った尿瓶とティッシュは誰が見ても、何があったかを想像させてしまうに違いなかった。真穂は置かされた仕打ちのあまりの屈辱に、気が動転して冷静に考える余裕を失ってしまっていた。いつもの冷静な真穂であれば、自分をそんな目に遭わせた化粧の濃い女が誰だったのかをすぐに思い当たっていた筈だったのだ。
その時に、ガチャリと音がして、玄関に誰かが入ってきたようだった真穂は自分の置かれた状況に、身体が強張るのだが、後ろ手で柱に繋がれた手錠と、天井から降りる鎖に繋がれた首輪が真穂の自由を完全に奪っていて、目の前の恥かしい尿瓶とティッシュ屑を隠すことも出来ないのだった。
玄関に通じる両開きのドアが開いて、入ってきたのは、さきほど出て行った次郎と呼ばれていた男と、それに着いて入ってきたのは妙に似合わない真っ黒なサングラスをした細身の男だった。歳の頃は見た感じからは未成年ではないかと思われる。(若)と呼ばれている由縁が判るような気がした。
その若が、次郎のほうに耳打ちすると、若はドアの前に残り、次郎だけが真穂の方へ近づいてきた。次郎はチラっとだけ真穂の目の前の尿瓶に一瞥を呉れただけで、それを通り越して真穂の前に立ち、首にまだぶら下がっていたアイマスクを引揚げ、再び真穂の視界を奪ってしまうのだった。
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