asako

妄想小説

狙われた優等生



第七章 美人教師に仕掛けられた罠


 学期末が迫っていた。圭子も成績付けの最終の詰めに入っていた。成績書の中で最も大事なものは指導要録と呼ばれ、生徒一人ひとりの個人的記録として保存される物である。これは一般には公開されないが、懲罰記録、個人性行まで全て記録される為、厳重に鍵を掛けた金庫に保管されている。学期末のこの時期だけ、各クラス担任の教師によって管理され書き足されるのである。
 圭子もあと、この指導要録の記載のみを残すばかりとなった。残業までして頑張ったのだが、半分しか終わらなかった。残った先生も一人帰り、ふたり帰りして、最後になってしまった。
 圭子が学園を出た時はもうすっかり暗くなっていた。圭子は残った指導要録をバッグにしっかりしまうと、学園の門を出た。
 圭子の下宿している家までは二○分ほどの歩きである。途中、ひと気のない寂しい処も通るので、得意にしている剣道の竹刀を持って通っている。竹刀を手にしていれば、怖いものなしである。
 橋を越えると川沿いに畠の中の一本道で、そこは最も淋しい場所だった。葦が背高く茂っているので見通しも効かないし、そばに民家も無い。街灯もまばらにしかない。次の橋に辿り着くまでのこの道が、圭子も最も嫌いな場所だった。
 その厭な道を半分ほど来たところで、突然女の悲鳴が聞こえた。聞き覚えのあるような声であるような気がした。
 (土屋麻子、. . . )
 圭子は竹刀を握りしめると声のする葦の薮のほうへ走り出した。
 「やめて、助けて。」
 すぐそばでセーラー服の女子高生が押し倒されている。紺のジャンパースカートはもう殆どまくれ上がっていて、白い下穿きが丸出しになっていて、男が二人、三人、上にまたがっている。
 「あなたたち、やめなさい。」
 圭子は竹刀を振りかざして走りよった。と、突然、圭子は何かに足をとられた。慌てていた為、もんどり打って転がってしまった。足元に縄が張ってあったのだ。
 が、持ち前の運動神経で肩から一回転すると、すぐに体勢を立て直して立ち上がる。しかし、その時には男達の姿は消えていて逃げ去ったあとだった。
 圭子は麻子を抱き起こした。麻子は両手を背中で縛られていた。首にはさっきまで掛けられていたらしい猿轡の手拭いが巻かれている。

 「大丈夫、麻子さん。」
 「ええ、ありがとう。高野先生。」
 「いえ。でも、いったいどうしたの。」
 圭子に聞かれて麻子は細々と話し出した。
 「わたし、学校の帰りに狙われたんです。男等三人が後ろから付いてきて、突然羽甲斐締めにされて、. . . 。それから、縛られて、目隠しされて、口には猿轡までされて、多分ここへ連れてこられたんだと思います。そして、ここに寝かされて、. . . そしたら急に何もしなくなって、ずっとここに寝かされていたんです。そしたら、先生の来る気配がして、急に猿轡を外されて、. . . それから犯されそうになったので大声を出したんです。」
 (何か、変だわ。. . . もしかして、罠。)
 急に圭子は指導要録のことを思い出した。慌ててさっきの道に取って返す。自分のバッグを捜したが何処にも無かった。必死になって捜すが、ある筈は無かった。
 「どうしたの、先生。」
 後ろで麻子が心配して声を掛けた。
 「やっぱり、. . . 。いえ、何でもないの。送っていくわ。」
 圭子は麻子の肩を抱いて歩きだしたが、心は別のところにあった。

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