妄想小説
狙われた優等生
第四章 テニスコートでの対決
その日は学園中が放課後の美沙子と美鈴の試合のことで持ち切りであった。応援は、全く半分に分かれていた。
普段から美鈴等の横暴に腹を立て、何とかしなくちゃと思っていた生徒等と、そうは思いつつも美鈴等の仕返しを考えると様子を見ようとるす体制派とにである。
生徒等は放課後にやるや否や、テニスコートのまわりに集まっていた。先生達には固く塞口令がしかれていたので、その話は洩れていない。
審判は美沙子等のクラスの副委員になった荒木が頼まれて立った。この学園にはテニス部は女子のものしか無かった。荒木は運動は余り得意では無かったのだが、ルールにだけは他の誰よりも精通していたからである。
荒木の「プレイ。」の声とともに、美鈴のサーブで試合は始まった。
前半は全く互角であった。どちらも譲らずにサーブゲームをお互いにキープしあった。 一対一のセットを取り合った第三セット目から美沙子が作戦を替え、さかんにネットプレーに出てきたのが美鈴の調子を狂わせ、ポイントを徐々に美沙子が奪っていった。
3ゲームを美沙子が先取し、コートチェンジした際に、美鈴の取り巻きの一人である奥野が、仲間の男子生徒に耳打ちをしていた。男等は美沙子がレシーブを受ける真後ろに回っていって陣取った。
美沙子がサーブを受ける為に構えているときに、後ろから男等の厭らしい声が聞こえてきた。
「おい、あの川野って女。アンダースコートの股のところから毛がはみ出ているぜ。ラケットを振ってスコートがまくれ上がった時によく見てみろ。黒い恥毛がパンティの脇にはみ出ているのが見えるぜ。」
「えっ、ほんとかよ。どれどれ。おおっ、もうちょっとで見えそう。」
美沙子はハッとなった。(まさか。)と思う。だが、試合中に調べてみる訳にもいかない。男たちの視線が自分の股間に集中しているのが気になってしまう。
その時強烈なサーブが美沙子の左を突いた。とっさにラケットを出したが一瞬遅れた。
「おっ、見えたぞ。みえたぞ。やっぱ、ほんとだ。黒い毛がはみ出てる。」
「サービスエース。フィフティーンラブ。」
(しまった。)と思った。後ろで男達が、さらに他の男に教えているのが美沙子の耳にも聞こえてくる。膝上三○センチの超ミニのスコートだから、隠しようもない。まして強烈なサーブを受けていれば、そのスコートが翻って下着を覗かれてしまうのは避けようもなかった。
次のサーブを受ける前に、美沙子がチラッと後ろを振り向く。何と、男たちは地面すれすれに這いつくばるようにして、下から美沙子のスコートの中を覗き込んでいる。
次のサーブが来た。かろうじて返したもののボールは大きくラインを割っている。
「アウト。サーティラブ。」
結局、男達の厭らしい言葉と視線に悩まされ、美沙子はこのゲームを落した。
土屋麻子が駆け寄ってきた。
「どうかしたの、急に。」
「ううん。何でもないのよ。大丈夫。」
そう言って美沙子はコートに出る。テニスシューズの紐を直す振りをして屈むと、自分のスコートの中を覗き込んだ。
(よかった。)アンダースコートから毛などはみ出てはいなかった。
男達の策略と分かると、もう美沙子は一切男等の視線も気にならなくなり、試合に没頭した。次のゲームは再び、簡単に美沙子が奪った。
「まずいわ。こうなったら、最後の手段ね。」
コートサイドで美鈴の取り巻きの奥野が隣の斎藤に囁く。
四対一であと二ゲーム先取すれば美沙子の勝ちというところで、持ってきた水筒からスポーツドリンクを口にした美沙子が再びコートに立った時、足元が少しふらつくのに気付いた。
(どうしたのだろう。めまいかしら。こんな大事な試合の時に。)
美沙子は少し不安になった。
次のゲームでは、美鈴は徹底的にボールを左右に振ってきた。いつもの美沙子のフットワークなら難無く返せる球だった。が、何故か脚が着いていかない。
左右に振られると、段々足元がもつれるようになった。その美沙子の脚さばきを見越した美鈴が、美沙子のバックへ鋭いパスを入れると、とうとう美沙子は自分で自分の足を引っかけて転んでしまった。伸ばした手で何とかボールを拾って返したものの、甘い絶好球が美鈴の前にフワッと浮かんだ。
次の瞬間、鋭い音と共に強烈なスマッシュが美沙子の腹の真ん中めがけて飛んだ。
美沙子は両手、両脚を突いていて避け切れなかった。堅い硬球が美沙子の腹にめりこむように当たると、気が遠くなりそうだった。
必死の思いで美沙子は立ち上がった。が、ダメージは大きかった。それからの試合は全く一方的に運ばれた。
四対一のあと、美沙子は 一セットも取れずに逆転負けを喫したのである。
次へ 先頭へ