妄想小説
狙われた優等生
第十四章 美沙子の作戦
「美沙子さん、どうしよう。西尾たちから呼び出し状が来ちゃったの。」
「やっぱり、そう・・・。」
「誰にも相談するなって書いてあったけど、先生に相談したら自分が代わりに行くって言いかねないし・・・。」
「そうね。それがあいつ等の本当の目的だろうしね。いいわ。私に任せて。私に考えがあるから。」
美沙子は土屋麻子も呼び出して、三人で入念に打合せをするのだった。
西条かおりが呼び出されたのは、西尾たちがアジトにしている例の古民家だった。かおりもそこに空き家になった古い家屋があるのは知っていたが、西尾たちがそこをアジトにして悪事を働いていることまでは知らなかった。が、土屋麻子は噂で西尾達がそこに出入りしていることを事前に嗅ぎつけていたのだった。
呼び出し状が届けられた翌日の土曜日午後、西条かおりはたった一人で古民家のある屋敷の門の前までやってきた。敷地のぐるりを囲む高い塀から中に唯一入ることの出来る古い冠木門の脇に取り付けられていた呼び鈴をかおりは何度も躊躇した後に意を決したようにやっとのことで押したのだった。
暫く間があって、冠木門の木戸を開けて出てきたのは、柄の悪そうな学ラン姿の男たち、三人だった。三人がかおりの周りを囲うように立ちはだかる。その時、かおりの背後から鋭い声がかかった。
「駄目よ、かおりさん。行っては駄目。」
男たち三人が振り向くと、そこに居たのは竹刀を手にした制服姿の川野美沙子だった。
「かおりさん。さっ、こっちへ来て。私の後ろへ。」
美沙子は男達に竹刀の先をきっちり向けたまま、かおりを呼び寄せる。
「てめえ、何邪魔してんだよ。」
男の一人が美沙子の竹刀を奪い取ろうと手を伸ばしてきたところに美沙子の強烈な小手が決まった。
「あいてて・・・。」
「おい、お前。中から竹刀、三本もってこい。」
男の一人がさっと木戸を潜って竹刀を取りに屋敷の中に入る。その間、美沙子は男ふたりと対峙し、一瞬の隙も見せない。
「さ、今のうちに逃げて。あとは私に任せて。」
「あ、ありがとう。美沙子さん。」
小走りに逃げていくかおりを男たちが追掛けようとするが、それを美沙子の竹刀が完全に制する。さっきの見事な小手打ちを目の前で見ているだけに、さすがに男二人でも素手では手が出せない。
屋敷に戻った男が竹刀三本を持って戻ってきて、一本ずつを男たちに手渡す。竹刀を構えて男三人が美沙子に詰め寄るが、美沙子の構えに隙がないので迂闊に手が出せない。
「うりゃあああ。」
大きな掛け声と共に、男の一人が美沙子に討ちかかってきたが、美沙子の一振りで竹刀を払われて小手を浴び、竹刀を取り落としてしまう。
「く、くそう・・・。」
一打を浴びて手が痺れた男は、自分が落した竹刀を拾い上げることも出来ない。
「くらえっ・・・。」
もう一人が大上段に振りかぶってから美沙子に討ちかかってくるが、さっと身を交した美沙子から腹にもろに胴を打たれて、その場にしゃがみ込んでしまう。
もう一人は二人があっと言う間にやられてしまったのを見て、もう打ち込む気力も萎えてしまったかのようで、竹刀の先を小刻みに震わせるだけで攻撃も出来そうにもなかった。
その時、背後で冠木門の木戸が開いて、西尾が竹刀を手に出てきた。
「どけっ。お前らじゃ無理だ。俺が相手になってやる。」
西尾は多少の覚えがあるようで、構えは隙がない。美沙子も今までのようにいく相手ではないとすぐに悟り、竹刀を得意な八相の構えに立て直す。西尾のほうも、隙のない構えの美沙子になかなか剣先を繰出せないでいた。
その時、西尾の後ろの方で蹲っていた三人がポケットから何やら取り出していた。西尾の方に隙を見せないようにしながら、ちらっと後ろの三人に目をやった美沙子の目に閃光が走った。
「うっ、まずい・・・。」
男達がポケットから取り出したのは小さな手鏡だったのだ。太陽を背に構えている美沙子の顔めがけて男達三人が一斉に鏡で太陽の光を浴びせたのだ。
一瞬目が眩んで片手で防いだ所へ西尾の容赦ない小手が美沙子を襲った。手首に走る激痛に、今度は美沙子のほうが竹刀を取り落としてしまう。慌てて拾おうと伸ばした手にも西尾の竹刀が振り落された。
「ううっ、ひ、卑怯よっ・・・。」
西尾に竹刀を蹴り飛ばされて、最早美沙子は素手で西尾に対峙せざるを得なくなる。その美沙子の退路を塞ぐかのように男三人が美沙子の背後に走り込んできた。しかも何時の間にか、投網のようなものを持ち出して美沙子の背後で広げ始めたのだ。
逃げ場を失った美沙子に最早真剣勝負は不要とみたのか、遊び半分に竹刀を振り回してくる。振られてくる竹刀を身を交して除けるのだが、次第に美沙子は網のほうへじりじりと追い詰められてゆく。
「せーの、そりゃあ。」
男の一人が揚げた掛け声と共に、美沙子の頭の上から広げられた網が降ってきた。前には竹刀を向けた西尾が居て、美沙子に逃れる場はなかった。頭から網の下でもがく美沙子だったが、男三人が巧妙に網を引き絞ってくるので、とうとう美沙子はその場に網に包まれて引き倒されてしまう。
「おい、誰かこいつを縛る縄を持ってこい。」
(縛られる・・・。)
窮地を予感した美沙子だったが、もはやどうにもならないことを悟ったのだった。
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