asako

妄想小説

狙われた優等生



第二章 美しき優等生

 
 圭子と時を同じくしてこの学校へ転校してきた生徒がいた。
 川野美沙子は都心の名門女子校から移ってきたのだった。美沙子の清楚なたたづまいは将にお嬢様学校の良家の子女そのものであった。しかも、優等生であるという評判が、それでなくても起きうる田舎の女子高生たちの嫉妬心を煽った。
 美沙子は、鷹見美鈴のいるクラスに組み入れられた。そのことが、美沙子にとっては不運な偶然であったことは、彼女の知る由もなかった。
 美鈴は、美貌においても、成績の優秀さにおいても、スポーツの得意さにおいても、そして学校中の支配力においても誰にもひけをとらない人生を歩んできていた。
 が、そのすべてのことを揺るがそうとする存在として美沙子が転校してきたのだった。闘いは、新学期最初のイベントであるクラス委員選挙に始まった。

 それは男子生徒のほんの冗談から始まったものだった。聖和泉学園の美鈴のクラスでは学期の初めに行なわれる学級委員の選挙は恒例の行事といってよかった。これは学園を実質的に支配している美鈴への忠誠を示させる一種の踏み絵のような意味があった。
 すなわち、正学級委員には必ずといっていいほど美鈴が選ばれることになっていた。そのくせ、学級委員としての仕事は美鈴は一切せず、一緒に選ばれる、いい男の副学級委員に全部やらせているのだ。
 それが、今回に限っては違っていたのだ。男子生徒の一部が悪戯に、転校してきた日美少女に票をいれて見ようと言い出したのが始まりだった。
 男子生徒の心理としては、いつもいつも馬鹿みたいに美鈴への忠誠を尽くすことを示すために票を美鈴にいれさせられていたことへの反抗の気持の表われだったのだろう。
 が、自分だけと思っていた行動が、実は何人も同じことをしたものがいたのだった。

        
 「それでは、これから開票を始めます。えーっと、鷹見美鈴さん。次も、. . . 鷹見さん。又、鷹見さん。. . . 」
 例によって美鈴の名が何度も続けて呼ばれていく。それを美鈴は後ろのほうの席でふんぞり返って、さもくだらないことが続けられていると言わんばかりに鼻をならしている。
 「次も、たか、. . . あ、違った。川野美沙子さん。」
 自分以外の名が呼ばれたのに、美鈴はピクッと頬を引きつらせた。
 「次、. . . 、も、川野さん。それから次も川野さん、 . . . 」
 次第に美沙子の名前の数が美鈴の名前の数に近づいていく。教室内がざわついてきた。美鈴の顔が蒼ざめている。
 美沙子の票と美鈴の票が丁度同数になったとき、最後の一枚になった。
 読み上げている優等生の男子生徒、荒木大二郎の声が震えた。
 「さ、最後の一枚は、. . . か、川野美沙子さんです。」
 教室中の全員が美鈴の顔と美沙子の顔を見比べる。美沙子は前の学校では委員に選ばれることは多かったが、初めて来たクラスで知らない者ばかりなのに自分が選ばれてしまったということに当惑していた。
 美鈴はすっかり逆上していた。もはや、黒板のほうを見ようともしていない。
 「そ、それでは正学級委員が川野さんに選ばれましたので、続いて副委員を選挙したいと思います。じゃ、秋川君。用紙を配ってください。」
 その時、教室の後ろで美鈴がすくっと立ち上がった。
 「冗談じゃないわ。こんな茶番劇。いいこと、副委員に私の名前なんか出したら承知しないわよ、いいこと。」
 美鈴が教室の後ろの扉から出て行こうとすると、取り巻きの不良女子生徒の数人が美鈴に付きしたがった。美沙子には何が何だか分からず、ただ呆然とするばかりであった。

 結局、学級正委員には美沙子が、副委員には荒木が選ばれてしまった。
 美鈴等が居なくなってしまった教室で、美沙子は就任の挨拶をする。
 「この学校に来たばかりで、何も分からない私です。うまく出来ないこともいっぱいあると思います。特にこの学園のしきたりのようなものは全然分からないし戸惑うばかりです。けれども皆さんの為に一生懸命がんばりたいと思いますので宜しくお願いします。」
 美沙子の爽やかな挨拶は教室じゅうの特に男子生徒等の大いなる歓迎の拍手喝采を呼び起こした。が、その中に、何か白々しい冷たさと、不吉な予感を感じたのは美沙子ばかりではなかった。

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