妄想小説
狙われた優等生
第三章 美鈴と美沙子の反目
学園中は、新任の美しいが腕っぷしの強い女教師と、都会的なセンスの美貌の転校生の噂で持ち切りだった。が、新任女教師は西尾にとって、美人転校生は鷹見美鈴にとって、全く面白くない存在だった。
美沙子と美鈴のその後の衝突は、テニス部で起こった。
美沙子はテニスが得意で、前の学校でもクラブで主将をしていた。だから、新しい学園でもまず何はともかくテニス部に入るつもりであった。
が、入部手続きをしていざ練習を始めてみると、テニス部は全くの野放図の状態にあることが分かった。テニス部の部員たちは、殆どどうやって練習したらいいのか分からない状態だったし、練習の仕方そのものも全く出鱈目だった。
美沙子は持ち前の指導力で、見る間にクラブの中でリーダーシップを発揮しだした。
美沙子の指導のもとで、女子部員たちは練習に精を出していた。
「そう、もっと前へ出て。違う、もっと突っ込んで、そう。. . . じゃあ次。いくわよ。」
女子部員たちは、美沙子に指導されると何だか巧くなっていくような気がするようで、余計に頑張ろうとするのだった。
しかし、それも長くは続かなかった。
「あっ、部長よ。」
ボレーを受けようとしていた土屋麻子が突然叫んだ。
その声に、今まで整然と練習をしていた女子テニス部員等が皆浮き足立った。
誰かが、(整列。)と声を掛けると、美沙子を残して全員がテニスコートの入り口に走っていき、一列に並んで、美鈴とその取り巻きの練習を迎えた。
「部長、おはようございます。」
「部長、おはようございます。」
女の子たちは深々と頭を下げると、体育会系の運動部そのものの旧態然としたやり方で部長を迎えている。
その前を美鈴は悠然と通りすぎると、唖然として立ち尽くす美沙子の前につかつかとやってきた。
「わたしの部で随分といい気になって、リーダー面しているのね。. . . いったい誰に断わってそんな真似しているのかしら。」
美鈴の言い方は最初から挑戦的であった。
「あら、あなたが部長だなんて思いもしなかったわ。」
美沙子はこの非民主的なやり方が許せないと思った。そして、何とかこの部を自分の手で改革したいと思いだした。
「いまどき、こんな昔流のやり方のテニス部なんて、見たことないわ。」
「へえ、あなたが部長でもないのに、そんなに偉そうに部を指導しているからには、かぞかしテニスが上手なんでしょうね。どう、私と勝負しない。それで貴方がもし勝ったらこのテニス部は貴方の思いどおりに指導してくれて結構よ。」
「いいわ、受けて立つわよ。こちらも望むところだわ。」
「その代わり、もし貴方が負けたらどうする。わたしの命令にすべて従うと約束できるかしら。」
美鈴は挑戦的な目で美沙子を睨んでいる。美沙子も負けず嫌いの性格である。
「いいわよ。もし、わたしが負けたらね。お互い約束は守りましょう。」
「それじゃ、試合は明日の放課後よ。いいこと。」
それだけ投げつけるように言うと、美鈴はくるりときびすを返してテニスコートから出て行ってしまった。
「大丈夫なの、川野さん。あれで、部長は結構強いのよ。あの人の家には自分用のテニスコートがあって、子供の自分からずっとテニスをやているっていう噂よ。」
土屋麻子が心配そうに駆け寄ってきて言った。
「さあ、大丈夫と思うわ。わたし、自身はあるの。ねえ。じゃ、明日の為に、私の練習に付き合って下さらない。ええっと、土屋さん。」
美沙子は麻子相手に特訓を開始する。美沙子の強烈なボレーは、麻子に(これなら部長に負ける筈はないわ。)と安心させるような凄いインパクトがあった。
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