妄想小説
狙われた優等生
第十六章 大逆転
美沙子は顔を上げられないでいた。啖呵は切ったものの、さすがに自分から男の物を咥えるのは躊躇われたのだ。
(麻子・・・。まだなの。)
その時、ジリジリジリとけたたましい火災報知器の音が鳴り響いた。奥のほうから煙が何時の間にかもくもくと立ち上っていた。
「やべえ。火事だぜ。」
男達は一斉に慌てふためいて右往左往している。慌てて裸足のまま、縁側から土間に降り立ったものも居る。
「おい、誰か見て来い。」
西尾が声を立てるが、皆怖がって煙のほうへ向かうものが居ない。煙がどんどん部屋に充満してくるので、ゲホッ、ゲホッと咳をしながら一人、二人と外へ向かい始めた。
「畜生、何してんだ。」
とうとう西尾自身が立上って煙の出てくる方へ向かおうとする。その足許を強力な払いで竹刀が一撃した。
「あううっ・・・。だ、誰だっ。」
煙の中から現れたのは高野圭子本人だった。そのすぐ後ろには土屋麻子と西条かおりが控えている。向う脛をしたたかに打たれて、西尾は立上ることも出来ないでのたうちまわっている。その脇を土屋麻子が擦り抜けて縛られている美沙子のもとに走り寄った。
「もう大丈夫よ。あれは全部回収したから。」
すぐに麻子は美沙子の戒めを解く。西尾以外の男達は何時の間にか全員姿を消していた。
圭子たちが仕掛けた発煙筒の煙が次第に薄くなってきた場所に残っていたのは救援に駆け付けた圭子と、写真とテープをしまいにくるのを見計らって取り返しにきた土屋麻子と西条かおりの三人に、美沙子と西尾だけだった。一人残された西尾を逆に後ろ手に縛りあげ梁から下したローブに繋ぎ留めるのは美沙子が引き受けた。圭子から散々受けた打撃で、最早西尾は抗う気力も腕力も失っていた。
「よかったわ。間に合って。」
「大丈夫よ。まだか、まだかとは思っていたけど、いざとなったら男何人かくらいはペニスを咥えてやって時間稼ぎをするつもりだったから。でも意外と早く写真とテープの場所を口にしてくれたので助かったわ。」
そう言って美沙子は見つからないようにブラジャーの背中部分に縫い込んでいたワイヤレスマイクを取り外す。かおりだけ逃がして、その後自分が捕まるのは作戦のうちだった。古民家の裏に潜んで貰っていた圭子先生と麻子に合流したかおりたちが、美沙子のブラジャーのマイクから流れてくる男達の言葉をイアホンで聴き取りながら、写真とテープを奪還し美沙子を救出するタイミングを計っていたのだった。
写真とテープを西尾の部屋と目される奥の洋室に運び込んだのを確認した圭子がドアの脇に潜んで出てきた男にスタンガンの一撃を加え、気絶したところで部屋から写真とテープを取り返したのだった。後は発煙筒を焚いて男達を慌てさせ、美沙子が繋留されている座敷に突入するだけだった。
部屋には縛られて繋がれている西尾ひとりしか男は残っていなかった。
「まだ、全部は終わっていないわ。最後の大事な儀式があるの。」
そう西尾に向かって言い放ったのは美沙子だった。
「ここから先は、先生には立場ってものがあるからちょっと退出して頂きたいの。」
圭子はその先の事は知らされてはいなかったが、何となく察してはいた。
圭子は美沙子に頷いてみせてから、部屋を出ていった。
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