接待a

妄想小説

恥辱秘書






第十二章 忍び寄る脅迫者


 五

 秘書室にほど近い、役員会議室の扉を少しだけ開けて、外の様子を窺がっていたのは美紀だった。裕美が走ってきて、受話器を取って一声あげたタイミングで電話を切るように指示されていた。そぐそばの秘書室で裕美が落胆にうなだれているのが手に取るように感じられた。嘗て同じ手段で芳賀に弄ばれた自分には、裕美の気持ちがよく分かった。しかし、不思議に可哀相という気持ちがあまり浮かんでは来なかった。裕美が憎いわけでは決してないと美紀も思う。が、幸江の時を初めとして、誰かを陥れている時に、自分にはそれまで経験のない不思議な感覚が沸き起こってくるのを、美紀は確かに感じ始めていたのだ。

 そのうち、裕美は自分が残してきた下着が気になって、確かめに行かねば気がすまない気持ちになってくるだろうことを美紀は自分の時の経験から判っていた。しかし、その下着は今頃芳賀の手で回収されている筈だ。裕美を呼び出すメールを出したのは、美紀だった。大きなシナリオは芳賀から指示されたものではあった。男らしい口調になるようにという注意も受けていた。メールを打っていて、スラスラと文章が出てくるのは自分でも不思議だった。昔の自分の経験をなぞっているだけだからかもしれなかった。

 ドアの隙間の向こうに、裕美がふらふらと辺りを窺がいながら出て行くのが見えた。体育館へもう一度行くつもりなのだろうと思う。この日の美紀の役目は終わった。決して焦ってはならないと芳賀から指導されていた。
 「もしかしたら、状況は好転するかもしれないという淡い期待を持たせるように、じっくりと追い詰めてゆくんだ。」そう、芳賀は指導していた。
 (自分もそうやって追い詰められ、言いなりになるように仕向けられていったのだ。)と思うと、芳賀をつくづく怖いと思う美紀だった。

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