妄想小説
恥辱秘書
第十二章 忍び寄る脅迫者
二
メールには本文はなく、ただ添付写真が付いているだけのものだった。裕美が使っているメールは会社の標準のものだったが、添付写真が付いている場合は、自動的に展開して表示してくれるタイプのものだった。
そのメールに添付されていた写真は、見覚えのある部屋の風景だった。その真ん中に一人の女が脚をあられもなく開いていて、下着はつけていない。見覚えのある薄ピンクのツーピースのスーツは紛れもなくあの日、自分に身に着けていたものだった。顔は斜めにこちらを向いているようなのだが、目の部分が黒く塗りつぶされていて、はっきりとは判らないようになっている。が、その状況を知っている自分には間違いなくあの時撮影されたものだということがわかった。
震える手でそのメールを削除した裕美だったが、心臓の高鳴りはどうしても収まらなかった。目をつぶると、その画像が瞼に浮かんでくる。
(もっといろんな写真も撮られているに違いない。やはり沢村なのだろうか。いや、沢村がこんなものを送ってくるとは思えない・・・。いったい誰が・・・・。)
再び堂々巡りの自問自答が裕美の頭の中で繰り返される。
そして次のメールが来たのが、お昼休み近い午前11時半のことだった。今度のメッセージにははっきりと、指示と命令が書かれてあったのだ。
「さるルートから仕入れた、お前に関する画像を入手している。14時きっかりに、お前の会社の体育館奥の男子トイレの真ん中の個室に来い。俺はお前の会社の内部にも精通している。誰にも言わず、独りでくること。 情報屋」
再び、裕美の身体が震えた。
(情報屋とは、何だろう。・・・さるルートとは、何のことなのだろう。・・・どこまでのものを持っているというのだろうか。しかし、あの一連の写真のことには違いない。)
会社の体育館は一般にも開放されていて、夜などには地域のママさんバレー部や少年剣道部などが練習に使っている。昼間は殆ど使われることはなく、がらんとしているが、会社内からも、外部からも出入りは自由に出来るというのも、知っていた。裕美自身も会社の大きな行事の手伝いで、何度も行ったことがあった。
昼休みは気もそぞろで、昼食を採る気にもならなかった。ただ、独りで同じことばかり考えていたのだ。出向かない訳にはゆかないと思っていた。
(何を要求されるのだろうか。金、・・・。身体だろうか。・・・警察?いや、駄目だ。そんなこと、どんな恥ずかしいことが明るみにされてしまうか判らない。)
午後2時までの時間は、蝸牛が這うように長く感じられた。気持ちは揺れ動いていたが、とにかく行って逢ってみるしかないと決心だけはしていた。裕美の想像は、黒い眼鏡を掛けたヤクザ風の男が現れ、脅しをかけてくるのだろうと思った。
(何か言ってきたら、大声を上げるわよと言うのだ。警察を呼びますというのもいいかもしれない。外部の人間が入れる場所といったって、会社の敷地内だし、守衛も近いから大声さえ出せば、きっと駆けつけてくれる筈だわ。)そんなことが、せめてもの裕美の気休めだった。
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