妄想小説
恥辱秘書
第十二章 忍び寄る脅迫者
十五
「今日は何度も逢うわね。何か捜し物?」
「ええ、まあ。ちょっと、頼まれて・・・。」用意しておいた答えでとりあえず取り繕う。あの男がやってきた時に美紀が居るのはちょっとまずいと思った。
「だいぶ、掛かるの、まだ?」
「ええ、そうね。なかなか終わらなくって。何かここであるの、裕ちゃん?」
「いえ、・・・別に、そういう訳じゃないけど・・・。」
裕美は何か言葉を継がなくてはと思った。
「なんか、ずっと根を詰めてやってるみたいだったから・・・。大変だなって思って。」それ以上うまい嘘が思いつかなかった。
「いいわよ。私に構わず捜し物、しちゃって。」
そう言うと、手元の書類とパソコンのほうに目を戻す美紀だった。裕美は仕方なく、書棚の中で書類を捜す振りをする。変だとは思った。
(外部の知らない人間がどうしてこんな場所で、鍵を渡せるのだろう・・・。)初めて、裕美は落ち着いて頭を使って考えようとした。
(もしや・・・。)
思いつくと、なるべく何気ない風を装って、ゆっくり美紀の見えるところまで戻る。
「ねえ、深堀さん。何か、預かってないよね。」
急に顔を上げた美紀は本当に不審そうな顔をする。
「預かるって、・・・何を。」
ドキッとした。(違うのだ。)裕美は、また何か言い繕う言葉を捜さねばならなかった。
「いえ、ちょっとある物を捜していて。誰かが届けてくれることになっているんだけど、誰だったか忘れちゃって。」
「へえ、何。大事なもの。裕ちゃんの?」
裕美は返事に窮した。早く話題を変えねばと思った。もう約束の3時も近いはずだった。その間にも股間に嵌められた筒がうずいていた。
(もし、今夜もこれを嵌められたままだったら・・・)そう思うと絶望的な気持ちになる裕美だった。
(もし、深堀さんが邪魔で、あの男がここに来れないのだとしたら、・・・)何としても美紀を何処かへ行かせねばならないと思うのだが、いい案が思いつかない。裕美も切羽詰まっていた。
「深堀さん、あの、・・・」と切り出そうとしていた瞬間だった。突然、美紀が大きな声を上げた。
「そうだった。裕ちゃん。さっきのアレ。もしかして鍵のことじゃない。」
裕美は背中から冷水を浴びせられたような思いがした。心臓が止まりそうだった。
「え、ええ。そ、そうよ。知ってるの。」
「まさか、あのことだとは思わなかったから。ごめん、ごめん。私、預かってたわ。」
「そう、よかった。・・・で、誰から預かった?」例の男を探り当てる手掛かりを得ようと、一歩詰め寄ってみる。
「やだあ、だってあの鍵っていったら決まってるじゃない。え、あれじゃないの・・・。」
とぼけて、美紀も手の内を明かさない。再び窮地に立った裕美だった。が、今度は美紀もそれ以上追い詰めるのを止めた。横においたバッグから封筒に入った包みを取り出す。
「朝、言ってたじゃない。長谷部専務に大事なものが届くって。どこかに置き忘れたらしいわね。それにしても、ちゃんと送ってよこすなんて、律儀な人ね。大事なキャビネットの鍵なんでしょ、それ。」
(何処まで知らされているのだろうか)と不安になる裕美だった。が、迂闊に藪を突いてはいけないと悟った裕美は、もう何も詮索をしないことにする。とにかく今は鍵を手に入れることが先決だった。
「ありがとう。専務も安心するわ。」そう言うと、ひったくるようになるのをかろうじて堪えて、美紀の手からそれを貰い受ける。
「早く楽になれて、良かったわね。」
そう言われた裕美はまたもぎくりとする。(もしかしたら、全て知っているのでは・・・。いや、まさか。そんな筈は。)
「ええ、良かった。私も肩の荷がおりた気持ちよ。」
咄嗟になんとでも取れるようなことを口走った。
次へ 先頭へ