山荘夜

アカシア夫人



 第八部 周到なる追尾




 第八十章

 「えーっと、じゃあ頼まれた品物はこれと、これで全部だと思うんですけど。あってますかね。」
 「ええ、それで全部だわね・・・。あ、それから・・・。俊ちゃん・・・。」
 貴子は一瞬、いい淀んだ。
 「えっ、何スか・・・。」
 答えた俊介の言葉も、一瞬うわずって声が裏返りそうになっていた。
 「俊ちゃん、これからまだ用事、あるの・・・?」
 「あ、配達とかは、このウチが最後ッスけど・・・。」
 「そう・・・。じゃあ、今晩、うちで夕飯食べていかない?この間のお礼、まだしてないし・・・。」
 「い、いいんスか?」
 「ええ、今晩、うちの旦那は帰って来ないのよ。」
 出来る限りさり気なく、そう言い切った貴子だった。俊介のほうも予感めいたものがあって、その日はわざと配達廻りの最後に貴子の山荘を選んだのだった。
 「今すぐ、準備するから。そこのソファのところで、テレビでも観て待っててくれない?」
 「そ、そう・・・スか。じゃ、お言葉に甘えてご馳走になろうかなっと。」
 俊介の言葉にも、出来る限りさり気なく振舞おうとする努力が滲み出ていた。

超ミニスカピンク

 俊介の座った応接間のソファから貴子の居るオープンキッチンのほうは、半分位が素通しで見える。俊介はテレビの音量を少し控えめにして、観ている振りをしながら、台所を行ったり来たりする貴子の様子を時々盗み観ていた。穿いているいつもの赤いミニスカートが前に掛けた白いエプロンより短いので、正面を向いている状態から、ぱっと後ろを振り向くと思いがけないほど太腿が露わになっていて、どきっとするのだ。ストッキングを着けていない生脚は、独身の俊介には刺激的過ぎた。
 貴子が、盆に(おつまみにどうぞ)と、茹でた枝豆を盛った皿を持ってやってきて、俊介の前のガラステーブルに置く。そしてキッチンに戻る際に、俊介の目はずっと貴子の後姿の太腿を追っていた。喉がごくっと鳴りそうになるのを、枝豆を一粒摘んで誤魔化した。

 「ねえ、この間通販で買って貰ったDVDのビデオって、俊ちゃんも観たの?」
 俊介に薦めたクリームシチューのお替りを出した後、貴子もスプーンで啜りながら、気になっていた事をさり気なく切り出したのだった。
 「DVDって、あの鎌倉夫人とかっスか?」
 「ええ、そうよ。若い子って、どうなのかなって思って。ああいうの・・・。」
 俊介にまじまじと顔を観られて、思わず顔を赤らめてしまう貴子だった。だが、目線は俊介から逸らさなかった。
 「実は・・・、俺っ。まだ観てないんスよ。話は、高校時代のダチからの受け売りで。奥さんの代わりに手に入れた物を、先に勝手に観る訳にもいかないんで。」
 「えっ、そうなの?あれのうちの、一本も?」
 「す、済みません。何でも知ってるような振りしちゃって。」
 「ふうん・・・。そうだったの。」
 貴子は本当か試すような目でじっと俊介の瞳を見つめる。
 「ねえ、あの清里のホテルでしてくれたこと、あるでしょ。あれ、ビデオで知ったんじゃないの、本当は?」
 「ホテルでした事って・・・。」
 「クニリンガスよ。」
 貴子は自分でその言葉を口にして、自分の大胆さが自分でも信じられなかった。
 「ク、クニ・・・リンガス?・・・。って、言うんスか。」
 俊介の目は一瞬、泳いであの時の事を思い返しているのが貴子にも判った。
 「ち、違うんス。お、俺っ。奥さんが、俺のをフェラしてくれたのが、あんまり感激で、どうしてもお返ししなくっちゃって、思ったんス。そ、それで・・・。」
 「私のあそこ、見てどう思った?毛が無いのに、吃驚しなかった?」
 再度、試すような眼で俊介の表情を窺がう。
 「奥さんみたいな、育ちのいい女の人は、ちゃんと手入れしてるんだなって感心しました。あの、何て言うのかな。淑女の身だしなみって言うんですか。」
 貴子は、何も知らない俊介に呆れたが、同時にその純情さにも愛しみを感じ始めていた。少なくとも、恥毛を剃り落しているのを、淫乱とは思っていないのだと知って、貴子は安堵さえ感じ始めていた。
 「俺って、晩生のほうだから、ああいうビデオはあんまし観てなくて。いつもダチから教えて貰って、想像だけしてたんスよ。すげェ、世界があるらしいって。ダチのほうは、進んでるってえか、いつもインターネットで検索してきて、いろんな事いっぱい知ってて教えてくれるんスよ、俺に。」
 「インターネットで、調べてるの?ああいうビデオとかを。」
 「そうらしいですよ。検索すると、いろいろ見つかるんだって言ってました。」
 「そうなの、俊ちゃん・・・。ね、お願いがあるの・・・。」
 「な、何スか。奥さん・・・。」
 「清里での、俊ちゃんとのことは、二人だけの大切ないい思い出にしておきたいの。だから、もうあのビデオは観ないって約束してくれない?」
 「へえ、そうスか。勿論、いいですよ。約束します。俺にとっても、とってもいい思い出だから。」
 「約束よ。いいわね。そしたら、あの時の約束もあるから、今夜、もう一度だけ、貴方に身体を許すわ。」
 貴子は深い決意をこめてその言葉を言い切ったのだった。
 「お、奥さんっ・・・。」
 「ね、来てちょうだい。」
 貴子も、もう我慢しきれないでいた。優しく俊介の手を取ると自分の胸に引き寄せた。そして、俊介の耳元に口を近づけると優しく囁きかけたのだ。
 「一緒に私の寝室へ来てっ。」

madam

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