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アカシア夫人



 第八部 周到なる追尾




 第八十六章

 「ねえ、もう許して。この手枷と足枷を外して下さいっ。」
 「ふふふ、まだ駄目だ。外してやる前に、もう一杯、この水差しの水を呑んで貰おう。」
 「そ、そんな・・・。もう、充分、飲みました。これ以上はもう無理です。」
 男は、近寄ってきて腹に手を当てる。
 「嫌っ。触らないで。」
 しかし、両手、両足を壁の鉄の輪に繋がれていて、手を振り払うことはおろか、逃げ出すことも出来ないのだ。
 「ふん、まだそんなに腹は膨れてはいないようじゃないか。まだ、この水差し一杯、2リットルは飲めるだろう。さ、ほら。」
 「い、嫌です。うっ、ぐぶぶぶ・・・。ぷふあっ。」
 「溢すんじゃない。罰として鞭を当ててやる。」
 「嫌、やめてっ。ちゃんと呑みます。ですから、鞭は許してくださいっ。」
 「だったら最初から素直に呑むんだな。ほれっ。」
 女は唇にあてられた水差しの吸い口を咥える。
 「うぐっ、うううう・・・。ぷふっ。」
 先ほどから散々呑まされた大量の水が次第に膀胱を膨らませてゆくのは身に沁みて感じていた。それが男の狙いなのだ。
 突然、女はぶるっと身体を震わせる。

gagging

 「どうした。そろそろ出したくなってきただろ。」
 「は、早くこの手枷を外して。おトイレに行かせてください。」
 「ふふふ。トイレへ行ってどうしたい。口に出して言ってみろ。」
 「えっ、そ、そんな・・・。」
 男は女の顎に手を当てて上向かせる。
 「さ、トイレへ行ってどうしたいのか言ってみろ。」
 「・・・・。」
 「言わなければ、行かせてはやらないよ。」
 「お、おしっこが、し、したいのです。」
 首を項垂れて恥かしそうにやっとそう言うのだった。
 「ここでずっと繋がれていたら、どうなってしまいそうだ。」
 「ああ、そんなに辱めないで。ああ、ずっと・・・。ずっと、繋がれていたら、お、お洩らしをしてしまいます。ああ、もう駄目。洩れそう。ああ・・・。」
 「よおし。それじゃあ、トイレに連れて行ってやろう。さ、手枷を外すぜ。」
 「ああ、早くお願いします。」
 男は、片方ずつ女を壁の鉄輪に繋いでいる手枷の鍵をはずしてゆく。
 「あ、足のほうもお願いします。」
 「待て。その前に両手に手錠を掛けるんだ。ほれ、自分で自分に掛けるんだ。」
 男はそう言って、鎖に繋がれた手錠を女に渡す。女は一瞬躊躇ったが、手錠を掛けなければ、トイレには行かせて貰えないと悟って、黙って自分から自分の手首に手錠を掛ける。
 「よおし、足を外してやる。」
 「お、お願い・・・しま・・す。」
 女は手錠に繋がれた両手で股間の辺りを抑えるようにして必死で堪えている。既に女の額には脂汗が噴出していた。
 「ようし。ほら、足を外してやったぞ。自分で歩くんだ。」
 男に促されて、女は足を引き摺るようにしながら、慎重に前へ進む。そうしなければ、洩れだしてしまいそうなほど、限界まできていたのだ。
 女が部屋を出ると、そこは玄関ホールだった。そしてそこに残酷なものを発見するのだ。女の手錠に繋がれた鎖は天井の滑車まで弧を描いて伸びていて、更にそこから部屋を斜めに降りてきて、壁に取り付けられた鋼鉄製の巻取り機に鎖が繋がっているのだ。そのままでは鎖のせいで、玄関ホールからトイレのほうまでは辿り着けそうもないのだった。
 「お願いです。早くその鎖を緩めてください。」
 既に女はホールの端にあるトイレに繋がる廊下のほうへ行きかけていた。しかし鎖がピンと張り詰めるところまで歩いても、トイレにまでは到達できないのだ。
 「緩めるだって?何を言ってるんだ。これから巻き上げるに決まってるじゃないか。」
 そういうと、男は巻取り機に取り付けられたハンドルをゆっくり廻し始めた。ジャラジャラと音を立てて鎖が巻き取られてゆくに従い、女は手錠の両手をぐいぐい滑車のほうへ牽かれてゆく。

ropedhigh

 「ああ、そんな・・・。」
 しかし男はお構いなしにどんどん鎖を巻き上げてゆく。とうとう、女は両手を頭の上に上げていなければならないほど、鎖を牽かれてしまい、滑車の真下に吊られた格好にされてしまう。
 「これじゃ、約束が違うじゃありませんか。おトイレにはこれじゃあ行かれません。」
 「ふふふ、何を言ってるんだ。今お前のトイレを持ってきてやる。」
 そう言うと、男は隣の部屋へ出て行ってしまう。女は何とか鎖を引き千切ろうと引っ張ってみるが、鎖はびくともしない。
 「さ、持ってきてやったぞ。」
 背後に男の声がする。女が振り返ってみると、男はガラス製の尿瓶をぶらさげているのだった。
 「ま、まさか・・・。そんなものの中にしろと仰るのですか。」
 「したくなけりゃ、垂れ流してもいいんだぜ。貴婦人の奥様がそんなはしたないことが出来るっていうんならな。」
 「ああ、そんな・・・。わたくしにそんな辱めを与えようというの。で、出来ません。そんな事。」
 「そこでお洩らしをするのと、尿瓶に用を足すのとどっちがいいんだ。」
 「ああ、そ、そんな・・・。わ、わかりました。し、尿瓶にさせてください。」
 「そんな格好で尿瓶に出せるのかい、奥様?」
 「えっ、そんな。私にどうしろというのです。」
 「穿いているものを脱がしてくださいと頼むしかないんじゃないかな。」
 男の企みに気づいて、女は吃と男を睨むのだが、男の言う通りにするしかないことを悟って首を深く項垂れる。
 「わかりました。わたくしが身に着けているものを、脱がしてください。」
 「ほう、裸になりたいのかね、奥様っ。」
 「裸になんかなりたくはありません。仕方がないのです。ああ、お願いです。早くしなければ・・・。」
 女は男の前で、身体をくねらせてもじもじし始める。男はゆっくり女の後ろに回って、深いドレープの入ったドレススカートのホックを外す。しなやかな絹のスカートがするするっと滑るように夫人の足許に落ちた。
 「下穿きもおろしてっ。早くっ。」
 「他人に何か頼む時は、ちゃんとした言い方があるんじゃないのかね。」
 女は再度、男を睨みつけるが、自然の摂理に逆らうことは出来ない。
 「し、下穿きも、下ろして・・・、く、くださいませ。お、お願い・・・致します。」
 男は漸く下着に手を掛けて、一気に膝元までずり下ろす。
 「は、早く、その尿瓶を当ててください。」
 「それじゃあ、当て易い格好になってくださいよ。ふふふ。」
 「ああ、惨めだわ・・・。」
 そう言いながらも女は膝下にショーツを絡ませたまま大きく股を広げる無様な格好になった。
 尿瓶があてがわれるが、あまりの恥かしさに女はすぐに出すことが出来ない。
 (ああ、どうしよう・・・。)

 その時、ふっと貴子は目を覚ました。
 (ゆ、夢だわ。)
 しかし、募り来る尿意は現実のものだった。慌ててベッドから起き上がるとトイレに急ぐ。間一髪、間に合って便座に座り込んだ貴子は安堵の吐息を洩らす。
 (ちょっと呑み過ぎちゃったようだわ。おしっこがしたくて、あんな夢を見たのかしら。)
 昨夜遅くまで興奮して眠れなかった貴子はつい、深酒をしてしまったのだった。
 (普段は滅多に夜中にトイレに起きることなどなかったのに・・・。)
 それだけ、老人から聞いた話と、旧真行寺邸の廃屋で見たものが貴子には強烈な印象を残したのだった。

madam

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