妄想小説
被虐の女スパイ
八
99号がゆっくりと振り向くと、銃口が自分に向けられているのが判った。
(どうして? 誰も居ない筈だったのに・・・。)
「おい、グレート。こっちへ来てこいつを捕まえろ。」
脇の扉が開いて毛むくじゃらの大男が現れ、99号に後ろから掴みかかる。首の通信機に手を伸ばそうとした99号だったが、それより早くグレートと呼ばれた男の腕が首元を締め上げていて通信機には手が届かない。
大男は99号の両腕もがっしりと掴まえて羽交い絞めにしていた。拳銃を持った男が正面に廻ってくる。
「お前、潜入捜査官だな。こざかしい真似しやがって。」
99号が大男の腕でしっかり掴まれているのを確認すると、拳銃を持った男は手にした拳銃を持ち変え、銃座の部分を金槌のようにして振り上げ、99号の無防備の下腹向けて打ち下ろす。
「ううっ・・・。」
日頃腹筋を鍛えている99号にも拳銃の台尻でまともに無防備の腹に打ち込まれた一撃は堪えきれなかった。
「ようし。まずこいつの両手を縛ってしまうんだ。」
99号は薄れゆく意識の中で男が大男にそう命じているのが聞こえた最後の言葉だった。
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