妄想小説
被虐の女スパイ
七
翌朝、ひと気の無くなる早朝を狙って99号は黒のジャンプスーツに身を包むとアジトに単独侵入する為に向かったのだった。
普段出入りする接客フロアではない事務所は、勝手知ったる場所ではない。しかしこれまで何度も潜入捜査は経験があり、どんな場所にどんなものが隠されているかは大体の見当は付くのだった。
(あの男の口振りからすると、取引の場所と時間の遣り取りはもう済んでいる筈だわ。だとすると、その遣り取りをしたパソコンがある筈。だいたいこういう連中の中にパソコンに得意な男なんてそうはいないから・・・。ああ、あれだわ、きっと。)
99号は薄暗い事務所の中でそれらしきものと見極めをつけたパソコンに音を立てない様に忍び寄って行く。
(これだわ。)
99号がパソコンを立上げ、メールシステムを開くとつい最近の遣り取りがずらっと並ぶ。ポケットからUSBメモリを取り出すとすぐスロットに差し込みコピーを始める。
(これさえ入手してしまえば・・・。)
99号は目の前のパソコンのP画面でコピーの取得パーセンテージが棒グラフで表示されている。それが一刻も早く終わるように99号は息を呑んで待ち構えている。その時だった。
「誰だ、お前は。そこで何してる? 手を挙げてそこから離れろ。」
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