写真検討

騙された新人女優とマネージャー



 第二部



 三十二

 フリーカメラマンの須藤恭輔は、図らずも手に入れることが出来た手塚由里のあられもない格好の写真を眺めながら次の作戦を練っていた。それまで須藤が手に入れていたのは手塚が共演相手の進藤剛に車で送って貰ってきた帰りの車内を撮ったものと、二人が顔を合わせて将に口づけをしようとしている際の写真だけだった。妻子ある進藤剛が未婚の由里とキスをするのは充分に不倫の証拠として使える筈だったが、それだけでは一発ネタにしかならない。特に二人はラブシーンも演じている俳優同士なので、演技の練習をしていたと言い逃れされかねない。週刊誌のトップスクープネタにする為にももう少し確実な証拠が欲しかったのだ。
 しかし二人だけのツーショットの写真をちらつかせながらカマを掛けてみたら思いのほか由里の反応が大きかった。それで不倫の情事を確信したのだ。しかしその肝心の現場の写真はない。しかし如何にも決定的証拠の写真を持っていると匂わせることで動揺させ、どこかの別荘に二人きりで居たことまでは突き止めることが出来た。写真を買い取るなら50万円という金を吹っ掛けてみたところすぐに乗ってきたのは疚しい行為があったことを自ら白状したようなものだった。
 50万円という金額は練りに練ったものだった。ただのキスぐらいならそんな大金に喰いついてくる筈はない。逆に何とか手は届いてもすぐに用意出来そうもない金額を提示したらさすがに即金で用意出来なかったものの週刊誌にネタを売るのを待って貰う為にパンツまで下したのだ。相当やばい行為をしていたのに違いないと須藤は踏んでいた。あと一歩うまく騙して決定的な証拠を相手側がついうっかりと出してしまうように仕向けなければと作戦を考えていたのだった。

ホテルロビー変装

 次に由里が呼出しを受けたのは都心にあるシティホテルだった。マネージャーの茉莉に何とか嘘を取り繕って下してきて貰った10万円だけを持って何とか今度も残りの支払いを引き延ばして貰えるように交渉するつもりだった。同じ嘘は使えないが似たような口実を作ればあと数十万円は引き出して貰えるのではと考え始めていたのだ。 ホテルのロビーへは自分だとばれないように濃い目のサングラスに大きな鍔の帽子という変装で出掛けていった由里だった。しかし待ち合わせのロビーに男の姿は見えなかった。 その時、由里のスマホが着信を告げる。 <1524号室で待っている。> ショートメールにはそれだけが入っていた。辺りを見回して自分に注目している者が居ないか確かめてから奥のエレベーターホールへ向かった由里だった。 コンコン。
 名乗ろうとして寸でのところでその言葉を喉元に呑み込んだ。何処で誰が聞いているかわからないと思ったのだ。返事はなかったが試しにドアノブを回してみると鍵は掛かっていなかった。おそるおそる中に入ってみると、奥の方から声がした。
 「ドアは内側から鍵を掛けておけよ。その方がお前にとっても都合がいいんじゃないか?」
 「わ、わかりました。」
 ガチャリという音がして、もう誰も助けに来ては貰えないことを覚悟する。それでなくても前回のようにスカートを奪われて自分からは助けを呼べない状況にさせられてしまうのだろうと予感する。
 部屋の奥へ入ってみると、男がソファに深々と腰を掛けて待っていた。由里は不必要となった帽子とサングラスを外す。
 「金は用意出来たのか?」
 「うっ。そ、それが・・・。今回も10万までしか用意出来ませんでした。でも必ず50万円全部用意します。だから、もう少しだけ待って欲しいのです。じゃないとマネージャーに全部話さなくてはならなくなってしまいます。」
 「だったらマネージャーに話せばいいじゃないか。共演相手と不倫をしてしまって、その証拠写真を撮られてしまったんですってな。」
 「そ、そんな事・・・。出来る筈、ないじゃないですか。」
 「ふふふ。そうだろうな。しかしこっちも金が要るんでな。差し障りの少ないところからちょっとずつ週刊誌にリークしてもいいかとも考えているんだ。」
 「こ、困ります。差し障りのない写真なんてあるんですか?」
 「じゃこうしようじゃないか。お前、あの剛って男にはいろいろなことをさせてやったんだろ? 俺に同じことをしてくれたら、そのシーンの写真は週刊誌に渡すのは待ってやる。それでどうだ。俺もただ待たされるだけじゃ面白くないんでね。」
 「わ、わたしが・・・。貴方に同じことをする? そ、そんな事・・・。」
 「別に無理にとは言わない。俺はお前から金を貰おうが、週刊誌の出版社から貰おうが同じなんでね。お前が金を工面するのを待っている言われはないんだ。」
 「うっ・・・。ほ、ほんとに同じことをしたら待ってくれるんですか?」
 「俺が信じられないか? なら別に信じなくったっていいさ。」
 「ま、待ってください。・・・・。わ、わかりました。その代わり、ほんとに週刊誌に写真を渡すのはお金が用意出来るまで待ってください。約束してくれますね。」
 「ふん、くどいな。約束してやるよ。」
 由里は覚悟を決めるのだった。
 「何か目隠しの代わりになるものはありませんか?」
 「目隠し? ああ、そうだったな。そこまで準備はしてなかったからな。ううむ。何かなかったかな・・・。」
 「でしたら、貴方が今首にしめているネクタイはどうですか? その黒っぽいネクタイならあれに近いし・・・。」
 「おう、そうだな。こんなのがあったな。ほらよ。」
 男はネクタイを解くと由里に手渡す。
 「それじゃ、私を縛るものも用意してないんですね。」
 「縛る? ああ、そうだった。いや、縛るものならバスローブ用の綿のベルトがある筈だ。そいつで代用しよう。」
 「じゃ、このネクタイで目隠しをしますから私を縛ってください。」



yuri

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