騙された新人女優とマネージャー
第一部
一
「はーい。カーット、カット。違うよぉ、由里ちゃーん。そこんとこ。全然、気持ちはいってない。はい。もう一度、撮り直しーっ。はい、テイク15っ。」
監督の撮り直しの指示に助監督がふたたびカチンコを振り上げる。
「スリー、ツー、ワン。」
カチーン。 由里の前に剛が迫って来る。肩を抱かれる由里。剛の唇が由里のそれに近づいて来る。
「カーット。違うなあ・・・。そこ、初めての経験に怯える真理子じゃなくて、本当に文夫を求めるようになるシーンでしょ? 何か、それじゃ嫌々やってるって感じになっちゃってる。あ~あ、今日はもうこれで終わりにしよう。」
「す、済みません・・・。監督。」
さすがに15回連続のダメだしを出されて、由里もしょげかえる。
「由里ちゃん、気にすんなよ。誰だって役になりきれない時ってあるから。それを乗り越えるのが女優への道なんだから。一気に名女優には誰だってなれやしないさ。」
「済みません、剛さん。何度も失敗に付き合わせちゃって・・・。」
相手役の進藤剛をNGの繰り返しに何度も付き合わせてしまっていることを心から申し訳なく思う由里だったが、苦手のラブシーンはどうしても気持ちを篭めることが出来ないでいる。
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