事務所自席

妄想小説

淫乱インストラクタ ~ 嗚呼、勘違いの一人相撲



第八章 自ら嵌る陥穽

 浅川に打ち据えられた尻の痛みに、仰向けになって寝ることも出来なかった浩子は、すっかり意気消沈して次の日、会社に現れた。腫れはもうだいたい引いていたが、痛みはまだ残っている。出来れば椅子には座りたくないが、一日中立っている訳にもゆかない。
 会社を休んでしまいたかったが、そうなると、浅川から外に呼び出されるような気がした。二人だけで逢えば、どんな酷いことを命令されるか分からない気がしたのだ。
 会社で他の人間が居るところならば、浅川も滅多なことは出来ないだろうと思った。
 浅川には顔を合わせたくなかったが、同じ職場で同じような仕事をしているのではそういう訳にはゆかない。その朝は浅川のほうが先に来ていた。事務所のドアを開けた時、浅川が上機嫌そうに机にふんぞり返って居るのが見えた。
 浩子は無視して、いつものように無言で通り過ぎて自分の席へ向かおうとした。
 「おっはよう、桂木君。」
 一瞬、浅川を睨んだ浩子だったが、すぐに表情を悟られないように下を向いて、答える。
 「おはよう、・・・ございます。」
 新入社員が目上の先輩に答えるような挨拶になってしまったと浩子は感じた。
 自分の席に着くと、見覚えのない紙包が置いてあるのに気づいた。スーパーなどで使われる茶色の紙袋で、無印のものだった。浩子は中身を見るのが怖くて、開くのを躊躇った。
 何か予感がして、浩子はパソコンを立ち上げる。まずメールボックスをチェックする。浩子の予感どおり、受信リストの一番下に、新着メールがあった。差出人アドレスは数字と記号だけの見知らぬもので、匿名で送られたもののようだった。
 「交換しておくこと。」
 本文はたったそれだけだった。
 震える手で、不審な紙包を掴むと、浩子はトイレに向かった。傍らの浅川のほうを見ることは出来なかった。
 個室に入ってしっかり鍵を掛けると、紙袋の中を音を立てないようにあらためる。白いパックのようなものが見える。見た瞬間、生理用ナプキンを想像したが、それより二周りほども大きいようだった。取り出してみると、それは紙オムツだった。
 (交換してこい・・・。これをショーツの代わりに着けていろというのだわ。)
 浩子は悔しさに唇を噛む。浅川が強いようとしている辱めが段々分かってきた。怒りがこみ上げるが、その命令から逃れる手を思いつけなかった。
 スカートをたくし上げ、ショーツを膝まで降ろす。内側はまだ汚れてはいない。今朝も真新しいものをつけてきたのだった。ハイヒールを履いたままの足を片方ずつ上げて、ショーツを抜き取る。
 紙オムツを自分に当てたことなどなかったが、どのようにつけるのかは想像がついた。ミニのスーツをすっかり腰の上までたくし上げねばならなかった。紙オムツのパックを開く。立ったまま股間に当てるには、無様にガニ股になるしかなかった。腰骨の上のところで粘着テープで留めて固定する。股の間でごわごわするのが不快だった。ミニのスーツの裾を降ろす。身体の線を美しく見せるタイトなスカートなので、腰のラインが変に見えるのではないかと心配になる。が、それと思ってよくよく見なければ気づかない程度のように思えた。
 脱ぎ取ったショーツを代わりに紙袋にしまうと、口をしっかり折り畳む。音を立てないようにそっと個室を出ると、事務所の自分の席に向かう。浅川は下を向いて、何やら書類をチェックしているようだが、浩子には自分の気配を窺がっているように思えた。
 自分の席に着くと、何やら別の紙包が置いてある。すぐに浩子はメールボックスを開く。
 「差し出すこと。」
 またも簡単な文面だった。
 (やはり、そうなのね・・・。)
 すくっと立ち上がると、浩子はトイレから持ち帰ったほうの紙袋を取り上げ、まっすぐ歩いて浅川の傍へ立つ。
 「依頼されていた物です。」
 悔しさに煮え繰り返る思いだったが、浩子は唇を噛んで、ショーツの入った袋を差し出した。
 「あれ、何だっけ。」
 とぼけている浅川の様子に浩子は切れそうになる。他の者も居る前で、まさか脱いだ下着ですとも言えない。
 「ま、いいや。そこへ置いといて。」
 サイド机の端をぞんざいに顎で指し示す。浩子は怒りに震えながら、浅川に示された場所へ紙包をそっと置く。いつ誰に開けられないとも限らないような場所に自分の穿いていたショーツを置かねばならないのは屈辱だけでなく、浩子を不安にもさせた。
 うなだれて自分の席に戻る。ちらっと浅川のほうを見るが、紙包はまだそのままだ。
 (早く取って、どこかへ隠して・・・。)
 しかし、浅川は浩子の願いも無視しているようだった。浩子は再びメールをチェックする。次の新着メールが既に入っていた。
 「足のところをしっかり繋いで。」
 震える手で、周りの者たちに気づかれないように、そっと紙袋を引き寄せる。上は閉じてないのでそっと覗くと、何と手錠が入っている。浩子はすぐに浅川の意図を悟った。
 (私をトイレに立たせないのね。この席に手錠で繋いで、紙オムツにしろということ・・・。)
 再び浩子は唇を噛み締める。さっき尿意はなかったので、出してこなかったことを悔やんだ。無理にでも出しておくべきだったと思ったが、もう遅かった。
 机の下をそっと覗く。浩子の事務所のスチール机には、足元に横に桟が走っている。夢の中で繋がれた桟だ。ちらっと浅川を見るが、依然として浩子のことを無視しているかのように下を向いたままだった。浩子は覚悟を決めた。鉛筆をわざと机の下に落として、それを拾うためかのように机の下に這いつくばる。紙袋から取り出した手錠を、音がしないようにそっとスチール机の桟に嵌める。ガチャリという小さな音がしたが、不審に思ったものは居ないようだった。一旦、机の下から出て、自分の椅子に座る。足で手錠のもう一方の端を手繰り寄せる。机の下にそっと手を伸ばすと冷たい金属の感触がある。それを自分の足首に当てる。
 (命令に従うしかないのだ。)
 自分に言い聞かせるように心の中で唱えると、指先の力を篭めた。再びガチャリという音がする。これで浩子はトイレに立つどころか、何処へも席を立って出ることが出来なくなったのだ。そしておそらく残業時間になって、誰も居なくなってしまうまで、この戒めを解かれることはないのだろうと、浩子は観念した。
 「おうい、桂木君。ちょっと。」
 突然、課長の磯山が大声で、浩子を呼ぶ声を聞いて、浩子は血の気が引くのを感じた。浩子はすがるような目で浅川を見つめた。
 浅川と目が合う。浩子に見つめられて戸惑っている風を装っているように見えた。
 「あ、課長。その書類だったら、今晩、桂木さんと二人で残業でやりますよ。」
 浅川がさっと立ち上がって、桂木の代わりに磯山の前に向かうのが見えた。
 「桂木さん、いいでしょう。今晩でも。」
 「あ、は、はい。」
 桂木は立ち上がろうとした素振りだけしてみせながら、答える。
 「そうか、毎回で済まんな。何しろ急ぎの用件だから。俺は付き合えないけど宜しくね。」
 浩子はその場がなんとか収まったので、ほっとしたが、すぐにその日一日中、誰かに呼ばれないかとびくびくし続けなければならないことを悟ったのだった。
 浅川が傍まで書類の束を持ってやってくる。が、浩子のすぐ後ろでその書類の束を床に落としてしまう。
 「あ、ご免。手伝って。」
 床に屈んで書類を拾い集めている浅川が浩子に声を掛ける。しかし、片脚を机の下の桟に繋がれたままなので、書類を拾う為には大きく股を開いて振り向くしか方法がない。浩子の席は壁際なので、そっと立ち振る舞えば、覗かれるのは浅川だけで済むと思った。幸い、その時、誰も浅川や浩子のほうを注目している者はいなかった。
 浩子は浅川がわざと書類を落とし、自分にあられもない格好をさせようとしているのだと悟った。
 (従うしかないのね・・・。)
 浩子は他の連中からは(しょうがないわね。)と言わんばかりの表情に見えるように、自分の回転椅子を回して後ろを振り向く。手錠に繋がれた脚は精一杯のばして、もう片方の脚を大きく開く。スカートの中が丸見えになる。しかも、その奥に覗くのは、ショーツではなく、無様な紙オムツなのだ。
 浩子は恥かしさに、浅川の顔を見ることが出来なかった。自分の丸見えの股間に浅川の視線が釘付けになったことは、浅川の手が止まった音で分かった。が、浩子にはどうすることも出来ない。黙って、書類をかき集めるしかなかった。
 最後の一枚を拾い上げるとさっと脚を閉じて椅子を元に戻す。素早く裾を下に引っ張って、ずり上がってしまったスカートを元に戻した。
 (ちゃんと紙オムツに替えてきたか調べたのね・・・。)
 浩子は浅川の巧妙さに舌を巻いた。
 「じゃあ、これ。又半分ずつに分けて今晩こなそう。」
 そう言って、浅川は書類を半分に分け、席に座ったままの浩子に束を手渡す。スカートの中を覗かれたことで、恥かしさに浩子は顔を上げることも出来なかった。

 午前中は何とか何も起こらずに済んだ。しかし、尿意は確実に高まってきていた。昼休みを告げるチャイムがなると、事務所全体がざわざわとして、次々に皆が昼食を取る為に、事務所を出てゆく。浩子もいつもはビルの外のいきつけのレストランへ行くことが多かったが、今日ばかりは席を立つことが出来ない。
 誰かに誘われたら、弁当を持ってきたなどと嘘をつくしかないと思った。が、幸い、手元の書類に打ち込んでいる振りをしていたら、浩子を昼に誘う同僚は居なかった。気配で事務所の中に、誰も居なくなったのを感じ、そっと辺りを見渡す。もう我慢の限界だった。それでも、人が居るところで洩らすのはどうしても出来なかったのだ。
 (ああ、本当に洩れ出さないかしら。)
 紙オムツを使ったことのない浩子にはその中に小水を出すのが怖くてなかなか出来なかった。が、自然の摂理には所詮逆らえない。浩子は意を決した。
 生温かい感触が股間に広がる。しかし、それが少しするとすっと消えていくのだ。
 (ああ、まだ出てしまう・・・。)
 放尿はなかなか止まらなかった。最後に身体がぶるっと震え、最後の滴を搾り出すようにしてやっとのことで放尿を終えた。
 惨めだった。恥かしさ、悔しさに、浩子はずっとうなだれたまま、机の上に突っ伏してしまっていた。
 「やっぱり食事もしないで、仕事を続けていたんだね。」
 突然背後に浅川の声を聞いて、浩子は顔を上げた。浅川は手に紙包を持っている。無印の茶色の紙包ではなく、浩子も時々利用する隣のビルのファーストフード店のものだった。
 「これ、持ってきてあげたよ。」
 浅川が差し出す包を受け取ると、中をあらためる。ハンバーガーが一つにテイクアウト用のコーヒーのカップ。そして、いつも浩子が愛飲している、ドイツのメーカーのミネラル水のペットボトルが入っていた。
 「もう昼休みが終わっちゃうから、さっと食べちゃいなよ。」
 浩子は、浅川がさり気なく命令しているのを感じとった。もう事務所には結構な人数が戻ってきていた。喉がからからに渇いていた。ずっと緊張していたせいだ。しかし、水分を摂れば、その先にやってくるものが浩子には分かっていた。そしてそれを見越して、浅川も浩子に強要しているのだと感じ取っていた。
 「わかりました。頂きます。」
 浩子はコーヒーカップの蓋を外す。口に少し含むと、からからだった喉に染み渡る。少しだけと思って口につけたのだが、飲み干す誘惑に勝てなかった。
 「ミネラルウォーターも買っておいたから。」
 斜め横の席から浅川が声を掛ける。
 (これも飲めというのか・・・。)
 浩子は浅川に恨めしそうな目を向けながら、ペットボトルの飲み口を開けた。

 その日の午後は2度、尿意のピークを迎えた。何とか我慢しきろうと頑張ったが、所詮無理なことだった。紙オムツがどれだけの量の小水を吸収しきれるのか浩子には見当もつかない。吸い取れる容量を越えたために脇から沁み出すのを懼れて、浩子は椅子から腰を少しだけ浮かして、こわごわと放尿した。し終える度に、腰にあてている紙オムツがみるみる重くなってゆくのを感じていた。
 「桂木さんっ。」
 突然、斜め横の浅川から声を掛けられて、浩子はびくっと身体を奮わせた。その瞬間に少しだけ尿道口から小水が洩れたのを浩子は感じ取った。驚いただけで洩らしてしまった自分が恥かしかった。
 「僕のメール見ました?」
 顔を上げた浩子に浅川が尋ねる。
 「えっ、いや。あ、はい。」
 咄嗟に言われ、どのメールのことを言われているのか判断がつかなかった。が、他の人が居る手前、迂闊にどれのことかと確認することも出来なかった。
 「あ、じゃあいいんです。」
 浅川は、浩子の慌てように満足する。浅川は、実は全てに逃げてを打っていた。浩子の座った場所からはちょっと見難い位置に、古い電気スタンドを置いてあった。もう電球が切れていて、替えの電球をわざとそばに置いてあった。台座に支柱をねじ込むようになっているのをわざと緩めて外してある。
 「交換しておくこと。差し出すこと。足のところをしっかり繋いで。」は、電気スタンドの球を交換して、直したら渡しておいてくれ。支柱がぐらぐらしているから台座にしっかり固定しておいてくれ。」とも取れるようにもしてあったのだ。

 漸く定時のチャイムが鳴って、事務所員はどんどん帰宅していった。磯山が浩子に渡そうとした書類は、事前に浅川が磯山に浩子に頼むようにと渡しておいた書類だった。それを途中から浅川が割って入って二人で処理をすると言い出したので、ちょっと怪訝な顔をしたのだったが、磯山は桂木浩子独りに仕事を押し付けるのを、悪いと思い直したものと解釈していた。
 浩子と浅川を残して最後の者が事務所を出てしまうと、浅川は最後の仕上げをしに、ゆっくりと浩子の傍に近づいていった。手には朝方に、浩子が浅川の元へ持ってきた紙袋を持っている。
 浩子の机の真正面に立つと、浅川は袋の中から白い布切れを摘み上げた。
 「これはなあに。」
 浩子の目の前にわざとぶら下げてちらつかせる。目の前で自分の恥かしいものを晒されて、手を伸ばして奪い取りたかったが、足首を繋がれた状態では手が届きそうもなかった。
 浩子は浅川がわざと自分を嬲ろうとしているのを感じ取っていた。
 「わ、・・・わたしの穿いていたショーツです。」
 悔しさに頬を紅潮させながら、やっと口にした。
 「へえ、何で穿いていたショーツがこんなところにあるの。そうすると、そのスカートの下は?」
 「・・・・。」
 浩子には答えられなかった。
 「さっき、僕のメール見たっていったよね。」
 はっとして、浩子は目の前のキーボードを叩いて、メールボックスを開く。浅川が差出人になった社内メールが新着で入っていた。インターネット経由の社外メールばかりチェックしていたので、気づかなかったのだ。すぐにダブルクリックして開く。
 「桂木さん。机の右のほうに、古い電気スタンドがあるでしょ。・・・・ああ、それ。それを修理しておいてくれって磯山さんに頼まれて、電球を買ってきて忘れていたんですよ。それでそれを交換してくれって、メールしたんですけど。出来上がったら磯山さんに差し出してもらおうと思って。脚の付け根のところがぐらぐらしているので、しっかり繋いでおいてくれっていうのもお願いしたと思うんです。さっきメール見たってきいたら、見たようだったので、いつ渡してくれるのかと思っていたんですが。」
 浩子ははっとした。
 (電気スタンド・・・?球を交換?)
 浩子は狐につままれた気分だった。
 (それじゃあ、足首に手錠をかけろっていう命令じゃあ、なかったっていうの。)
 浩子は飛んでもない勘違いをしたのではないかとうろたえ始めた。
 「どうしたんです?蒼い顔しちゃって。それに今日は何だか妙にずっと席に座ったままですね。朝から下着を僕に寄越したりして・・・。あれっ、まさか。あっ、誰かが置き忘れていった紙オムツがないのは、それ、嵌めてたんですか。へっ、自分で。紙オムツにしてたんですか。」
 「え・・・、まさか、わたし・・・。それ・・・。」
 最早、浩子の頭の中は起こったことで混乱しまくっていた。
 (自分はいったい、何を勘違いしたのだろう・・・。電気スタンド、紙オムツ。手錠・・・。)
 「昨日、誰かが紙オムツの忘れ物があるって持ってきてたんですよ。大人用みたいだったから、お年寄りの介護用じゃないかっていってましたけど。恥かしいから言い出せなかったんじゃないかな。あっ、そう言えば、僕が見つけてとっておいた手錠も見当たらないんだけど、知りませんか。パーティの余興なんかで使う玩具のものらしいんだけど。」
 「それじゃ、これって・・・。」
 浩子は思わず、机の下の自分の足首を見つめてしまう。
 「私への命令じゃなかったの。ああ、どうしよう。か、鍵は・・・。貴方、鍵は持っていないの。」
 パニックに陥って、浩子は大声を上げた。その傍へ何時の間にか浅川が近寄ってきていた。
 「あ、み、見ないで。」
 しかし、もうすぐ傍まできていた浅川は浩子の足首をスチール机の桟に繋ぎ留めている手錠をしっかり見てしまっていた。
 「ち、違うの・・・。こ、これは、命令されたの。そう、するように。・・・一日、机に繋ぎ留めて、トイレに立てなくさせられたの。仕方なく紙オムツを当てさせられたの・・・。」
 あまりに慌てて、とんでもないことを口走っていることにも気づいていなかった。
 「じゃあ、一日中、その中にしてたんですか。呆れたなあ・・・。」
 わざと詰るように浅川は浩子の耳元で囁きかける。
 「何度その中にしたんです?一日中じゃあ、もう吸い切れないだろうな。」
 「ね、お願い。鍵を捜してっ・・・。きっと何処かその辺にある筈よ。」
 浅川は思わずニヤリとする。もう少しこの高慢だった女を辱めてやりたいと思った。
 「鍵なんてどこにも見当たらないですよ。そうだ。下に言って、金鋸を守衛所から借りてきてあげますよ。いつまでもそのままじゃあ、トイレにも行けないでしょ。」
 「お願い、誰にも言わないで。こっそり金鋸を借りてきて。何に使うかは誰にも教えないで。お願いです。・・・、ああ、い、急いで。じ、じつは、もう洩れそうで、ずっとトイレを我慢しているの。」
 浅川は自分の予感が当たっていたので、にんまりとする。
 「え、洩れそうなの。困ったなあ。金鋸でそれを切るっていったって、結構時間掛かると思いますよ。それに守衛所にうまく守衛が居るとは限らないし。巡回中かもしれないから。」
 「え、困るわ。もう、そんなには我慢できそうもないの。ああ、どうしよう・・・。」
 「だったら、取り合えず、新しい紙オムツに穿き替えたらどうです。それなら、洩れはしないだろうから。確か、忘れ物の紙オムツがもうひとパック、更衣室においてあったようだから。」
 「そうなの。お願い、早く取ってきて・・・。」
 浩子は気が動転して、冷静に物事が判断できなくなっていた。浅川が次から次へついていく嘘に完全に載せられてしまっていた。
 浅川は、一旦事務所を出て、更衣室へ行く振りをする。事務所の扉のすぐ外で、中で募り来る尿意に悶えながら我慢している浩子の様子を暫く眺めていた。更衣室から持ってきたかのように新しい紙オムツのパックを手にして悠々とわざとゆっくりした足取りで浩子の元へ戻ってくる。
 「お、お願い。早くしてっ。」
 浅川の手からもぎ取るように紙オムツのパックを取る。
 「お願い、見ないで。」
 しかし、浩子には最早浅川が去っていくのを待つ余裕は残っていなかった。浅川が傍に立って見ているのも構わず、スカートをすっかりと捲り上げると、震えながら留めていた腰骨の近くのテープを剥がす。吸い込んだ小水でずっしり重くなった紙オムツを慌てて剥ぎ取ると、浅川に渡された新しいパックを必死で広げる。その内側を股間に押し当てるのと、洩れ始めるのはほぼ同時だった。最早、横を留めるのも間に合わなかった。尿がこぼれないように股間にあたらしい紙オムツを押し当てているのが精一杯だった。
 スカートをすっかりたくし上げ、股間を丸出しにして、紙オムツの中に放尿する一部始終をしっかり見られてしまって、浩子は狼狽しきっていた。もう何を隠しても無駄という気がして、すっかり意気消沈してしまっていた。浅川はここぞとばかりに一気に攻めまくる。
 「凄い格好だな。それに馬みたいにたっぷり出したじゃないか。」
 「ああ、言わないで。もうこんな恥かしい格好を見られてしまって、どこかに消えてしまいたいの。でも、足首の枷があって動けないの。お願いだから、早く、金鋸を借りてきて、自由にしてください。」
 「ああ、放尿するところなんか見ちゃったら、もう何だか助けるの嫌になってきたなあ。守衛所に居る警備員を呼んできて、彼らにやらせるかな。」
 「嫌、やめて。お願い。これ以上、恥かしいところを晒させないで。何でも言うとおりにしますから。貴方の言うことだったら、何でも聞きますから。」
 警備員を呼ぶという言葉の効果は覿面だった。浩子は途端にうろたえはじめた。用意していた縄の束を取り出し、浩子の目の前にぶら下げて見せる。その前にこっそり持ってきたハードディスク録音機のスイッチを入れておくのを忘れない。
 見上げた浩子は、はっとした。浅川は無言のまま縄の束をかざしている。
 「私を縛るの・・。縛るつもりなのね。・・・ああ、そういうことなのね。・・・。私に言わせたいのね。いいわ。私を縛って。縛ってください。私を縛ってしたい放題にしてください。だから、・・・、だから、お願いだから、警備員を呼ぶなんてことはしないで。」
 うまく浩子に縛って欲しいと口にさせた浅川は、浩子のもとにしゃがみこんで、両手首を掴んで背中に回す。大きく股を開いてしゃがんでいる浩子には恥部を隠すことも出来なくなった。しっかりときつく両手を後ろ手に縛ってしまうと、しゃがんでいる浩子の目の前で、浅川はズボンとトランクスを下げた。浩子の眼前に浅川の鎌首を擡げはじめた汚い陰茎がぶらさがる。
 「うっ、い、嫌。」
 思わず顔を背けようとするのを、浅川が髪を掴んで無理やり正面を向かせる。
 「ううっ。や、やります。咥えます。・・・い、いえ、咥えさせてください。」
 吐き気を催しながら、浩子は目を瞑って顔面に押し付けられようとしている太い男根に口を近づけた。ムッとする饐えたような臭いが浩子の鼻をつく。うっすらと開こうとした浩子の唇の中に、硬い肉棒がいきなりねじ込まれた。
 「あううっ・・・。」
 浩子の悲鳴は声にならなかった。口の中に一旦咥えてしまうと、浩子はもう観念した。
 シュポッ、チュパッ。音を立てながら、浩子は必死で陰茎を口の中で転がす。浅川が浩子の頭を掴んで前後に振るので、それに合わせてピストン運動をしながら、浅川のどんどん硬く、大きくなっていく男根をしゃぶらなければならなかった。鼻で息をしなければならないので、息苦しい。吐き出しそうになった瞬間、口の中の陰茎がぶるっと震えた気がした。その直後に、浩子の口の中は生温かいもので溢れはじめた。
 射精して果てたところで、浅川は浩子の頭を揺らすのを止めた。が、すぐには陰茎を引き抜いてはくれなかった。余韻を楽しむかのように暫くじっと突っ立っていた浅川だったが、漸く浩子の口からペニスを引き抜くと、机の上に置いてあった、浩子のショーツを取って、濡れていたペニスを拭う。
 両手の戒めを解かれていない浩子のほうは、呑み込めなかった浅川のスペルマを唇の端から垂らしてしまう。それは糸と引くようにして床まで垂れていった。その様子を浅川が真正面からデジカメで撮っていた。突然閃いたフラッシュの光でそれに気づいたのだった。しかし、もうどれだけ証拠を握られても同じだと、浩子は諦めていた。所詮、自分はどうあがいても、この醜い小男の奴隷とならざるを得ないのだと観念していたのだ。しかし、最後の最後まで、浩子は自らが進んで醜い小男の歯牙に堕ちてしまったことに気づいていなかったのだった。
 「これがロッカー室に落ちていたんだが、多分、その鍵じゃないかな。」
 先ほど、(鍵なんて、何処にも見当たらない)と嘘をついていたのを知らぬ振りをして、浩子に小さな鍵をかざして見せる。足枷を外して貰う為には、浩子は更に大きく脚を開かねばならなかった。股間を蔽うものは何もない。その裸の下半身に潜りこむようにして、浅川は身を屈めて机の下に手を伸ばす。
 浅川の伸ばした手の先が、浩子の足首の手錠の鍵穴を捉えた。
 「おう、どうやらぴったり合うみたいだ。」
 浩子は、ほっとする。が、浅川の鍵穴に差し込んだ手はすぐには回ってくれなかった。もう一方の手が浩子の剥き出しの股間に伸びてきた。自由の効かない浩子にはどうすることも出来なかった。ただ受け入れるしかないのだった。
 「どうぞ、存分にまさぐってください。私は貴方の奴隷です。」
 何故かそういう言葉が浩子の口からすらすらと飛び出てきた。そうすることで、少しでも早く自由にして貰えるような気がしたのだ。
 浩子の陰唇を探り当てた浅川の指の動きは執拗だった。既にそこはたっぷりと潤んでいる。陰唇が卑猥な音を立てはじめると、浩子は次第に我慢が出来なくなってきた。
 「ああ、駄目、おかしくなりそう・・・。」
 つい口走ってしまったのだ。浩子は嫌いきっていた目の前の小男を蔑む気持ちを喪ってしまっていた。
 浩子の股間をまさぐる浅川の指の動きが更に一段と速くなる。気が遠くなりそうな快感に、浩子は身を抗うのを諦めた。
 「ああああっ・・・・。」
 誰も居ない事務所じゅうに、浩子のあられもない嗚咽が響き渡った。失神寸前になるのを見て、浅川は浩子の足首に食い込む手錠の鍵を回して、ロックを外した。両手を背中で縛られている浩子はもう自力では立っていられない。その場に脚を大きく広げたまま、倒れこんでしまう。
 浩子の股間をまさぐっているうちに、浅川には性欲が戻ってきてはいた。が、さっき出したばかりのペニスには挿入に充分な勃起の回復にまではいたりそうもなかった。浅川は、倒れている浩子の背中に手を伸ばして、縛っていた縄を少しだけ解く。もがけば自分でも緩められる程度にすると、下半身素っ裸の浩子を一人残して、事務所を後にしたのだった。

眼鏡あり

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