臭う女

妄想小説

淫乱インストラクタ ~ 嗚呼、勘違いの一人相撲



第十三章 仕掛けられた誘惑の罠

 翌日、浩子は浅川に言われた通りのミニスカートを穿いて出社した。下には真新しいショーツを穿いてきた。汚してしまうかもしれなかったが、浅川の許可なく、パンティーライナーを当てて、沁みがつくのを防ぐことは出来なかった。
 浩子は時々ちらちら浅川の様子を伺いながらも、一日、神妙にしていた。浅川と目が合いそうになると、どうしても顔を伏せてしまう自分が情けなかった。どうしても浅川に隷従してしまう自分から逃れることが出来なかったのだ。
 浅川は逆に上機嫌だった。朝出勤時に、桂木浩子に携帯メールを送って、スカートの下の下着の画像を送らせ、自分の牝豚奴隷がちゃんと命令に従うかを確かめて悦に入っていたのだ。自分のことをびくびく怯えた目で見ている桂木の様子を、蔑むような視線でみていた。(あの女は、もう俺の思い通りだ。そろそろ俺のやりたいことを実行する時が来たようだ。)浅川は、ただ単に桂木を辱め蔑むだけではない新たな計略を考え始めていた。
 その夕方、浅川は久々に上司の磯山を呑みに誘った。一人身で淋しい磯山には、願ってもない誘いと言えた。磯山は奢るからと、いつもの馴染みの居酒屋に誘い、女将にいつもの個室を取ってくれるように頼んだ。
 「あの女、またちょくちょく匂ってますよね。」
 「あの、女って・・・。か、桂木君かい。」
 磯山は思わず、ごくんと生唾を飲み込んだ。磯山もまさにそれを感じていたからだ。
 「女性、特有の・・・、あれ・・・、あれじゃないかね。」
 磯山はおそるおそる自分の憶測を言う。
 「違いますよ。月一回の定期的なものじゃない。だいたい、最近、頻繁すぎますよ。そんな頻繁に生理がやってきたりしませんよ。」
 「君は女性のことには詳しいねえ。」
 「はっはっは。課長が疎すぎるんですよ。あれ、あれは、僕が思うに男日照りですね。」
 「男ひ、日照り・・・。また、君のいつもの説か。そうなのかなあ・・・。」
 「どうせ、男が欲しくて、たまらなくて、家に帰っちゃ、オナニーに耽っているんですよ。そういう次の日に、前の晩の夢想を思い出してしまって、あそこ、濡らしちゃってるんでしょ。だから、匂うんですよ。」
 「ほ、ほんとうなのかい、おい。」
 再び生唾を呑み込む磯山だった。胡坐をかいたズボンの下で、股間のものがむっくり膨らみ始めるのを感じ、思わず腰を上げて位置を直す。浅川の露骨な表現に、オナニーで悶える部下のOLの姿がリアルに思い浮かんでしまう。
 「課長・・・。実は、・・・。」
 「ふん、どうした。何かあったか。」
 「ええ、まあ。・・・。どうしようかな。ま、課長だから、教えちゃおうかな。」
 「なんだい、随分勿体つけるなあ。水臭いじゃないか。教えろよ。」
 「実はですね。また、見ちゃったんですよ。」
 「見たって・・・、何を。」
 「桂木・・・ですよ。あいつの・・・、オナニーシーン。」
 「な、なんだってえ。ほ、ほんとか。」
 何度も練習してきた作り話の芝居に、磯山が猛烈に喰いついてきたのは、浅川の予想以上だった。浅川は勿体をつけるように、一息ついてから、磯山の目を下から覗うようにして先を続けた。
 「何か桂木君が匂いがきついなあと思ったついこの間ですが、今日は一人で残業をしていくからっていうんで、一人残して事務所を出たんですが、駅まで行って、忘れ物を思い出したんですよ。それで、事務所に戻ったら、明かりが消えているのに、物音がするんですよ。それで、これは泥棒でも入ったんじゃないかと思い、そおっと、事務所の入口のドアを少しだけ開けて、中を覗ったんです。そしたら・・・。」
 ここで、磯山の想像を逞しくさせるために浅川は態と少し間を置く。
 「そ、そしたら・・・、そしたら、どうしたんだ。」
 「窓際のところに女の姿が後ろ向きに立っていて。どうも窓のほうを向いて、腰のあたりに両手をあてがっているようなんです。背の高さで、すぐに桂木だって判りましたよ。」
 浅川は軽蔑するように、態と名前を呼び捨てにする。
 「それが、股間に両手を当てるようにして、腰を振ってる姿が身悶えしてるようなんですよ。じっとみていたら、そのうちに振り返って・・・。でも、夢中になってたから、ドアが少し開いているのは気づかなかったようなんです。片手でスカートの前をたくし上げて、もうパンツが丸見えになっていて、もう片方の手は押し下げたパンティの中に入れ込まれて、ぐりぐりやってるんですよ。」
 (ごくん。)
 磯山は思わず唾を呑み込む自分の音に驚いてしまう。
 「そ、そんなこと・・・。い、いつもなのか。」
 「ま、まさかあ。一度だけですよ、最近では。・・・もっとも、匂いがきついなあと思う日に限って、残業で残ってること、多いみたいだから、若しかすると、僕が知らないだけで、結構、しょっちゅう遣ってるのかも。」
 思わせぶりに言葉を切って、磯山の反応を見る浅川だった。

 浅川はその次の日に計画を実行することにした。ついこの間までの一週間、浩子に同じものを穿き続けるよう命じて、たっぷり浩子の体液を沁み込ませた汚れた下着をこっそりファスナー付きのビニル袋に入れて胸ポケットに隠し持ってきたのだ。ファスナーを開けて、中の匂いを嗅いでみたことがあるが、浩子の肉体がときどき放ついやらしい香りそのものがぷうんと匂った。
 浩子が席を立ったのを見計らって、態と浩子の机の前に立ち、課長の磯山を呼ぶ。
 「課長、すいません。ちょっとお願い出来ますか。」
 課長の磯山は、目を通していた書類から目を上げた。普段なら浅川のほうが磯山の席まで足を運んで用を聞いてもらうのが普通だ。
 (何だ、いったい。俺を呼びつけて。)
 内心では思いながら、浅川が呼ぶほうへ向う。
 「課長、あの、これなんですが。」
 浅川は浩子の机の上に広げてある書類を指し示す。新規システム導入の際の見積もり計算書の束だった。
 「この間、ちょっと気になって見ていたんですが、結構、間違いがあるようなんです。ほら、例えばここ。・・・。これ、逆じゃないですか。」
 「ええ、どれどれ。」
 老眼が始まりだしている磯山は近視用の眼鏡をずらして、細かい数字のほうへ顔を近づける。その瞬間、浅川は胸のポケットへ手を入れて、ビニル袋のファスナーを片手の指で器用にあける。その瞬間、ぷうんと例の匂いが漂う。
 「ん?」
 磯山の眉がひくひく動いたと思うと、鋭く鼻をすするのが浅川にも見て取れた。
 「これって、桂木君がこの間、持ってきたやつだよね。」
 「桂木君、最近ぼおっとしている時があるから、こういう細かい仕事、よくチェックしないとまずいんじゃないかなと思って、ちょっと見ていたんです。これ、経理に出す前に、もう一度チェックしなおさせておいたほうがいいですよ。まあ、残業でやれば、小一時間で済む話ですし・・・。」
 「桂木君、急に言って残業出来るかな。」
 「ま、訊いてみたらどうです。残業、したくなる時もあるみたいだから。」
 「え・・・、まあ、そうだな。後で訊いてみよう。」
 システム見積書の束は、浅川がそっと浩子の机の上から持ち出し、こっそり中身を書き換えておいたものだった。浩子の字に似せて、態と記入を間違えたように書き直したのだった。
 浅川は、浩子が戻ってくる頃合いを見計らって、席を立ち、少し離れたところで呼びかけられないように注意しながら、様子を覗う。
 課長の磯山が浩子に声を掛け、書類に間違いがあるようだから、残業でもう一度見直してくれないかというのを確かめる。浩子はしぶしぶながら頷いていた。まさか誰かが書き換えたなどとは疑ってはいないようだった。
 浅川は時計を見る。もうじき定時のチャイムが鳴る筈だった。磯山たちに気づかれないようにそっと事務所の出口をすり抜け、トイレに向かい、浩子へ携帯メールを送る。
 (今日、残業で居残ったら、俺からの携帯の指示が届くのを待て。)
 送信を終えると、用意してきたバッグを抱えて、外へ出るエレベータのほうへ向ったのだった。
 一方の浩子のほうは、課長の磯山から差し戻された書類の束を溜息をつきながら眺めていた。課長から書類を差し戻されたのは、初めてのことだった。しかもその仕事は、元々は浅川のやるべき仕事だった。それを浅川は押し付けてきたのだ。書類に不備があるなどということはこれまで殆どなかった浩子だった。が、このところ浅川のことで、仕事中も上の空であることがあるのは事実だった。そして現に今も、自分が仕出かした書類の間違いよりは、浅川から掛かってくるであろう携帯電話での指示、いやおそらくは命令といった内容になるのだろうが、そのことばかりが気にかかって、書類の不備のことなど頭には入って来ないのだった。
 「じゃ、桂木君。しっかり、頼むよ。」
 磯山は、桂木の前を通勤用の鞄を抱えて通り過ぎる時に、意味ありげな薄ら笑いを浮かべて浩子の身体を嘗め回すようにみていたのだが、そんなことにすら気づかない浩子だった。

 事務所のあるビルを出た浅川が向ったのは、通りを隔てた向かいのビルの非常階段だった。そこは小さな会社の営業所などが共存している雑居ビルなので、不審者が立ち入っても比較的怪しまれにくく、出入りも自由だった。小さな会社ばかりなので、警備室も完備していないようなところだ。それでも浅川は誰かに目撃されるのを避けようと狭い鉄製の手摺りの非常階段を昇ることにした。一度だけ下見に昇ったことがあった。どのくらい自分の事務所が見渡せるか確認する為だった。
 浅川は、事務所の内部がよく見えるように、一つ上の6階の踊り場まで上がって、隅にバッグを置いた。勿論、事務所は外から丸見えにならないように、道路側はブラインドが下りている。浅川はブラインド越しに、自分達の居る事務所の明かりがまだ点いているのを確認する。浅川はバッグから双眼鏡を取り出し、ポケットから携帯電話を出して頃合いを見計らった。

 退社して、一旦事務所のあるビルを出た磯山は、そわそわ、居ても立っても居られない面持ちで、道路を隔てた反対側の通りにある珈琲ショップに席を取って、注文した珈琲には手を出さず、ひたすら水ばかり啜っていた。珈琲を飲み終えてしまって、店を出るように急かされてもいけないと思ったのだ。いいタイミングで出なければと思っていた。急いてはいけないと何度も自分に言い聞かせる。もし早めに行って相手に気づかれてしまったら、またとないチャンスを逃してしまうことになる。しかし、うかうかしていて、これぞというタイミングを逸してしまわないかそれも気になってしまうのだ。
 (浅川の奴は、明かりを消してと言っていた。今はおそらく渡された仕事を懸命にこなしている筈だ。そしてそれが片がつくか、目途がたったら、魔が差すのではないか。)
 それが磯山の推理だった。磯山の経験では、書類の全部に目を通して、チェックし終わるのに、桂木なら30分から1時間弱だろうと見当を付けていた。それまでは焦ってはならないと、自分で自分に戒めている磯山だった。

 非常階段の踊り場に待機していた浅川は30分きっかりが過ぎるのを待った。日が落ちるのが早くなってきているこの頃では、5時半はもうかなり薄暗くなってきている。いい頃合いだと浅川は判断した。手許の携帯を取上げ、浩子の番号を呼び出す。
 「は、はいっ。・・・。」
 震えるような浩子の返事だった。
 「仕事は終わったか。」
 「あ、・・・まだ、全部は。」
 「よし。仕事はいいから、これからは俺の命令に従え。まずは、通りに面した東側のブラインドを全部開けるんだ。」
 「えっ・・・。」
 その瞬間、浩子は外から自分が見張られていることを悟った。通りに面したブラインドは滅多に開けることはないが、年に数度ある事務所の大掃除の折には、開けるのを手伝ったこともあり、操作は知っていた。壁際にある輪になった紐を手繰ると、ズルズルという音を立てながら、ブラインドが上にあがってゆく。浩子は丹念にひとつずつ東側全部の窓のブラインドを次々に開けていった。ビル街の夜景は5階という中途半端な高さでは綺麗というほどではない。向いのビルの窓は明かりは漏れているが、殆どはブラインドから漏れる光だけで、後は通りを行き交う車のライトが眼下に見えるだけだ。薄暗くなった外に比べ、事務所の明かりは煌々と点っているので、窓のガラスには、外の景色よりは、鏡のように映る事務所内部の自分の姿のほうがくっきりと見える。目を凝らして窓の外を見たが、暗くて、何処からか覗いている浅川の姿を探しようもなかった。
 「よし、全部開けたな。お前の姿はこっちからはようく見えるんだ。言うとおりにしなかったら、酷い罰を受けるのを覚悟するんだな。」
 「そ、そんな・・・。何でも言う通りにします。」
 「よし、まずは窓際の磯山課長の机の上に腰を掛けろ。身体は道路のほうに向けたままだ。」
 浩子は携帯電話から聞こえてくる浅川の指示の意味を一生懸命考えていた。
 (机に腰を掛ける・・・?外に向いて・・・?)
 課長の磯山は世の窓際族と同じく、窓際に並んだ机に窓を背にする格好に座っている。浩子は磯山のデスクの前から椅子を脇にどけて、磯山が座る席に後ろ向きに自分の背を当てる。長身の浩子には、ちょっと背伸びをするだけで腰が机の上に乗る。浩子は両手を突いて、腰をデスクの真ん中のほうへ滑らせた。そうしてから再び携帯を耳に当てる。
 「そうだ。両手が自由になるように、携帯にイアホンを付けて、携帯は胸のポケットに入れておけ。」
 浩子は浅川からの専用の携帯を渡された時に、それに取り付けるイアホンも渡されていたことを思い出す。一旦磯山の机から降りると、自分の席まで戻り、抽斗の奥に仕舞っておいたイアホンを取り出して、携帯に繋ぐ。イアホンの先端を片耳に差し込んで本体をジャケットの胸ポケットにねじ込むと、再び磯山の机に戻る。
 「声は聞こえるな。聞こえたら頷くんだ。」
 浩子は大きく頭を動かして合図した。
 「よし、靴を穿いたまま、足を机の上に上げるんだ。」
 浩子は浅川がさせようとしている格好を思い描く。外から覗いている浅川に向って痴態を演じさせようとしているのは明らかだった。外から浅川以外の者が覗き込んでいない保証はない。定時後のビルで、窓に向って痴態を演じる女を待って覗いている者が居るとは思えなかったが、たまたま偶然に見てしまうことが考えられない訳ではない。しかし、浩子には浅川の命令に従わない訳にはゆかないのだった。

夜のビル事務所

 足を乗せる為には浩子はもう少し深く腰を机に乗せる必要があった。両手を付いて腰を後ろに滑らせる。そして両脚を広げないように気をつけながら、足首を机の上に上げた。浩子のハイヒールの踵が、磯山の机の上のガラス板の上をこつんと叩く。浩子は引き付けた脚を抱えるように両手で押えて机の上に蹲る。それでなくても短いスカートなので、覗かれている方角によってはもう下着が見えてしまっているかもしれないと思った。浩子は再び暗黒の闇の中にぼおっとブラインドから漏れる蛍光灯の灯りしかない対面のビルのほうに目を凝らして見ようとした。が、自分が居るほうが煌々と明るいためにガラスに映った自分の恥ずかしい痴態しか見えないのだった。
 「両手を背後に廻して付くんだ。そして、顔を思いっきり後ろへのけぞらせてみろ。そう、そうだ。そしたら、ゆっくり膝と膝の間を開くんだ。」
 浅川の命令は浩子を更に恥ずかしい格好へと追いやる意図を顕わにしてきた。浩子は恥ずかしさに目を開けていられなかった。目を閉じ、頭の中で自分の姿を想像する。浅川のほうから見えているであろう格好が、浩子の脳裏にありありと映った。
 「ああ、嫌・・・。恥ずかしい。」
 「もっといい格好にさせてやろう。ちょっと立って、俺の机のところへ行って、物を取ってきてもらおう。」
 恥ずかしい格好から逃れられることを聞いて、浩子はさっと脚を閉じ横に折って、スカートの下の丸見えになっていた下着を隠す。そしてスカートがずり上がらないように注意しながら、机からそっと降りると、浅川の机のほうへ向う。命じられた痴態の格好のせいで、膝ががくがく震えて、思うように前で進めなかった。まわりの机に捉まるようにしながら、何とか一番奥の壁際の浅川の机のもとに辿り着く。
 するとイアホンから次の命令が聞こえてくるのだった。
 「机の下にある物を拾うんだ。ロープと目隠し、そして非常用ライトがある筈だ。」
 浩子がしゃがむようにして浅川の机の下を覗くと、確かに隅のほうにロープの束とその上に見覚えのあるアイマスク。そしてその横には夜間の捜索などに使うような大型のサーチライト式の携帯電灯が置いてあった。
 それらを纏めて掴み上げ、(どうするつもり?)とばかりに、何も見えない暗闇のほうを振り返る。
 「そうだ、灯りは磯山課長の席の上だけを残して、他は全部消しておけ。」
 浩子は出入り口のほうを振り返る。事務所内の照明のスイッチは、出入り口の脇の壁にまとめて据えられている。最後に事務所を出るものが、照明を全て落として施錠することになっているのだ。
 浩子が灯りをひとつ、ひとつ落としてゆく。事務所内がだんだん暗くなってゆくにつれて、浩子はますます心細くなってゆく。薄暗闇の中にぼおっと磯山の席だけが仄かに明るく浮き上がって見えた。浩子は手にしたものを持って、再び磯山の席に戻った。
 「もう判っているだろう。サーチライトを付けて、窓際の桟の上に置いて、お前がさっき座っていたほうへ明かりを向けるんだ。・・・。そうだ。そしたら、もう一度さっきの格好をしてみせろ。靴を穿いたまま、足を机の上に上げて広げるんだ。
 浩子には浅川がさせようとしている格好がすぐに判った。サーチライトが影になってしまう浩子のスカートの奥を丸見えになるように明るく照らしてしまうのだ。しかし、浩子にはその命令に従う他はなかった。
 浩子が脚を机の上に上げると、目の前の鏡のようになった窓ガラスに先ほどより明らかに鮮明に、浩子の脚とその間に覗く下着が浮かび上がった。それはさながら、ハイライトを浴びた舞台上のストリッパーの様だった。
 「片手を後ろで支えて仰け反り、もう片方の手でXXXXをパンティの上からなぞりあげるんだ。ゆっくりとな。人差し指と中指を二本揃えて、最初は肛門の上に立てるんだ。まだ動かすんじゃないぞ。ゆっくり力を入れてパンティの上から突き立てるんだ。アヌスをしっかり締めるんだ。男に指を突き立てられているのを想像してみろ。」
 「ああっ、い、嫌っ。・・・、ううっ。」
 「いい声が出てるじゃないか。よし、今度は指の先を少しだけ前へずらすんだ。鼠頚部にあてて、ゆっくり、のの字を描くようにまさぐるんだ。まだ割れ目の上に触れるんじゃないぞ。どうだ、いい気持ちか。もうパンティの湿り気を感じている筈だ。」
 「ううっ・・・・、嫌。そんなこと。ああ、辱しめないで。」
 「よし、そしたら、人差し指と中指を開いて、割れ目の外側をはずして上までゆっくり撫であげるんだ。ゆっくり、ゆっくりとな。」
 「ああっ・・・、駄目。ああ、・・・。」
 「ようし、そこでクリトリスの上をゆっくりしごくんだ。ゆっくり、ゆっくりとな。のの字を描いて、力を篭めて。」
 「ああ、おかしくなりそう。ああっ、・・・・。」
 「よし、股から手を放せ。すぐにだ。・・・。よし、そしたら、横のアイマスクを取って、着けるんだ。・・・。そうだ。そしたら、手探りでロープを手繰り寄せろ。もっと右だ。そう、そうだ。ロープの端を探って。・・・そうだ。そしたら、片方の手首にそれを巻きつけるんだ。そうだ。ぐるぐると・・・。よし、そしたらその手を背中に廻して、残りの端をもう一方の手首に巻きつけろ。縛られたみたいに、自分で後ろ手に巻きつけるんだ。・・・。そうだ。」
 「ああ、・・・。」
 ハア、ハアと自分の息遣いが激しくなっていくのが浩子にもはっきり判る。パンティの下はぐっしょり濡れている。自分で興奮を止めることが出来ない。完全に、浅川にコントロールされてしまっていた。
 「どうだ。XXXXをまさぐって欲しくて、堪らないんだろう。ぐちょぐちょに濡れた割れ目が、男の指を求めて涎を垂らしているんじゃないのか。手を括られて、オナニーも出来ずにその机の上で悶えてみせろ。」
 「ああっ・・・、ううっ。・・・、ああ、嫌っ・・・。」
 浩子は後ろ手にロープを巻きつかせたまま、机の上で両脚を揉みしだくように擦り合わせながら、身悶える。
 磯山が事務所の出入り口の扉をうっすら開けたのは、明かりがひとつずつ消されていった少し後だった。それまで、待ちきれずに事務所のすぐ外のエレベータホールの隅まで来ていたのだが、煌々と明かりのついた曇りガラスの向こう側をみて、扉をこっそり開ける勇気がなかなか出なかったのだった。
 それが、ふいに、扉の曇りガラスの向こう側に人影が見え、それが扉横の操作盤をいじっているように見えたかと思うと、事務所内の明かりが次々に消えていったのだった。残業をしている筈の桂木が、仕事を終えて帰ろうとしているのかと思った。磯山が想像したようなことは起こらなかったのかと落胆しかけたところだった。最後のひとつの照明を残して、人影がすっと曇りガラスのところから消えたのだ。人影はコツコツというハイヒールのものらしい足音とともに、最後に残ったひとつの明かりの下へ向ったようだった。それを感じて、そうっと扉に近づいたのだった。
 薄暗い事務所内に一箇所、磯山の席の場所だけ明かりが点っていて、そこだけがはっきり浮き出て見える。その将に明るく浮き上がった磯山の机の上に女の影が蹲っていた。背後からだが、明らかに片手を、机の上に上げて立て膝をした両脚の間の付け根に当てている。女の肩が揺れているのが見て取れる。
 (桂木・・・。)
 思わず磯山は心の中で呟いた。夢にまで見た光景だった。
 (誰も見ていないと思って、独りでオナニーに耽っている。)磯山はそう確信した。更によく見ようともう少し扉を開いて身を乗り出そうとしていると、机の上の桂木浩子は、傍らに手を伸ばして何やら取上げた。遠めの磯山にもそれがアイマスクであることが判った。桂木はそれを自分の目に当てて自分で目隠しをした。それから更に桂木が手を伸ばしたのは、ロープの束だった。磯山が観ているとも気づかず、自分の手首に巻きつけている。そして後ろ手になると、もう片方の手首にも巻きつけ、あたかも縛られたかのような格好に自分からなったのだ。
 「あの女はきっとマゾですよ。」
 そう居酒屋で話した浅川の言葉が磯山の頭によぎった。
 縛られた格好になった机の上の桂木が、身悶えをし始めた。外に向いて横向きに寝そべり、脚をばたつかせて悶えている。それは男に股間をまさぐられたくて堪らないかのように磯山には思えた。磯山には背を向けて寝そべっているので、桂木の背中に交差された白い二の腕と、手首に巻かれたロープが見えている。
 (あれをそっと近づいて本当に縛ってしまえば、あの女の自由を本当に奪うことが出来る。)
 そう磯山が思った時にはもう、磯山の身体は行動を起こしていた。音を立てないようにそおっと扉を開いてゆき、摺り足で机の上の桂木に近づく。桂木は自慰に夢中で背後の気配に気づかない。桂木まで手が届くところまで磯山は近寄った。目の前に入るのは、生身の人間ではなく、牝の獣のように見えた。
 磯山は桂木の手首のロープに飛びついて、勢いよく引き絞ると、更にもう一度念入りに巻きつけて、ロープの端と端を結わえてしまう。あっと言う間だった。
 「あ、誰っ・・・。」
 磯山は声を立てないように気をつける。自分から手首にロープを巻いていたとは言え、磯山の行為は明らかに犯罪である。
 磯山は素早く行動した。どうするべきか考えている暇はなかった。とにかく逃げられないようにとロープの余った部分を机の下に廻して、机の足に括りつけ、反対の端も机の反対側の足に括りつける。桂木は逃れようともがいたが、足をばたつかせて無駄にスカートの下のパンティを磯山に覗かせてしまっただけだった。スカートの奥の白い下着が磯山の欲情を煽った。
 桂木は机の上に足を乗せた状態で蹲って縛られていたが、そのままでは事に及び難いと思った磯山は、桂木の無防備な足首を掴むと机の下に引き擦り下ろした。桂木は上半身だけ机の上にうつ伏せ状態の格好にさせられた。開いた脚の間に磯山の手が這いこんできた。スカートが上にずり上げられ、下着を丸見えの格好にしてから、股間に当てた掌でその中心部分をゆっくりまさぐる。既に下着は外側からでも判るぐらいに湿っていた。
 「ああっ、駄目っ・・・。」
 桂木がする荒い喘ぎは、その言葉とは裏腹の欲情を露呈しているように感じられた。磯山は手の動きを速くする。それに同期するように、桂木の喘ぎ声が高まってゆく。
 本能の赴くままに行動していた磯山も、もはや理性を抑えられなくなっていた。既に股間はズボンの下で硬く膨れ上がっている。一旦、桂木の股間から手を放すと、桂木の口から(嗚呼っ)という溜息が洩れた。

夜ビル犯し

 磯山は急いで自分のズボンのベルトを外すとチャックを下ろし、パンツも膝まで下ろして首を擡げているペニスをぶらりとさせると、再び自由を奪われた桂木の腰に両手をあて、スカートを捲り上げる。そして顕わになった桂木のショーツの両側を掴むと一気に引き下げた。剥き出しになった白い桂木の尻の中心に向けて、硬くなったペニスをあてがうと、自分の両脚で桂木の脚を広げさせ、一気に後ろから突き込んだ。
 「あうううっ・・・。」
 嗚咽とも歓喜ともつかない声を桂木が挙げた。ペニスが差し入れられた桂木の膣内は生温かく、締め込んでくるのだが、次から次へと溢れ出てくる性液のせいで、ぬるぬる滑る。磯山はペニスが抜けないように注意深く桂木の裸の腰をしっかり掴んで、ピストン運動を始める。
 「ああ、駄目っ・・・。おかしくなっちゃう・・・。」
 堪らずに桂木が大声を挙げる。磯山はピストン運動のスピードを上げる。頂点が近いのを直感する。
 (中に出してはいけない・・・。)
 本能的に磯山はそう思った。
 もう我慢出来そうもないと思った磯山は、ペニスを引き抜くと、走って机の反対側に向い、机の上にうつ伏せになっている桂木の頭を髪を掴んで引き寄せた。ペニスの先を夢中で桂木の口元に近づけた時にそれは暴発した。
 磯山は、若かりし頃のオナニーを思い出していた。スペルマが宙を飛ぶほどの射精は若い頃以来のことだった。顔面いっぱいに精液を浴びた桂木の顔が歪んだ。
 射精で果ててしまうと、急に磯山は平常心が戻ってきた。
 (このままでは拙い。)
 磯山は直感した。幸い、目の前の女性部下社員のアイマスクはずれてもいない。磯山に括られたロープで自由も効かない。結び目をみて、時間が経てば自力で解けそうなのを確認すると、声を立てないように素早く自分のパンツとズボンを引き上げ、ベルトを嵌めながら、事務所の出入り口に急いだ。扉のところで、磯山は証拠になるものを何か残していないかもう一度振り返る。桂木はまだ机の上に伏せったままだった。犯された衝撃でまだ動けないでいるようだった。
 (残したものは自分の精液ぐらいだ。それだって、DNA鑑定でもされない限り、俺のものだという証拠は出てこない。)
 そう思うと、エレベータホールの脇の非常階段を使って下へ駆け下りたのだった。

 向いの雑居ビルの非常階段から双眼鏡を使って一部始終を覗き観ていた浅川は、首尾が思った以上に上手く運んだことに驚いていた。磯山に桂木のオナニーを目撃させるところまでは想定していたが、その後、まさか磯山があそこまで手際よく、桂木をものにするとは思っていなかった。そんな展開になるのだと判っていたら、ビデオを用意しておくんだったと後悔する浅川だった。が、次の瞬間、あるアイデアが浅川の脳裡に閃いたのだった。

 次の日、桂木浩子は心なしか落ち込んでいる風だった。反面、課長の磯山は上機嫌を通り越して、鼻歌まじりの陽気さだった。磯山は桂木が誰に犯されたのか判らないので塞いでいるのだろうと思い込んでいた。
 (実は俺なのさ。)と喉まで出かかった磯山だったが、そんな事をすれば、強姦罪で訴えられかねない。名乗り出たいのを抑えるのがやっとだった。
 一方の桂木は、ゆうべ自分を犯したのは、浅川だと信じて疑わなかった。あの場所であんな事をさせられているのを知っているのは浅川しかいないのだ。後で本当に縛って犯すつもりで、最初から自分にアイマスクで目隠しさせ、自分で手首を後ろ手に括り付けさせたのだと思っていた。桂木が塞いでいたのは、恥も外聞もなく、後ろからの突きに感じ入ってしまったことだ。まさか、忌み嫌っている浅川に後ろから犯された自分があれほどまで悦楽の歓びで濡れてしまうなどとは思いたくなかった。しかしそれは夢でも幻覚でもなく、事実なのだった。それが浩子には恥ずかしくて堪らなかったのだ。
 磯山のほうは、まさか浅川に仕組まれたことだとは思いもしないようだった。すべては自分の才覚であそこまで事に及んだと思い込んでいる。それだけに上機嫌なのだろうと浅川は思っていた。
 磯山は桂木の思いを探るように、チラチラと桂木の顔色、様子を窺っていた。桂木は桂木で、自分を犯し、その快楽に負けたのを見られてしまった浅川の顔色、様子を窺っている。そして、全てを知っている浅川は、次の手を打つタイミングを計って、上司、磯山の様子を窺っていたのだった。

 「なあ、浅川君。君に話したいことがあるんだ。今夜もちょっと寄ってかないか。」
 盃を開ける格好をしながら、上機嫌の磯山は浅川を呑みに誘う。誘われた浅川は、それとは裏腹に神妙な顔で、上司に答える。
 「あの、課長。実は私もお話したいことがあるのですが。」
 「じゃ、都合いいじゃんか。よし、定時後にすぐ行こう。」
 定時が待ち遠しいように壁の掛け時計を見上げ、鼻歌を歌いながら仕事に戻る磯山だった。
 「今日は残業はしないんだね、桂木君。」
 定時のチャイムが鳴り出したところで、とぼけた振りをしながら、磯山は部下の桂木浩子に声を掛ける。それは暗に、今日は飲みに行くんで、覗けないから、オナニーはしなくていいんだよと心の中で呟いているつもりなのだった。
 しかし、磯山が自分と浅川のことを知っているとは思っていない浩子には、皮肉も通じない。夕方、磯山が浅川を飲みに誘っているのを、横で聞いていたので、浩子は今夜は浅川に酷いことを命じられないで済むとほっとしていたのだ。
 「今日はこのまま、帰らせてもらいます。それじゃ。」
 そそくさと帰り支度をすると、席を立った浩子だった。
 「じゃあ。我々は、男同士の話がいろいろとあるんでね。今度は桂木君も誘おうと思うけど、今日は男だけでね。」
 (誘われたって、断られるだけなのに。)そう思いながら、課長の言葉を無視してロッカーへ向う浩子だった。
 早く浅川に話したくて、その思いで舞い上がっていた磯山は、その日に限って妙に浅川が神妙な顔つきでいるのに気づきもしなかった。

 いつもの居酒屋で注文の酒が来て、二人になるやいなや磯山は切り出した。
 「なあ、浅川君。君の女を見る目は見直したよ。・・・いや、何故ってね。君が言ってたことが本当だって判ったからさ。・・・つまりね。あの女はマゾだって、前に言ってた話さ。そう、桂木君のことだよ。実は、ゆうべ、俺もあの子のオナニー、するところ、見ちゃったんだ。たまたま忘れ物を思い出しちゃってさ。まさかと思ったけど、誰か居るといけないと思って、そおっと事務所のドアを薄めに開けてみたんだ。そしたら、何と、君の言う通りだった。きつい感じの眼鏡でいつも澄ましている癖に、案外、淫乱なんじゃないかな。あの桂木嬢・・・。」
 自慢げに話している磯山は殆ど浅川の顔もみずに、上機嫌で滔々と話しを続けていた。
 「あの女、誰もいないと思って、ブラインドまで上げて、外に向ってオナニーをしていたのさ。マゾだけじゃなくて、露出癖もあるのさ。外に向けて足を開いて、堂々とオナニーをするんだぜ。・・・それで、あいつがマゾだとわかったのは、その後さ。自分でアイマスクを嵌めて、ロープを出して、自分で自分の腕を縛り始めたんだ。後ろ手に。そして男にでも犯されていることを想像してたんだろう。机の上に這いずりまわって悶えてるんだ。パンツだって丸見えだったぜ。」
 磯山は自分が初めて発見でもしたかのように、自慢げに自分が観た光景を浅川に説明するのだった。が、その後、近づいていって、本当に縛り上げ、挙句に後ろから犯したという話には触れなかった。幾ら痴話仲間とは言え、犯罪行為を自白する訳にはゆかないと磯山も考えたのだ。勿論、そのことも話してみたい誘惑には駆られていたのだが、そこは会社の上司としての立場が理性を保たせたのだった。
 「課長、それで、その後、どうしたんですか。」
 「えっ、どうしたって・・・。その、ずっと観てる訳にはゆかないから、そっと事務所を去っただけさ。ほんとだぜ。」
 「課長。私も話しがあると言ったのはそのことなんですが・・・。」
 浅川は、話したものかまだ踏ん切りがつかないかのようだった。
 「何だよ。そのことって。・・・、えっ、まさか、俺に関係あることか。」
 「実は、あの事務所には、防犯カメラがあるんです。夜間、不審者が闖入しないかと、ビルの管理会社が入れたらしいんですが。実は、警備室のガードマンに懇意にしている知り合いがいて、ゆうべどうも防犯カメラが作動したらしいっていうんで、慌てて、それは会社の社外秘事項だから、勝手に見ちゃ困るって言って、テープを引き上げたんですよ。」
 「な、何だって・・・。」
 磯山は、回りの世界がぐるぐる回り始めたような錯覚を感じた。
 (何てことだ・・・。)
 磯山のまわりで全ての秩序が音を立てて崩れ落ちるような気がした。
 「き、君っ。そ、それで、そのテープを観たのか・・・。」
 浅川は態と、じっと黙って磯山の顔を見詰めていた。
 「み、観たんだな。その後、何があったか、お前。観たんだな。」
 浅川は勝利を予感して、ゆっくりと頷いた。逆に磯山はがっくり肩をおろす。
 「か、返してくれ。そのテープ。な、返してくれるんだろうな。」
 詰め寄るように浅川に畳み掛ける磯山だった。が、浅川は表情を変えなかった。
 「課長・・・。返すも何も、あのテープはそもそも課長のものではありませんよ。」
 「じゃあ、誰のものだって言うんだ。」
 「会社の物です。」
 浅川はきっぱりと言い放った。
 「会社って・・・。」
 磯山の脳裡に、そのテープが社内倫理委員会に手渡されるシーンがよぎる。(マスコミに知れる前に、自主退職を勧告する。)そんな言葉がふと頭に浮かぶ。
 「ま、まさか・・・。お、お前・・・。」
 浅川は磯山に少し考える時間を与えるように、暫く押し黙ってから、ゆっくり口を開いた。
 「課長・・・。私には、提案があるんです。強要するものではありません。誤解のないように。課長は忙しい人だから、補佐が必要だと思うんです。だから、補佐役を置くんです。つまり課長代理ってことです。課長としての権限を委譲して、課員たちには課長の命令と同じように、課長代理の命令を聞くように通達を出すんです。」
 「そ、それって・・・。お前に課長代理を命じるってことか。そんなこと、会社の人事がいいって言う訳ないじゃないか。」
 「それは、人事に言えばそうですが、なにも人事に相談する必要なんかありませんよ。課内部だけの事情なんだから。」
 「そ、それを呑んだら、あのテープを返してくれるって言うのか。」
 「いや、そうはいきません。だけれども、私を課長代理に推してくれる人が不利になるような情報を会社にばらまいたりはしませんよ。そりゃあ、当たり前でしょ。」
 「だって、そんなこと、皆が認めるかな。」
 そう言いながらも、磯山には出来るかもしれないという考えがよぎり始めていた。
 「そんなに人数の居る課じゃないし、課長がきっぱりと皆に言えば、そうかなと思うしかないですよ。別に課長を辞めて代わる訳じゃないし、課長の代行が出来るように、権限を委譲するだけですから。」
 「まあ、そう言えば、そうだが・・・。」
 「どうです。考えてみませんか。・・・。別に何かを楯に、脅そうっていう訳じゃありませんから。そうだ。脅しの強要でない代わりに、課長にもメリットを享受させましょう。」
 「メリットの享受だって。どんなメリットがあるって言うんだ、この俺に。」
 「ふふふ。実は、私には言いなりにさせることが出来るある女性が居るんです。何かのお楽しみがしたければ、それに従わせることが出来るんです。その女を課長にも時々使わせてあげましょう。」
 「言いなりになる女だって・・・。それって、まさか・・・。あの、桂木君のことか。」
 磯山は唖然とした表情で浅川のことを見詰めるのだった。
 磯山はゆうべの桂木浩子を縛って犯した、あのシーンを思い起こしていた。
 (あんなことが、もしかしたら又出来るのかもしれない。いや、もっと凄いことも出来るのだ・・・。)
 磯山は浅川の指示で自分の言うことを聞かせて服従させる桂木浩子の姿を思い描く。それこそまさに叶う筈のない磯山の夢であった。
 「ほ、ほんとうなのか。言いなりになるっていうのは・・・。」
 「課長としての権限を私に委譲してくれるっていうんだから、それくらいのサービスはしないと。ね、これは脅しとか、恐喝ではありませんよ。ビジネス取引です。いわば、ギブアンドテイクってやつですよ。あのテープは、この契約の為の担保だと思ってください。」
 磯山は浅川のペースに乗せられて、だんだんその気になっていった。浅川には磯山の表情が、怯えから徐々に興奮に変わってゆくことで、確実な手応えを感じ取っていた。
 「例えば、こんなの、どうです。強姦ごっこです。あいつ、芝居は結構上手いんですよ。芝居が上手いっていうより、自分が感じる為に、態とその気になろうとしているみたいですね。課長が言うように、あいつはマゾなんで、強制的に犯されたりすることに異様に反応するんです。興奮度合いが違うんでしょうね。僕も一度やったことがありますが、迫真の演技ですよ。事務所に残って残業しているところを上司の課長がいきなり押し倒して、服を脱がそうとする。女は逃げようとするが捉まってしまう。逃げられないように両手を後ろ手に縛られ、スカートを捲られる。女は嫌がって抵抗するが、そのうちに性の欲情に負けて、悲鳴を上げながらも最後は昇天するまでイってしまう。こんなストーリー、あいつが一番得意なパターンですよ。」
 「そ、そんなこと。ほ、ほんとうにあの女にやらせることが出来るっていうのか。・・・。よし、わかった。そんなことが出来るんだったら、課長の権限でも何でも呉れてやろう。」
 浅川には、磯山の目が興奮で血走っているのが見えた。これほど簡単に術中に嵌るとは浅川さえも自信がなかったが、浅川の作戦通りにことが運んでいた。

眼鏡あり

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