妄想小説
淫乱インストラクタ ~ 嗚呼、勘違いの一人相撲
第五章 出現した邪魔者
樫山の会社への出張派遣が終わってしまうと、浩子にはまた再び、単調で退屈な日々が戻ってきた。樫山との刺激的な日々を何度か過ごしてしまうと、もうどんな仕事も浩子の興味を惹かなかった。他のどんな場所へ出張で出掛けても、そんなエキサイティングなことは起きなかったし、プライベートでは相変わらずの孤独な日々の繰り返しでしかなかったのだ。
あの日以来、浩子は寝る前に、樫山との出来事を思い出したり、新たな出来事を妄想したりしてオナニーに耽る誘惑を断ち切れなかった。駅前の雑貨屋を物色して、木綿製のロープを捜しだし、わざわざ店員に「洗濯物を干すのに使える何か紐みたいなものはないかしら。」と声を掛けてから、とっくに選んであった綿ロープを買い求めた。ベッドの下に隠しておいて、夜寝る段になると、それを引っ張り出して、自分で両手首に巻きつけてみて、樫山に犯される自分を想像するのだった。
本屋では男性雑誌コーナーの隅にSM関係の本がひっそりと置かれているのを発見して、どうしてもそれが見てみたかった。しかし、結婚前の若い女がそんなものをレジへ持ってゆくことは、どうしても出来なかった。店員にどう思われるかと考えただけですくんでしまう。その本の前を何度も行ったりきたりしながら、レジを通さずに万引きして手に入れる誘惑とも戦っていた。それをかろうじて抑えさせたのは、万が一万引きが発覚して、盗んだ本の内容がばれるという恐怖感だった。それで、アパートに帰って、本屋でSM雑誌を万引きして見つかって捕まるところを夢想することで我慢した。その夢想に出てくる店員は、樫山だった。店員になった樫山は、SM誌を手にしている浩子の腕を捻りあげ、店の奥へ連れていって、警察に通報しない代わりにと縄で縛ってさんざん折檻するというものだった。
男性経験の乏しかった浩子は、樫山に対する感情をどう解釈していいのか計りかねていたが、少なくとも恋愛だとは決めかねていた。少女趣味的な憧れのようにも感じていた。それがSM趣味の樫山の調教なのだと分かっていても自分を愛しんでのことだとは思いたかったのだ。
待ちわびていた樫山からの次の説明会の開催要請があったのは、一箇月後だった。しかも、その中でも好ましいG県にある事業所での説明会だった。樫山自身が所属するのは、A市の事業所なのだが、G県の事業所は樫山の居るA市の部署の管轄なのだ。その為、いつも研修には樫山が同行することになっていたし、電車の便の悪いG県の事業所の時には、いつも樫山が最寄の駅まで会社の社有車で迎えに来てくれるのだ。その為、往きと帰りに必ず樫山と二人きりになるチャンスがある。しかも樫山はG県地区の従業員ではないので、研修会以外では、時間的な拘束がない。それは浩子自身も同じで、研修会さえ終わってしまえば、あとの時間は自由だった。樫山の居るA市事業所にも出掛けていって、研修会のインストラクターを務めたこともあった。が、その時は機器のセッティングで、二人きりになった時に、ちょっと妖しい雰囲気になっただけで、何も起こらなかった。A市では何か起きそうな場の設定という面でも無理があるのだ。
浩子が所属する部署には今現在、インストラクターを請け負う担当が浩子を含めて二人居る。もう一人は浩子より年下で、数年前に他の会社から移ってきた浅川という男だ。一応テリトリ分けがあって、関連会社の中でも樫山の居るA市事業所を含むKT地区は浩子の担当、浅川はもう一つの事業所の多い地区であるT県地区担当だった。従って、普段の事務所は一緒でも、出張で一緒になることはなかった。
待ちわびていた樫山からのG県での説明会の要請は、当然ながら浩子の担当と決まっていた。ところが、ここに全く想定していなかった邪魔が入ったのだ。
浩子が上司である磯山という課長に、樫山からの要請の話をして、出張予定を告げに行った時、後ろにいた浅川がでしゃばってきたのだ。
「また、出張ですか。桂木さんは、このところ出張が多過ぎじゃないですか。」
浅川が不満そうに声を掛けてきたのだ。浅川の担当しているT県地区にもKT地区に劣らないくらいの事業所がある。それなのに、説明会開催の要請が少ないのには、ひとつは浅川の説明があまりうまくなく、評判がよくないというのがあるらしかった。(説明を聞いてもよく分からなかった)というアンケートが届いたこともある。反面、浩子のプレゼは概して評判が良かった。いい印象が口コミで伝わって、「それなら、私の部署でも」ということになるらしい。浅川の場合には、「あんな説明聞いたって、大して役に立たないよ。」という口コミになるらしかった。
浩子は磯山の前で、くるりと振り返って、目を吊り上げながらきっぱり言い放った。
「私のテリトリは私に責任がありますから。浅川さんに説明会開催要請が少ないのは、説明の仕方にも問題があるのではなくって。説明の仕方を練習するなりして、もう少し工夫してみたらよいのではないかしら。」
ぴしゃりと言い放ったつもりだった。浅川は、身分は同等だが、一応後輩で年下だ。しかし、背後で今度は磯山が意外なことを言い始めた。
「そうだな。浅川君に説明会の要請が少ないのも、経験不足な面があるかもしれないな。どうだい、今度のやつは浅川君に回して、彼の経験を積む機会にしてみては。君だって、こっちの在勤業務が溜まっているだろう。」
浩子はぐっと詰まった。樫山との逢瀬があるので是非にも行きたいなどとは言えない。
「課長。お言葉ですが、私は自分のテリトリの仕事にはそれなりの思い入れを持ってやっています。クライアントにはいい評価も貰っているつもりです。変なローテーションなんかして、折角築いてきた評判を壊したくないのですけれど。」
浩子の剣幕に課長の磯山は暫し唖然とした。が、磯山自身も確かにこのところ、桂木浩子の出張は回数が多くなり過ぎているようには感じていたのだ。
「まあまあ、桂木君。君の気持ちも判るが、会社は一人で仕事をしてるんじゃないんだから。浅川君にも育って貰って、バックアップをいつでも取れる体勢にしておかなくちゃならんだろう。どうしても君が行かなくちゃならんという格段の訳があるのでもないんだろ。今回は浅川君の経験を積ませるということで、浅川君に任せちゃどうだ。ええ。」
「自分が行かなくてはならない格段の訳」という言い方に、浩子は二の句を継ぐことが出来なかった。樫山とのことを少したりとも、悟られてはならないのだった。へたな言い訳を言い足せば、墓穴を掘る畏れもあった。
「まあ・・・いいですけど。判りましたわ。じゃ、今回だけは浅川さんに行って貰います。」
浩子は、今回きりだということを強調した。(まだチャンスはあるだろう)と内心で自分を慰める。
「その代わり、へたなプレゼはしないようにしてくださいね。この事務所の評判にもかかわりますから。」
「へっ、大丈夫ですよ。依頼先からのメール、僕んとこへ転送してくださいね。」
勝ち誇ったかのように、浩子に薄笑いをしてみせる。浩子にとっては、何かにつけて腹の立つ相手だった。この事務所に入ってきた当初は見習いのように、浩子の部下としてつけられ、色々面倒も見てやったのだが、最近になって、自分の力量はよそに、何かと自分は対等であることを強調したがっている風で、それが浩子には気に入らなかった。そもそも配属されてきた時から、浩子は好きになれないタイプと割り切っていて、出来る限り仕事の上でも関わらないように気をつけている。ある程度、プレゼも出来るようになって、テリトリを浩子とはっきり分けようと提案したのも浩子からだった。
「桂木君には、僕のほうから、頼みたい別件があるんだ。僕のほうでも手に余っている案件があってね。今度、残業して一緒に片付けてほしいんだがな。」
上司に言われては逆らえなかった。
「はい。判りました。ちょっと失礼します。」
あまり気分よくは受けていないことを示すかのように、浩子は磯山の前を辞して、給湯室のほうへ向かって、すたすたと歩いていった。
「何か君、桂木君を怒らせちゃったんじゃないの。仲良くやってよ。君達。」
磯山は自分には責任がないことをはっきりさせるかのように、浅川のほうへ釘を差しておくのを怠らない。
浩子は浅川にメールを転送する前に、業務の都合で対応出来ない言い訳と、代行を浅川という担当にやらせる旨のメールを樫山に向けて発信する。そこはかとなく、自分が行けなくて申し訳ないというニュアンスが伝わるように、文面を工夫した。その上で、当初転送すると言った樫山からのメールは直接転送はせずに、依頼された日時の文面だけを打ち直して、樫山の連絡先も載せずに浅川へ送った。樫山との窓口はあくまでも浩子自身でやるつもりだった。
その夜、磯山は、退社後、浅川を飲みに誘った。時々退社後に寄るいつも居酒屋だ。磯山は、数年前に離婚して、目下のところ独身だった。本当は浩子のほうを誘いたいのだが、以前に一度体よく断わられてから、言い出す勇気がなかったのだ。
「なあ、君。桂木君とはどうなんだ。」
「課長、どうと言われますと。」
「仕事以外なんかでは、おつきあいなんかしないのかね。」
磯山は探りを入れるようにさり気なく浅川に訊ねた。
「僕なんか、相手にならないって感じですよ。いつも、つんつんして。もっとも、僕のほうにだって選ぶ権利はありますからね。飛びっきりの美人って訳じゃないし。まあ、身体だけは、結構、いい線してますけどね。」
意味ありげに浅川は(いひひ)と笑う。磯山もその笑いにつられた。磯山の目にも、浩子の顔は十人並みにしか映らない。仕事をしている時以外は眼鏡を外しているようだが、細身のあのきりっとした眼鏡がないと、いかにも野暮ったく、田舎くさい。眼鏡を取ったほうがブス顔というのは珍しいと磯山も思っていた。
しかし、身体のプロポーションの良さは、磯山も認めていた。会社でも時々ミニスカートを穿いてくるが、席を立つときに、ずり上がったミニの裾から覗く腿を斜め横から見させられるとはっとする。なによりも長身で脚が長く、太ってはいないのに、貧相ではなかった。むしろ肉付きはいいほうで、運動選手のようだ。「バレーボールでもやっていたの。」と訊いてみたことがあるが、運動神経は良さそうだが、スポーツ経験はないとのことだ。スカートではなく、パンツルックの時でも脚の線を強調するようなぴっちりしたものを穿いてくるので、余計に目が行ってしまうのだった。
「プレゼの評判がクライアントからいいなんて言ってますが、どうだか。どうせ、脂ぎった中年親爺たち相手に、ミニスカートからパンチラぎりぎりの格好を見せて、気を惹いてるだけなんじゃないですか。いひひひひ・・・。」
浅川の露骨な表現に、磯山もついその姿を思い浮かべて、相好を崩す。
「確かに、あの脚は色っぽいからなあ。」
「まあ、脚だけはね。」
磯山も独り寝の寂しさに、浩子のことを想像してマスターベーションをしたこともある。プレゼ時によく着てくる細身のダークスーツに身を包んで眼鏡をきりっと掛けた浩子を後ろ手に縛り、嫌がる浩子を抑えつけて、尻からスカートをまくって後ろから犯すのだ。想像力の乏しい磯山には、オナニーをするにも想像する身近な女性と言えば、浩子ぐらいしか居なかったのだ。
その夜は、浩子の身体を巡って卑猥な談義が続いていったのだった。
翌朝、浩子は磯山に呼ばれた。
「今度のG県事業所の説明会の件なんだけどね、君にも行って貰うことにするよ。」
「えっ、私・・・にも?」
「ああ、先方から連絡があってね。会場の都合がどうしてもつかなくて、少し小さな会場でどうしても二箇所で同時に開催したいっていうんだよ。それで、なんとかならないかってね。二人でいけばなんとかなるだろう。先方も早くシステムを動かせる人間の数を確保したいって意向があってね、いつまでも延ばせないんだそうだ。まあ、こっちとしても早くシステムを稼動して貰わなくちゃ商売になんないからな。」
「私でしたら、構いませんが。」
「それなら、二人して行ってくれ。ただ、その分、この間頼もうとした案件、次の日に浅川君と残業して貰って、なんとか仕上げて貰うという前提なんだが、いいかい。」
「わかりました。何とかします。」
「そうかい。頼んだよ。」
浩子は、思わず、笑みがこみ上げてくるのをかろうじて抑えながら、踵を返して磯山の元を立った。しかし浩子も、それが樫山が仕組んだものだったとは思いもしなかった。
二人して出掛ける出張までの間、浩子はどうやって浅川を先に帰して、樫山と二人きりになるかを考え続けていた。不自然になってもいけないし、万が一にも浅川に樫山との関係を感づかれてはならないと思った。だから無理をすることは出来ないと思ったのだ。二つの会場に分かれてプレゼをするので、浩子のほうをわざと時間を長引かせ、浅川のほうを先に帰すというのを考えた。しかし浅川が、浩子が終わるのを待たずに先に帰るというのはいかにも不自然だった。現地集合、現地解散にして、浅川にはタクシーを使ってゆかせるというのも考えたが、タクシーに同乗しないのもいかにも不自然だ。いい手を思いつかず、浩子は樫山に今回は二人なのでどうやって行きましょうかとメールで訊ねてみた。
返事は素っ気無く、いつもどおり駅でピックアップするので、二人で駅にて待っていてほしいというものだった。
その日は、浩子は黒のパンツ系のスーツにした。お尻のラインをくっきり際立たせるぴっちりしたものだったが、タイトなミニスカートよりは刺激は少ないと思ったのだ。一緒に行く浅川に、色仕掛けで人気を取っているなどとは思われたくなかったのだ。樫山には二人っきりになれたら、思いっきり奉仕することで、埋め合わせをしようと思っていた。
前日ぐらいから、樫山と再会することを考えると、あの部分が潤ってしまい、ショーツの裏側を汚して仕方がないので、その日もパンティーライナー式のナプキンを当ててゆくことにした。午前中、事務所に出社し、昼休みを別々に会社の近くで採ってから、浅川と待ち合わせて駅へ向かった。浩子は最低限の必要なことしか、浅川とは口を利かなかった。浅川のほうでも浩子の機嫌を損ねないように、無理やり話し掛けてくることはしなかった。それでも1時間ほどのローカル線で席を隣り合わせに座っての旅は、浩子には不快感ばかりが募って仕方なかった。
駅で浅川と並んで待つと、樫山の車はいつもどおり、いつもの時間ぴったりにやってきた。五人乗りのセダンだが、浩子は浅川から何か言われる前に、さっと自分から助手席に乗り込み、浅川は後部座席に座るのが当然という雰囲気を作った。「お世話になります。いつもはT県地区を担当しております浅川です。」浩子は後部席の浅川のほうに視線を向けて、樫山に紹介する。
「樫山です。よろしく。」
「浅川でございます。はじめまして。こちらは初めてなので宜しくお願い致します。」
浅川も神妙に挨拶をする。
樫山は二人を交互に見ながら、ちょっと躊躇した様子で切り出した。
「実は、大変申し上げにくいことなんですが・・・。ついさっき連絡が入りまして、今日の会場なんですが、二会場に分かれてと連絡を差し上げて、無理してお二人にお越し頂いたのですが、大きな会場のほうのイベントが急遽キャンセルになりまして、大きなほうの会場で出来ることになってしまったんです。」
浩子と浅川は顔を見合わせる。咄嗟に浩子は判断した。
「仕方ありませんわ。もう来てしまったのですから。樫山さんのせいではないですし。判りました。それじゃ、浅川君、これで社に戻ってくれる。」
「いやあ、もうこの時間から帰ったんじゃ、向こうに着いたってすぐに定時で仕事になりませんから。磯山課長も折角、経験を積む為にって言ってくれたんだし、僕がやります。」
「判ったわ。じゃあ、二人していきましょう。パソコンの操作と、プレゼを分担してやりましょう。」
「済みません。手前どもの不手際のために。宜しいですか。それじゃ、車をスタートさせますから。」
浩子は、それでも自分だけが帰るという状況にならなく出来ただけで良しとしようと言い聞かせていた。浅川に変に怪しまれないようにすることがとにかく大事だと自分を納得させる。いつもより樫山も無口なのは、浅川が居るので自分に気を遣ってくれているのだと思おうとしていた。
結局、プレゼは練習の為に浅川にさせることにし、パソコンの操作も普段のプレゼと同じになるようにと、浅川に操作させながら説明をさせるやり方とし、浩子は後ろでその様子をチェックするということにした。浅川が今の部署にやってきた当初は、よくこのような形で浩子がチェックしながら浅川にプレゼをさせて、いいところ、悪いところなどを指摘して指導をしていた時期があったのだ。
会場は前回と同じ設定だった。壇上にテーブルを置いてパソコンをセットしている。テーブルの下は素通しなので、デスクトップのパソコン本体の下に浅川の足が見える。浩子は前回の時のことを思い起こしていた。突然、パソコンがハングアップして慌ててメモリスティックを差しなおして居た時に、スカートの中を思いっきり晒してしまっていたことがよく判る。こんな風に見られていたのかと思うと、顔から火を吹くような恥かしさを憶えた。
浩子は一番後ろの席に、樫山と並んで座っていた。プレゼが始まって、樫山からの紹介が終わった後、一番後方に座ったのを見届けて、浩子もそこへ行って座ったのだ。樫山はこの説明会の事業所側の主催者で、浩子はこのプレゼの実行責任者であるので、不自然には見えない筈だった。会場はスクリーンに映し出されるパソコンのモニタ映像が見やすいように、照明を落として少し暗くしている。
浩子はすぐ傍に樫山の存在を感じて、次第に緊張してくる。が、樫山のほうは、いつもどおりいたって冷静で、何の素振りもみせない。それが浩子には多少不満だった。
(やっぱりミニのスーツにするんだった。)
浩子は樫山の隣で、座ると少しずり上がってしまうミニの裾を手で少しずつ更にずり挙げて、太腿をぎりぎりまで露わにし、樫山を挑発するところを想像した。パンツスーツではそんな芸当はしたくても何も出来ない。
浩子は暑い振りを装って、胸元のブラウスのボタンをひとつ外した。胸はそれほど豊かなほうではないので、ブラウスのボタンを二つ外したところで、それほど挑発的には見えなかった。
今度は、浩子は腰の横においた手で拳を作って、親指を中にいれ、人差し指と中指の間から突き出す形にする。田舎の女子高に通っていた頃、東京のほうから転向してきて仲良くなった友人に教えられた仕草だった。それはセックスをしたいという印なのだと、その都会からやってきた女学生は浩子に教えたのだった。してみると、実に卑猥な形をしていて、見せられただけで、恥かしくなるような形だった。それを今、浩子は樫山の隣で、もうほんの数センチで樫山の腰に触れそうな距離で、その卑猥な形を作っているのだった。
すぐ横に居る樫山を意識しながら浩子は心の中で東京から来た女学生に教えて貰ったサインに合わせて口にする呪文を心の中で唱えていた。
(オマンコハメテ・・・。オマンコハメテ・・・。)
浩子は樫山とのセックスの想像に夢中になって、壇上の浅川のプレゼはすっかり頭に入ってきていなかった。その浩子を樫山の声が我に返らせた。
「桂木さん。君の同僚、困っているみたいだよ。」
ふと我に返って、壇上を見上げると、スクリーンにある筈のパワーポイント画面は消えていて、起動時の画面になっている。が、それも凍り付いているらしく、カーソルが空しく動き回るのだが、そこから全く変化していない。テーブルの前では浅川が顔を真っ赤にさせてしきりにキーボードを叩いていた。あたりの聴衆もざわめき始めていた。
「浅川ったら、何やってんだろう。」
浩子はすくっと立ち上がると、ホールの端を通って、舞台の袖へ急ぐ。
「リセット。リセットよ、浅川。・・・何やってんの。早くっ。」
しかし、壇上の浅川は頭を掻くばかりで、事態は一向に進展しなかった。仕方なく、浩子は舞台脇の階段から壇上に上がる。
「どいて。」
浩子は浅川をどけると、キーボードからパソコンにハードリセットをかける。画面が一旦消えて、パソコンが立ち上がる時の画面に切り替わる。
浩子はマイクに向かった。
「不手際を起し大変申し訳ありません。今、パソコンを再起動しておりますので、もう少しだけお待ちください。」
マイクから口を離すと、今度は横の浅川に小声で話し掛ける。
「えーとどこまでやったの。あ、ここね。いいわ。後は私がやるから。・・・降りてみてなさい。」
後方のスクリーンで再起動の状態を確かめながら、浩子は再びマイクに向かって話し始める。
「えー、先ほど、浅川が説明しておりました、検索結果を表示する方法ですが、二通りのやり方がございます。先ほど浅川が示しました方法が、ひとつ。ただ、慣れてきましたら、もう少し簡便に操作することも可能です。あ、今、パソコンの起動が終了しましたので、画面上でこの操作を実演してご覧いただきます・・・。」
浅川に代わって、説明をてきぱきと続けながら、浩子は聴衆席の一番後ろに座っている樫山をちらっ、ちらっとチェックしていた。さっきまで座っていた最後部に樫山はまだ居たが、表情までは暗いので見てとれない。浩子は樫山に見せつけるように、いつもより声を張り上げてプレゼを続けていった。
「本当に申し訳ありませんでした。」後ろに浅川を従えて、浩子は樫山に深々と頭をさげる。
「いやいや。ただ、桂木さんが一緒にいらして、後を続けてくれたおかげで何とか収拾がついて助かりましたよ。皆さんも一時はどうなるかと、帰りかけた人も居たようで。」
「ほんとうに済みません。機械がうまく動かなくなった場合の対処方法も当然教えているんですけれど。浅川君。どうしたの、あの失態。」
「いや、教えられた通りの修復をかけた筈なんですけど・・・。やっぱり、僕の操作がいけなかったのかなあ・・・。」
「まだ、言ってるの。少しは自分の責任っていうものを自覚しなさいよ。樫山さん、本当に行きとどかなくて、申し訳ありませんでした。」
「いや、僕はいいんだけど。・・・、ああ、そうだ。こっちの事業所長が今日は在席しているらしいんで、一言、挨拶していってくれれば助かるんだけど。」
「そうですか。承知しました。私のほうからもお詫びも申し上げたいし。ね、浅川君。あなた、先に帰っていて。あなたが四の五の言い訳なんかしたら、余計にクライアントの心証を損ねてしまうわ。タクシーで先に帰りなさい。」
浩子は喋っているうちに勢いがついて、浅川に文句を言わせる隙を与えずに、独りになれる上手い口実を作ってしまっていた。
「わかりました。それじゃあ、後は宜しくお願いします。・・・僕、先に戻ります。」
肩を落として去っていく浅川を見送りながら、浩子は期待に胸を膨らませていた。
「それじゃ、事業所長のところへご案内します。」
樫山が先に立って歩き始めたので、浩子はすぐにつき従った。
樫山が浩子を案内していったのは、工場内で、プレゼをしたホールのある建物とは反対側にあるニ階建の古い建物だった。
「こちらは、今の会社に吸収合併される前に、ここの事業所が独立会社だったころの本社で、今の事業所長は当時で言えば社長にあたるので、ちょっと古いですが、社長室だったところです。」
ガラス張りの正面玄関から建物に入ると、すぐに階段を上がり、長い廊下をどんどん奥に向かって歩いていく。擦り切れた古い絨毯が嘗ての社長室であったことを示していた。
階段を昇りきったところにはガラス張りの部屋があって、いかにも秘書室という風情だったが、誰も居なかった。
「秘書の方はいらっしゃらないんですか。」
歩きながら浩子は樫山に訊ねてみた。
「昔は居たんですが、事業所長という立場になってからは、A市にある本社のほうへ行っていることが多くて、秘書室は殆ど使われていないんですよ。確か工場総務課の庶務が兼任しているのだったと思います。あ、ちょっとここで待っていて貰えますか。」
樫山は廊下にある革張りの長椅子を指し示した。
「判りました。お待ちします。」
そう答えて浩子は長椅子に腰を下ろす。樫山は独りで社長室らしき部屋へノックして入っていった。独りになって、浩子はしいんとしてしまった廊下を見渡す。ひと気が全く感じられない社長室のある建屋は、今では殆ど使われていない風だった。殆どの従業員は工場のある建屋に付随している事務所に居るらしかった。
暫く待たされた浩子だったが、元社長室の扉が開いて、中から樫山が顔を出し、目配せで入るように合図する。
事業所長とは面識のない浩子は少し緊張しながら、扉の中へ足を進めた。
恭しくお辞儀をしようとしたが、部屋の中には樫山の他は誰も居ないのに気づいて、唖然とした浩子だった。後ろでガチャリと音がする。樫山がドアに錠を掛けた音だった。
「事業所長は急用が出来て、本社に戻られたそうだ。さ、こっちへ来て。」
樫山は事も無げに、手で窓のほうを指し示した。
浩子は樫山に指し示された窓のほうへ近寄ってゆく。窓にはレースのカーテンが掛かっていて見下ろすと、正面玄関前のロータリーの芝生がカーテン越しに見て取れる。窓は採光の為か一般的な事務所のものより広く採られていて、天井近くから腰の付近まである。背の高い浩子には脚の付け根あたりまでしか腰板の部分がない。その為、窓を開けた時の墜落防止の為なのか、腰より少し高い位置あたりに横にステンレスパイプの手摺が窓枠と窓枠の間に渡してある。
薄いカーテンのおかげで、外の様子は見渡せるが、外から中の様子は見えにくいようになっている。それでも窓際に立てば、人の居る気配はわかるようだった。
何時の間にか樫山が浩子の近くにまで来ていた。何やら浩子に向かって差し出している。それは見覚えのあるものだった。浩子は樫山に前回連れられていったこの町のはずれにある丘の上の公園の東屋でのことを思い出していた。
樫山が差し出していたのは、あの時、浩子が着けさせられた目隠しのビロードの帯だった。浩子は戦慄のようなものを感じた。主の留守のこの元社長室で樫山がこれから仕掛けてこようとしていることが、段々浩子にも予感されてきたのだ。
黙って樫山からビロードの帯を受け取ると、命じられることもないまま仕事用の眼鏡を外して傍らに置き、その帯で目を隠して頭の後ろでしっかり縛った。視界のなくなった浩子の手首を樫山が捉えたと思ったら、手首に縄が巻かれる感触が続いた。
(縛られるのだわ。)
浩子は期待に胸を膨らませる。片方の手首にしっかりと巻きついた縄が背後の窓枠についた手摺のパイプにしっかりと括りつけられたのが、手の甲のひんやりとした感触で判った。浩子は両手を左右に開かされて、十字架の磔のような格好で窓際の手摺に括りつけられた。縄は手首だけではなく、肘のところでも固定された為、身を捩ることも出来なくされてしまう。
手の自由が奪われると、腰のベルトが外され、穿いていたパンタロン風のパンツが一気に下ろされ奪い取られてしまう。下半身はストッキングとショーツだけになってしまう。
手摺の位置が浩子の腰のあたりだったので、普通に立っていることが出来ず、浩子は膝を折って、少し腰を屈めていなくてはならなかった。しかしそのことは窓の外を誰かが通ったときに、すくなくとも下半身だけは見えなくさせる筈だった。外からもし見られても、窓際に寄りかかっているだけにしか見えない筈だった。膝を折った浩子の脚と脚の間が、樫山の足で押し広げられた。浩子は脚を広げるように命じているものとすぐ理解し、従順に大きく股を開いた。その内腿の間に何かが差し入れられたようだった。角張った感覚のそのものは肌に触れる感じでは木製の感触がする。浩子は元社長室のこの部屋に入った時に、扉の横に腰の高さよりちょっと低いぐらいの台の上に載った大きな壺があったのを思い出す。おそらく、その壺をどけて台だけを持ってきたのだろう。浩子はその台を跨いだ格好で、大きく広げた股を閉じれなくされてしまった。
淫らな格好にさせられてしまうと、樫山の手が触れてきたのを感じた。それは肩を最初優しく撫でるように触っていたが、やがてゆっくりと身体の脇を下へ下へと這うように降りてきて、やがて、浩子の上着の裾を通り越し、ストッキングに覆われた生身の腿へと移ってきた。
「ああうっ。」
思わず自分が挙げてしまった声にびくっとする。近くには殆ど誰も居ない筈とは思っても、声を挙げるのは躊躇われた。樫山の手はやがて、浩子の内股のほうへ移り、そこからじわりじわりと脚の付け根に向かって這い上がってくる。
その時、浩子はショーツの中に、ナプキンをつけたままだったことを思い出した。会場からまっすぐに連れて来られたので、トイレに寄って外している間が無かったのだ。まさか事業所長が不在で、すぐにこんな展開になるとは思ってもみなかったのだ。
(恥かしい。パンティの裏側に当てているものを知られてしまう。)
しかし、最早どうにもすることが出来ない。
樫山の二本の指がナプキンを当てた股間をストッキングの上からなぞった。その感触の変化で、浩子は樫山が自分が股間に何かを当てていることに気づいたことを悟った。樫山は浩子のジャケットの中に両手を差し込んできて、両方の腰骨のところからゆっくりと、ショーツとストッキングをまとめて引き下げ始めた。浩子は観念した。
引き下げられた下穿きが、膝小僧の少し上のところで停まった。内側に沁みに汚れたナプキンが張り付いている筈だと浩子は思った。糸を引いているかもしれないが、目隠しで浩子には見えない。どんな恥かしい格好を樫山に見られているのか判らないだけに余計に恥かしい。しかしそのことが却って浩子を燃えさせるのだった。
「今日もこれを付けてきたのか。」浩子は耳を疑った。囁くように耳元で聞こえた声は一瞬空耳かとも思った。
(今日も・・・。確かにそう言った。やはりあの時もすでに気づかれていたのだ・・・。)
浩子は前回、こちらに来た時に、樫山に後ろから犯されて失神してしまった時のことを思い出していた。倉庫の隅に落ちていた汚れたナプキンはやはり、偶然に吹っ飛んだのではなかったのだと思った。
「いえ、生理じゃないの。血はついてないでしょ。ああ、恥かしい。でも、当ててないと濡れすぎちゃうの。」
浩子は自分が生理になっていると勘違いされて、樫山に止められてしまうのが怖く、つい恥かしいことまで口走ってしまった。どれだけ汚しているのか自分の目では見れないだのだ。だが、樫山に愛撫を止めては欲しくなかった。
その時、すぐ傍で携帯の着信音が鳴り出すのが聞こえた。耳慣れないその音は明らかに浩子のものではない。すっと樫山が遠ざかるのが気配で感じられる。カシャっと音がして、ピッという電子音だけが聞こえる。見えなくされている浩子は気配だけで何が起きているのか一生懸命考える。
(樫山に携帯が掛かってきたのだ。いま受話器を開いて、着信ボタンを押したのだわ。)
樫山がゆっくり遠ざかる気配がして、すうっと空気が流れた感触でドアが開いたのが判る。
(電話を受けに外に出たんだわ。どうしよう、こんな格好なのに。)
元社長相当の部屋なのだから、部屋の主人である事業所長が戻って来ない限り、誰かが勝手に入ってくることはないだろうと自分に言い聞かせる浩子だったが、不安はなくならない。
少しして、再びドアが開いたようだ。足音がゆっくり浩子のほうに近づいてくる。樫山の掌が、浩子の股間を包む。それからそのまま下半身が激しく揉みしだかれる。
(ああ、もっと・・・。)
そう叫びだしたいのを必死で堪える。
耳元で樫山の声が再び囁いた。
「しばらくこのままの格好で、待っていて。まだ解かれたくはないだろう。」
浩子はゆっくりとかぶりを振る。このままでは蛇の生殺しだ。今日はどうしても抱かれたい、激しく樫山に犯されたいと浩子も思っていた。
「お願い。早くしてね。」
聞こえるか、聞こえないかぐらいの小声で浩子も答えた。
そして再びゆっくりと樫山が歩み去ってゆく音がして、独り、誰も居ない部屋にとてつもなく淫らな格好で残された浩子だった。
「桂木さ~ん。」
突然聞こえてきた声に、浩子は心臓が飛び出るのではないかと思うぐらいに驚いた。それは浅川の声だったからだ。声のくぐもり方から、窓の外から聞こえたように思った。
(何故、浅川がまだ居るのだろう。タクシーで帰った筈なのに。)
浩子は窓から離れようとした。が、手首と肘を縛った縄がきっちりしまっていて、殆ど頭の位置を動かすことさえ出来ない。じっとして気づかれないようにするしかないと思った。が、その浩子の願いは淡い期待に終わった。
廊下を誰かが歩いてくる音がした。明らかに歩き方が樫山のそれとは異なっている。絨毯の上ならあんな大きな足音はしなかった。樫山が出ていってからまだそんなに時間が経っていない。
(まさか、浅川ではありませんように。)
浩子はそう祈った。が、その祈りも空しく裏切られたのだ。
「桂木さーん。そちらですかあ。まだ、そちらに居ますか。」
浩子は浅川の無神経さをよく知っていた。人の会社へずかずかと平気で入っていってしまうような図々しいところがある。部屋を出て行ったとき、樫山は部屋に鍵を掛けた筈はなかった。
「済みません。そちらに技術情報サービスの桂木が行っていないでしょうかあ。」
浩子は声を押し殺して音を立てないで待った。浩子は、入って来ないでと叫んだほうがいいかどうか迷った。が、声を出せば、自分が居ることを知られてしまう。それで引き下がるか判らない。静寂が流れた。居ないと思って、引き換えしたかと思おうとしたその時、ガチャリとドアノブが回る音がした。
「あ、・・・。」
一言だけ聞こえた声は、確かに浅川のものだった。その後、浩子の様相をみて絶句しているのが目隠しをつけさせられている浩子にも容易に想像できた。
暫く沈黙があったのちに、浅川が近づいてくる気配が感じられた。
(どうしたんですか。こんな格好させられて。)そんな風に話し掛けられるのを想像する。耳を蔽いたいがそれも自由にならない。
「いやっ。出て行って。見ないで、出て行って。」
目隠しのまま、そう浩子は叫んだ。しかし、そんな懇願に乗って出てゆくような性格の男でないこともよくよく浩子には判っていた。
(あれっ、出て行けって。助けてってことじゃないんだ・・・。無理やりされたんじゃないんだ。助けてほしいんじゃないってことは、・・・。したくて、して貰ったってこと・・・?そういう趣味・・・?へえ、そうなんだ・・・。へえ・・・、すげえ。)そんな風に浅川の頭の中が回転することを想像する。
浩子は「助けて。解いて。」と言うべきだったのか迷ったのだ。しかし、自分から、助けてでも解いてでもなく、つい出て行ってと言ってしまったのだ。
息遣いが聞こえてくる位置が動いていくことで、浅川があちらこちらから浩子の身体を覗き込みながら喋っていることがはっきり判る。浩子は、自分の言葉に、言い逃れが出来なくなってしまったことを悟った。もはや、突然襲われて犯されそうになっていたのだという言い訳は出来なくなっていた。浩子にはどう説明したらいいか、妙案が浮かばなかった。沈黙していることが、どんどん浩子の立場を悪くしていた。
突然、男の手が浩子の膝の部分に触れたのがわかる。そこには下ろされたパンティの内側に生理用ナプキンが貼りついている筈だった。男の手がその部分を調べている。
一番見られたくないところを見られてしまった。しかし、自由を奪われた浩子には脚をすぼめることすら出来ないのだった。
浩子にはなんと釈明していいか判らずに何も答えられなかった。答えないことは、肯定していると取られてしまうことは判っているのに、いい言い訳が出来ない。今更、無理やりされたので助けて欲しいと言っても、信じて貰える気がしなかった。
「いいから放っておいて。」
浩子はそれで黙ってしまう。沈黙が流れる。その時、浩子の耳にカシャ、カシャっという音が立て続けに聞こえた。
(何、何の音・・・。ま、まさか、写真を撮っているのじゃ。)
「や、止めて。何するつもり。やめなさい。そのまますぐに出ていって。」
しかし、浩子には撮影の被写体になるのを避ける何の手立てもなかった。
(わかったよ。お楽しみの邪魔しました。それじゃ。)
そう言ったかのように、浅川はそのまま立ち去ろうとしていた。が、一瞬後、再び自分の近くに戻ってきた気配がした。開いた脚の膝あたりを何かがまさぐるような感触があった。が、それからそのまま立ち去る気配が感じられ、ドアがバタンと閉まるとそれっきり、しいんとなってしまった。
「それじゃ、運転手さん。H町駅まで行ってください。」
浩子は目の前のタクシー運転手に行き先を告げた。車が発進して、みるみる工場が遠ざかってゆく。タクシーは樫山が呼んでくれたものだった。
樫山が戻ってきたのは、浅川が出て行って暫くしてからだった。もはや樫山の愛撫や蹂躙を焦がれるような余裕を失っていた。樫山は、急に呼び出されて、どうしても行かなくてはならなくなったと釈明しながら、浩子を縛っていた縄を解いた。浅川の突然の襲撃にパニックになっていた浩子にとっても、むしろそれはありがたかった。手が自由になった浩子は自分で膝まで降ろされていたショーツとストッキングを引き上げた。その時に、ショーツの中に既にパンティライナー式のナプキンが無くなっていることには気づいていた。
身繕いをするや、部屋を出た浩子に、樫山は後を追わず、正門前に5分後にタクシーが来るからとだけ告げたのだった。
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