妄想小説
牝豚狩り
第七章 忍び寄る魔の手
その１２
斜面では坂の上側に立ったほうが有利だ。相手に向かって走りこむのも、竹刀を振り下ろすのも上から下へ向けてのほうが素早く出来るのだ。それは分かっていても、真緒には男が斜面の上へ回りこむのを阻止することが出来ない。圧倒的に不利な状況では、真緒のほうから仕掛ける訳にはゆかないからだ。
男はすっかり上側に廻りこんで見下ろす立場になると、竹刀を真緒めがけて振り下ろしてきた。まともの打合ったら敵わないと真緒も分かっていた。棒切れは竹刀に対し、半分ほどの太さしかない。簡単にぽっきり折れてしまうかもしれなかった。
真緒は右へ左へと飛び回って竹刀の先を避けた。その度に、帯を締めていない稽古着が肌蹴て、胸元の乳房が覗きそうになる。しかし、それを隠す術も無かった。
真緒は恥かしい格好を晒しても、闘いに集中すべきか迷っていた。このまま袴を抱えて片手で立ち向かっていても勝ち目はないことは分かっていた。それでも、袴の手を離して素っ裸になるまでの勇気はどうしても持てなかったのだ。
男の視線が食い入るように肌蹴た襟元に注がれているのに気づいた。思わず隠そうと棒を手にした片手で蔽う。そこに隙が出てしまった。
男の竹刀は棒を手にした真緒の手首をしたたかに打ち下ろしていた。
パシーン。
真緒は激痛を手の甲に感じ、思わず手にした棒を取り落としてしまう。身体を防備するものを失ったと見ると、男は容赦なく竹刀で打ち込んできた。多少の心得があるらしく、男の竹刀さばきは適確だった。真緒にもはっきり分かるくらいに男の狙いは真緒の手の甲と手首だった。それでも打ち込んでくる男の竹刀に身体を避けさせるものは素手の手しかなかったのだ。
ピシッ、ピシッ・・・。何度も何度も、男の竹刀は真緒の利き手に打ち当てられていた。もう既に赤く腫れあがってきている。しかも稽古着はすっかり肌蹴てしまっていて、身を翻すのを邪魔にしているだけのものになっていた。
逃げ回りながら、真緒は利き手が痺れてきて使い物にならなくなっているのに気づいた。手の感覚が全く無くなっていた。
それを男のほうも感じ取ったのか、今度は男の竹刀は袴を手繰っているほうの手首を狙い始めた。真緒もそれを悟ったが、痛めつけられたほうの手でそれを庇うしか逃れる手立てはなかった。とうとう真緒は観念した。
「もう駄目。許して・・・。」
真緒は涙を溜めて、地面にへなへなと膝をついた。戦う気力を完全に喪っていた。
「利き腕を前へ出せ。」
男は膝をついて蹲っている真緒に命令した。真緒には男の言う事を聞くしかなかった。
男のほうに差し出された手首に、おそるおそる男が投げかけた縄の輪が掛かり、男がそれを引き絞ると縄が締まって手首に食い込んだ。それをしっかり確認すると男は真緒の後ろ側に廻り込み、利き手のほうの片手を背中のほうへ引き込む。真緒が抵抗しないのを見て取ると、男は少し近寄ってきて、片手首を捕らえた縄を背後からまわして、胸の周りにぐるぐる巻きつける。真緒はもう片方の手で袴をずり落ちないように握っているしかなく、男に為されるがままに片腕を背中に縛り上げられてしまった。最後に縄の端と端をしっかり結わえ付けると残った縄を袴を必死で掴んでいるほうの手首にも回して、そちらも振り回せないように身体に縛り付けてしまう。
真緒は利き腕を背中にもう片方を腰の前で袴の端を掴んだまま、ぐるぐる巻きに縛り上げられてしまっていた。
「立てっ。」
男は非情そうな口調で真緒に命令する。真緒は首をうなだれてゆっくり立ち上がった。背中で散々に打たれまくった手首がひりひり痛んでいた。それを唇を噛んで耐える真緒だった。
男の手にした竹刀の先が股間を突いた。真緒は手にした袴の端を取り落とさないようにするのが精一杯で、男にされるがままになるしかなかった。
男はさらに竹刀の先をこじるようにして両脚の間に突っ込む。真緒は両腿を締めて、竹刀を挟み込んで凌ぐしかなかった。男は手にした柄に力を篭めて、ぐりぐりえぐるように竹刀の先を股下でこじり始めた。
「ああっ、許して。」
真緒は泣きながら叫んだ。
「恥かしいのか。その下はノーパンなんだろ。もう濡れ始めているんじゃないのか。」
男はなじるように、俯いてしまっている真緒の耳元で囁くように辱めの言葉を口にした。
「ようし。それじゃ、ここから先は後の楽しみに取っておくか。」
男は漸く竹刀に篭めていた力を緩め、竹刀を真緒の股間から引き抜く。それから背負っていたリュックからもう一本縄を取り出すと、輪を作り、それを真緒の首に掛けた。逃げようとすれば、締まってゆくカウボーイ特有の縄使いだ。
「さ、処刑台まで歩いていって貰おうか。」
男は真緒の首に掛けた縄を軽く振り上げて、真緒に先に立って歩くように促した。
男に急かされて山道を歩き始めた真緒だったが、その歩みはすぐに止まってしまった。
「ま、待って。」
真緒は男のほうには振り向かずに黙ってじっと立ちすくんでいた。
「どうした。もう歩けないのか。うん？」
「・・・・・・。」
真緒は返事をすることもなく、呆然とただ立ちすくんでいる。その肩が微かに震えたようだった。それとともに、男は真緒の袴の裾からにょっきり出ている裸足の足首の内側を何かが伝って流れ落ちるのを認めていたのだった。我慢していたものが限界を超えてしまったのだ。恥かしさに真緒は声を挙げて泣き出していた。
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