260バレー選手

妄想小説

牝豚狩り



第六章 栗原瞳の悲劇

  その4



 男達は瞳をネットで自由を奪ったままうつ伏せにひっくり返し、上から馬乗りになり、男の一人は網の下に手を伸ばして、瞳の手首の縄の緩みを調べて、しっかり括り直し、もう一人は瞳の片方の足首に新たに縄を括りつけた。その足首の縄のもう一方の端が体育館中央の床面に予め据え付けられていた鉄の輪のフックに引っ掛けられると、男は瞳の身体からネットを引き剥がした。もう一人の男が輪に通された縄の反対側の端を手繰り始めたので、瞳は床に転ばされたまま体育館の中央まで引き摺られていった。縄は鉄の輪から1mほどたるませたところで固定された。

 瞳が気づくと、何時の間にか体育館の床には白いビニルテープで半径5mほどの円が記されていた。その円の中で瞳は足首を繋がれている為に半径1mほどしか動き回ることが出来ないのだ。

 一人の男が瞳を体育館の中央部に括りつけている間に、もう一人は体育用具室の奥から篭一杯のバレーボールを運び出してきていた。ボールの新しさから、明らかにそれは元からあったものではなく、新たに用意されたものらしかった。篭は全部で三つあり、瞳を囲う円の外側に等間隔に並べられた。

280体育館の瞳

 男達が着々と準備を進めている間に、サングラスの男が体育館に入ってきていた。男は用具室に閉じ込められた客たちを閂を外して出してやっているところだった。
 「畜生、あのアマっ。」
 「こんなところに閉じ込めやがって。」
 「今度は絶対に許してやらねえぞ。」
 夫々に瞳をののしる言葉を吐きながら殺気立っていた。

 「それじゃあ、準備が整ったようだから、敗者復活戦を始めようか。」
 「敗者、・・・復活戦・・・。そ、そんな。約束が違うわ。1時間逃げおおせれば、私の勝ちの筈でしょ。私を自由にしなさいよ。」
 瞳は床から起き上がりながら、サングラスの男を睨みつけるように言い放った。
 「確かに第一回戦はお前の勝ちだ。だが、勝ったからと言って、おまえを自由にするなどとは約束していない。おまえは所詮、牝豚だ。俺は豚とは約束はしない。」
 吐いて切り捨てるような言い方に、瞳はもう口答えをしても無駄だと悟った。

 「第二回戦のルールを説明します。折角、全日本バレーの選手にきて貰っているんで、バレーを楽しまなければ、もったいないので、次はバレーボールを使います。ま、そうは言ってもやるのはバレーというよりはドッジボールですけどね。
 それぞれの篭から幾らでもボールを使って、円の外から獲物めがけて投げて貰います。手で投げてもいいし、スパイクを打ってもいいですよ。最初にうまく獲物の身体にぶつけた者に牝豚の身体を自由にする権利を与えます。」

 瞳は男を睨みつけた。逃げるのに走り詰めでそうとう疲れてきていた。が、その上に、ボールを避けて逃げろというのだ。

 「制限時間は、・・・ふふふ。そうだな。どれだけ持つか。そう、30分としましょう。じゃあ、笛の音でプレイボールとしましょう。」
 男はそう言うと、手下に用意させた体育館隅のパイプ椅子まで歩いていって腰をおろし、胸のポケットからバレーボールの審判が使う笛を取り出した。

 (ピーッ。)
 鋭い音がすると、三人の客たちはめいめいにボールを取り上げ、我先に瞳めがけて投げつけはじめた。ボールに対して敏捷に反応するのは日頃から練習で鍛えている。素人から簡単に当てられるようなことはない。
 しかし、一斉に三方から飛んでくるボールを全て避けるというのは、さすがに全日本バレーの代表選手と言えども容易いとはいえない。瞳は必死で避け続けた。

 走りつづけさせられた瞳の疲労はかなり溜まってきていた。が、それは追い手の客たちも同じだった。最初は勢いよく三方からどんどん飛んできたボールも、次第に投げつけられる間隔が開いてきた。ボールが少なくなってきた分避け易くはなったが、逃げる瞳のほうも疲れは限界に近づいてきていた。

 「ばらばらに投げていても、埒があかないな。おい、一斉に投げようぜ。」
 客たちも示し合わせようとしていた。瞳は身構え、肩で息をしながら三方の男たちにくまなく視線を配る。
 「いっち、にいーのー、・・・さん。それっ。」
 一斉にボールが飛んでくる。ボールの来る方向を予測してとにかく身を交わすしかなかった。
 「それ、もう一度。いっち、にいのう、さん。それっ。」
 瞳が身体を宙に飛ばす。しかし、勢いが付き過ぎて、足首のロープが引っ掛かってしまった。バランスを崩し尻餅をついてしまう。その一瞬を一人が見逃さなかった。
 「今だ。」
 手にしていたボールが瞳の後頭部を襲った。今度は避けきれなかった。

転んだ瞳

 「やったぜ。俺だ。俺がやったぜ。」
 男は歓喜に酔っていた。瞳は唇を噛んだ。口惜しがったのは、残りの二人の男たちだった。
 (ピーッ)再び鋭い笛の音が響き渡った。
 「ゲームセットです。」

 獲物を自由にする権利を失った二人は、さも惜しそうに、何度も瞳のほうを振り返りながら、体育館から去っていった。瞳は足首を繋がれたまま、体育館の中央に蹲っていた。もう観念していた。(所詮、逃れる術はなかったのだ。)
 瞳は男に身体を任す覚悟を決めた。


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