260バレー選手

妄想小説

牝豚狩り



第六章 栗原瞳の悲劇

  その12



 深夜のロビーはひと気が無かった。しかしフロントは24時間ちゃんとホテルマンが詰めている。瞳は自分の足音がカツカツ、ひと気のないロビーに響き渡るのを気にしながら、フロントに向かった。
 「2453室の栗原ですが。なにか預かり物がないでしょうか。」
 瞳はカードキーをかざして見せる。
 ホテルマンは礼儀正しく「少々お待ちください。」と言って、背後のキーボックスを眺め、それから後ろのドアから一旦スタッフルームへ入ると、紙袋の包みを持って出てきた。
 「これをお預かりしています。」
 「あ、ありがとう。」
 瞳は誰かに覗かれていないか辺りを見渡してから、ロビー奥にある女性用化粧室に急いだ。化粧台が並ぶ奥に個室が幾つかあり、そこへ入って中から鍵をかける。
 ホッチキスで留められた紙袋を開くとなにやら服がはいっていて、上に手紙がある。

 「それを身につけて、外に出ろ。ホテルの北側へ二ブロック行ったところに小さな公園がある。そこの男性用のトイレに入れ。中へ入ったら、目隠しをつけ、手錠を後ろ手に掛けて待っていろ。」
 袋の中をあらためると、入っていたのはバレーボールのユニフォームだった。勿論、瞳本人のものではない。どうも、コスプレ衣装店などで売っているイミテーションのようだった。ロゴも架空のチームのものだった。半袖のウェアに、ブルマ。その下に穿くアンダーショーツ、スポーツブラが入っている。厚手のソックス、シューズ、ニーパッドまで入っていた。そして一番奥にアイマスクと黒光りする手錠が入っていた。

 男の指示どおり、身に着けてみる。サイズはわざとなのか、小さめで、ちょっと手を上げるだけで臍が覗いてしまう。ブルマもぴちぴちで尻たぶが後ろからはみ出てしまいそうだった。それでも着てしまうと、何だか自分がこれから練習にでも出るかのような錯覚をしてしまいそうになる。

 そのままの格好では外に出れないので、着て来たコートを羽織る。長めのコートから覗く足が、スポーツシューズにソックスなのが異様だが、暗い夜道なら気づく者も居ないだろうと思われた。

 履いてきたパンプスは紙袋にしまって、瞳は化粧室を滑り出る。フロントにはさっきのホテルマンがまだ居たが、こちらを窺うような様子はない。瞳は他人に極力みられないように、メインの回転扉の出入り玄関を避け、裏側にある自動ドアのほうから外へ出た。

 男が言っていた小さな公園というのはすぐに判った。都会の片隅の何処にでもあるような、小さな公園だ。夏場には木陰を作ってくれる何本かの木立と、ちいさなベンチがふたつ。あとは水呑み場があるくらいだ。一番奥に公衆便所があった。コンクリートとガラスブロックで出来た公園の大きさにしては大きめのトイレだった。入り口で男用と女用に分けられている。瞳は薄暗がりの中に、男用の表示マークを確認する。
 辺りをもう一度窺う。メインの通りから一本奥に入っているせいか、車も人通りも無く、ひっそりとしている。瞳はまだ躊躇っていた。
 (自分に命じてきた男の意図は明らかだ。手錠を掛け、目隠しをして待てということは、中で犯されるのだ。あの時のように・・・。)
 それでも、今は応じない訳にはゆかなかった。男が言っていた(いつまでも強請ろうっていう積もりはない)という言葉を信じるしかなかった。
 (今夜、楽しませれば、それで許して貰えるのだわ。)
 瞳は自分自身に言い聞かせる。深呼吸をして、もう一度辺りに人の姿がないのを確認してから、滑り込むように男性用トイレの中に忍び込んだ。

 トイレは思ったほどは汚くはなかったが、見慣れない男性小用便器が目に入るだけで恥かしくてならなかった。が、これから受けるであろう陵辱に比べたら、そんなことはどうでもいい筈なのに、男性用トイレの中に立たされていると思うだけで、酷い辱めを受けているように感じていた。
 瞳は三つある個室の真中の扉を開ける。着てきたコートを脱いで扉の裏側についているフックに引っ掛け、贋物のバレーボール選手の制服姿になる。サイズが小さい為にぴっちりと身体に張り付くようになっていて、身体の線を露わにしてしまっているのも、恥かしさを引き立てている原因のひとつだった。しかしそんなことにも最早構ってはいられない。
 瞳は個室の中に入って持ってきた紙袋を腰掛け便器の蓋の上に置くと、中から目隠しのアイマスクと手錠を取り出す。ずしりと重たい手錠を手にすると、あの忌まわしい廃屋の学校でのことが脳裏に蘇ってきた。また、あれと同じ事が繰り返されようとしている。それから逃れる手立ては今の瞳には無いのだった。
 アイマスクを着け、後は手探りで後ろ手に手錠を嵌める。手錠は嵌める時には、いとも簡単に締まってしまうことを、以前の陵辱を受けた時に知っていた。

 視界が奪われ、何の抵抗も出来ないように両手を拘束された状態になると、もはや瞳は観念した。(男のしたいようにさせて、早く満足させ終わらせるしかない。)瞳はそんな風に考えていた。

 その時、微かな足音がして、誰かが入ってきたのを知る。(目の前の扉は自然に閉まっている筈だが、鍵は掛けていない。すぐに自分がここに居るのは判ってしまうだろう。)
 そう考えていると、ギィーという微かな音を立てて、扉が開かれたのが分かる。それから暫く沈黙が続く。男の微かな息が荒くなっていくのが気配でわかる。男はじっくり瞳の肢体を検分しているようだった。
 いきなり、ジャージの首筋を乱暴に掴まれ、個室の外へ引き出された。壁際のようなところへ押し付けられる。短いブルマから伸びた裸の腿の後ろ側にひんやりしたものがあたり、男子用便器の朝顔を背に、押し付けられているのだと悟った。

320公衆便所

 男は片方の手で、瞳のジャージの上着を首筋の後ろで逃げられないようにしっかり掴んだまま、もう片方の手をブルマの下から露わになっている太腿をまさぐり始めた。脚の付け根のすぐ下の部分を掌が這うようにまさぐっていたが、それが内股に深く差し込まれ、瞳は両脚をこじ開けられるようにして、開かされた。瞳が膝を軽く折るようにして股を広げると、男の手は今度はブルマの裾のほうへ上がってきた。指がブルマの下から内部に侵入しようとしていた。が、ブルマそのものが小さくてぴっちり肌に食い込んでいるために、指は自由には入ってこれない。

 男の手が一旦離れると、今度はジャージをめくるようにして瞳の上半身の裸の肌を捉えた。臍のところから、手の感触が這い登ってきて、すぐにスポーツブラに包まれた瞳の乳房に到達する。ブラを探り当てると、今度は乱暴な手つきで、それを上へ押しやる。瞳は乳房を剥き出しにされたのを感じる。男の指がつんと立ち始めている乳首を捕らえた。ふたつの指でしごくようにして、刺激してくる。瞳は声を立てないように唇を噛んで堪えた。

 こねまわすようにひとしきり乳房をまさぐったのち、手は再び下半身のほうへ下りてきた。今度は腰骨のあたりをさするようにしながら、穿いていたブルマをおろしにかかった。瞳は抵抗するのを諦めていた。腰骨の両側から少しずつ、ブルマとその下に穿いていたアンダーショーツが一緒に丸められて膝頭の上まで下ろされてしまった。下半身にすうっと冷たい風を感じる。

 その時、カタッとトイレの入り口らしい方で物音がした。と思ったら、「カシャッ。」という機械音とともに、閃光が走ったのが、アイマスクで塞がれた瞳の眼にも感じられた。

 「おい、お前。何撮ってんだ。」
 瞳はブルマとショーツを膝まで下ろされたまま肩から押されて放り出された。何が起きたのか、見えない瞳にはよく分からない。が、なにやら傍で誰かがもみ合っている気配だけが感じられた。
 「てめえ、この野郎っ・・・」という声の後に、ガンという鈍い音がした。
 「うううっ・・・。」うめき声がその後に続いた。
 瞳は慌てて、壁に顔を擦りつけるようにして、アイマスクをずらした。瞳の眼に入ったのは、逃げていく男の背中と、足元の床に倒れて蹲っている男の姿だった。逃げていく男は、蹲っている男が持っていたらしいカメラを引き千切るようにして持ち去ったのがかろうじて見えた。床に蹲った男は額から血を流していた。
 瞳は、手錠で不自由な両手をもがくように伸ばして、ショーツとブルマをなんとか引き上げる。腰骨の上までは引き上げられないが、なんとか股間だけは被うことが出来た。
 (逃げなければ。)
 咄嗟に瞳はそう思って、倒れている男を跨いでトイレの出口へ向かおうとしたが、途中で立ち止まった。
 さすがに血を流して倒れている男を放ったままにしては逃げれない。
 その時、瞳はホテルを出た時に、反対側の角に交番があったことを思い出した。その瞬間にもう足はそちらに向かって走り始めていた。
 おろされかけたブルマのままの格好で後ろ手錠のバレーボール選手の格好をした若い女が街角を駆けてゆく様は、異常以外の何ものでもない。が、瞳はそんなことも構ってはおれなかった。

 「た、助けて・・・、助けてください。」
 交番へ駆け込んだ瞳は奥のほうに向かって叫んでいた。


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