260バレー選手

妄想小説

牝豚狩り



第六章 栗原瞳の悲劇

  その1



 男が栗原瞳を眠らせ、拉致した方法は、内田由紀の時と殆ど同じだった。名古屋から東京へ向かう高速道路の中で睡眠ガスで眠らせた上、手足を縛り、猿轡を噛ませた上で袋詰にした。そして瞳のバッグから携帯を盗み取ると、柳本監督へ向けてのメールを入れたのだった。

 瞳がその後、目を醒ましたのは、地下室に設えられた檻を改造した牢獄に、全裸で両手を鉄柵に繋がれた格好でだった。

 冴子は、自分が放たれた丹沢山麓の林道へ向けて車を走らせていた。その日、例のサイトには、「超有名アイドル選手捕獲ゲーム参加権は、これまでの最高額で競り落とされました。」というメッセージが掲げられていた。冴子は時間の猶予がないことを知った。
 冴子が放たれた場所は、既に警察の周知となっている。そこをハンティングゲームの会場に使うとは考えられなかった。おそらく他にも同じような場所を幾つか確保してあるのだろうとは冴子も思っていた。しかし、あの丹沢の林道以外には何の手掛かりもないのだった。

 冴子は林道の奥へと繋がる薄気味悪いトンネルを抜けたところだった。山の風がひんやり冷たい。あたりはしいんとしていて、人の気配はない。
 (やはり、ここではないのだ。)
 冴子は焦った。こうしている間にも、栗原瞳は非道なゲームの餌食にされようとしているのではないかと思うと、居ても立ってもいられない。しかし、冴子には犯人に迫る何の手掛かりも持っていないのだ。

廃校1

 男が今回のゲームの舞台に選んだのは、とある山奥の廃校だった。かつては林業で栄え、小規模ではあるが、学校も建てられ、村ではあったが、そこそこの人口も居た時期もあった。が、バブル絶頂期に、山奥に一大観光テーマパークの建設が企画され、村興しに、村長他、村民も後押しをして、銀行からの借金をつぎ込んでの開発が始められた。
 が、巨大テーマパークは竣工はしたものの、完成をみる前にバブルが崩壊した。村民が失ったのは、村興しの夢だけではなかった。巨額の借金を背負い、村人は離散し、廃墟だけが残った。昔ながらの木造建ての古い校舎の横には、バブル期の儚い夢を象徴するかのような真新しい体育館が、いかにも古い村にそぐわないように建っていた。が、それも人が居なくなるのにあわせて急速に廃墟化していったのだ。

 廃校のある廃村へは、山道を延々と昇っていかなければならない。棲む村民が居なくなってから、道路の整備も行われないようになり、益々ひと気はなくなっていた。廃村への入り口はいつしか落石等の危険があるということで立ち入り禁止の看板が立つまでになっていた。

 男は今回のハンティングゲームには新しい趣向を考えていた。バレーボールの選手に似つかわしい趣向を演出していたのだ。野山を駆け巡るだけではワンパターンになって、いつかは飽きられてしまう。今回は童心に帰って、「かくれんぼ」を楽しんで貰おうと言う趣向だった。

古校舎と恵

 客の三人が廃校に到着した時に、栗原瞳は目隠しをされて、廃校の校庭の朝礼台の後ろの国旗掲揚台のポールに後ろ手に縛り付けられていた。身に着けていたのは、全日本女子バレーボールチームの正式ユニフォームだった。瞳の持っていたバッグから取り出した鍵を使って、代々木総合体育館にあるチーム専用ロッカールームから密かに持ち出されたものだ。ブルマ型になった濃紺のショートパンツからは、いかにもバレーボール選手らしいむっちりした太腿がはちきれんばかりに、剥き出しになっている。膝にはニーパッド、手首にはリストバンドを嵌めて、試合さながらの格好だ。瞳にはまだこれから何が起こるのかは知らされていない。
 男達が校庭に集まってくると、首謀者に雇われたアシスタント役の手下達が、縛られた瞳を掲揚台から外し、両側から肩を掴んで校庭中央の朝礼台の上へ昇らせた。瞳は目隠しをされているので、逃げ出すことも出来ない。三人の男たちは朝礼台の下から獲物をじっくりと品定めするかのように、周りを巡りながら検分している。男たちは瞳の身体を嘗め回すように観ているが、その視線はどうしてもブルマから出た太腿の付け根に集中する。瞳は目隠しをされて見えないながら、男たちの視線を何となく感じていた。

 「それでは、ルールを説明させていただきます。」
 いつものように、サングラスの男が、瞳にも聞こえるようにしながら、三人の客たちに説明していく。
 「今回はこれまでと少し趣向を変えて、今回のこの会場、廃校の場所にふさわしいゲームを企画いたしました。牝豚は、手を縛ったまま、この校舎内に5分だけ逃げる時間を与えます。何処へ逃げて、何処へ隠れるかは、獲物の知恵しだいです。ハンターの方々には、5分後のピストルの音を合図に、牝豚を探し回ってもらいます。つまりかくれんぼごっこという訳です。
 牝豚が逃げられる場所は、この廃校の校内でも、敷地の外でも牝豚の自由です。ただし、この廃校の外は見つけやすい一本道ですので、外へ逃げた場合は、皆様方には大変に有利となるでしょう。
 制限時間はぴったり1時間。1時間以内に捕獲出来なければ、獲物の勝ち。獲物を捕えて、この国旗掲揚台に括りつけることが出きれば、ハンターの方の勝利となります。うまくこの獲物を捕獲できましたら、この肉体を思うが侭、好き放題のことをする自由を得ることが出来ます。ご覧のように、この獲物、全日本の選手だけあって、すばらしい肉体の持ち主です。虐め甲斐のあるいい身体をしております。それに加えて皆さんご存知の通り、愛らしい美貌も兼ね揃えております。」
 男は朝礼台に上がって、瞳の横に立つと瞳の顎に手を掛けた。瞳は顔を仰け反らせて逃れようとするが、所詮は逃れようもない。男はそれから、三人の客たちの嗜虐心をさらにそそらせるように、瞳の半袖ジャージの上着を腰のところから少しだけ上へ引き上げる。上着は動きやすいように、腰の部分までの丈しかないので、簡単に裸の腹が露わになる。男たちの目に、瞳の形のいい臍が剥き出しにされた。
 最後に男は少し身を屈めて人差し指と中指を揃えて伸ばし、むっちりした太腿の内側を膝の辺りから撫で上げた。瞳が身を捩るようにして逃れようとする。が、朝礼台の上から転げ落ちるのが怖くて、逃げることも出来ないでいる。
 瞳が身体を弄ばれて身悶えする姿を観て、客たちは思わず唾を飲み込むのだった。

 「獲物を見つけたとしても、捕獲してここまで引き連れて、このポールに縛りつけることが出来なければ有効とはなりません。1時間きっかりに再度ピストルで合図します。それまでに、首尾よくこの牝豚を捕まえられますよう、ご奮闘ください。じゃあ、ご準備ください。」
 男が台を降り、代わりに手下の男二人が瞳の両側へ付いた。一人が肩を抑え、もう一人が瞳の目隠しを解いた。
 ここへ連れてこられるまでの間、ずっと目隠しをされたままだったので、初めて目にする風景だった。まぶしいほどの青空の下に、どこまでも深い緑の山肌が広がっている。のどかな山間いの風景ともいえたが、男が先ほど説明した状況は、のどかどころではない緊迫したものだった。
 瞳はちらっと周りにいる男たちを見た。朝礼台の真下にサングラスを掛けた男。間違いなく瞳を騙して空港から連れ出し、拉致監禁してきた男だった。その後ろに客と呼ばれているらしい三人が居た。いずれもずんぐりとした小男だ。長身の瞳からすれば背の丈は肩のあたりまでしかないかも知れない。男たちは目無し帽を被っていて、表情は見えない。それぞれに手にはロープや鞭、竹刀などを持っていた。
 そして、瞳の両側の男たち。瞳ほどは背が高くないが、客たちよりは丈があって、身体はがっちりしている。そして何よりも顔つきが凶暴そうだった。
 「よし、放せ。」
 サングラスの男が合図すると、横の男たちが後ろ手に縛られた瞳をターンさせ、締まったお尻をブルマの上から叩くようにして壇の下に追い立てた。瞳は両手の自由が利かないので、バランスを崩しかけたが、朝礼台を何とか転ばずに駆け下りた。
 事情はまだよく飲み込めていなかったが、怖さもあって、とにかく夢中で男たちから離れるように走りだした。目の前に古い校舎のほうへ向かう石段があった。石段を3mほど駆け上がると校舎のある平地に出た。眼下に広がる校庭跡にまだ残っている六人の男をちらっとだけ確認すると、校舎の入り口らしき場所をめがけて一目散に駆け出した。
 とにかく校舎内の廊下に出たが、初めて見る場所で、土地勘がない。窓から見える様子で、校舎はコの字型に狭い中庭を囲む木造二階立ての建物であることが判る。しかし、どこにうまい隠れ場所があるか、見当もつかなかった。判っているのは時間がないことだけだった。
 瞳は隠れ場所を探しながら、廊下をひた走りに走っていった。

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