妄想小説
牝豚狩り
第三章 三箇月前
その3
遠征試合の主催者事務局の連絡先は、由紀が携帯していた手帳から簡単に割り出せた。丁寧に電子メールのアドレスまで添えられていた。
男はそのアドレスへ向けてのメールの文章をすらすらと打ち始めていた。
「アジア大会遠征隊事務局荒木殿御中
こちら女子空手の部で遠征を予定しておりました、内田由紀の所轄の者です。突然のことですが、出発前に急に内田が体調を崩し、入院しております。実は緊急検査の結果で、HIVウィルス感染の疑いが発覚しております。完全な確定の為には尚精密な検査が必要で時間が掛かると思われます。今回の出場に関しましては辞退ということで処理をお願いいたします。尚、病気が病気だけに、内密に事を進める必要があり、公表は現地でのインフルエンザ罹患による体調不良ということにして頂ければと考えて居ります。また、情報が誤って広まるのを防止する為に、こちらへの問い合わせ等は、こちらが詳細結果を連絡するまではお控えくださるように重ね重ねお願いもうしあげます。・・・」
事前に練られた案文である。日本国内に居る関係者には現地に向かったものと思わせ、現地の人間には日本に留まったと思わせる作戦であった。あとはエイズの感染という公言出来ない事情を装って、情報を封じるだけで空白の一週間を作ることが出来るのだった。
由紀が持参していた携帯電話の登録簿から、相手先に「今回の遠征中はプライベートな連絡は自粛するようにとのきついお達しがあり、事情をご理解くださいますようにお願い申し上げます。」というメールを送りつけたのちに、電源を切ってしまうことも怠りなかった。
由紀は完全に社会から隔絶されてしまったのだった。
由紀が目を覚ましたのは、以前、良子が捕らえられ監禁されたのと同じ部屋だった。良子の時と同じように、後ろ手に部屋の真中付近にある太い柱に手錠と鎖で繋がれていた。身を被うものを何一つ許されていない全裸であるのも同じだった。由紀に与えられていたのは、良子の時と同じ柱から動くことの出来るたった1mの範囲内におかれた用を足す為のおまるがひとつあるきりであった。
由紀については、武道の腕前を試す必要は更々無かった。既に全国大会の予選会と、最終本大会で十分にその腕前についてはつぶさに観てきている。迂闊に手錠を外すことは良子の時とは比較にならないくらい危険だった。良子の時には、その腕を見くびりすぎていて、危うく逃げ出されるところだったが、由紀の場合には油断する余地もないほど、由紀の腕を見込んでいたのだ。
秘密のサイトに掲載する由紀の写真を撮るのに、従って制服を着せるのは辞めることにした。制服姿は、大会に優勝した後の表彰式の際に望遠レンズ付きのデジカメで既に撮ってあった。
今回は、その敬礼をした写真に、全裸で繋がれて負けるものかとこちらを睨み付けている精悍な不屈の顔つきの顔写真を添えるだけにすることにした。これだけでもお客の昂揚心をそそるのに十分であることは疑いなかった。
狩りの中での重要な演出である、警察官の制服は、由紀のスーツケースの荷物の中にちゃんと仕舞われて入っていた。警察官だけの大会だけに、式典の最中は制服着用が要求されるのだ。その為に、綺麗に洗濯されきちんとアイロンのかかった制服が荷物の中に用意されていたのだ。後は、そのスカート丈をぎりぎりのところまで縮めるだけでよかった。制服は本番の時まで汚さないように保管しなければならない。それを着せるのは狩りを始める直前の朝でよかった。
良子の時の失敗に懲りて、由紀に追加で装着させたのは1mほどしかない鎖で繋がれた足枷だった。給仕と下の世話はいつものメイドにやらせたのだが、下手に近づいて足技で捕まってしまったりする怖れもあったので、足枷でそれさえも封じたのだ。もっとも、危険を考慮して、メイドには手錠の鍵も足枷の鍵も持たせていない。
日に三度、食事を運ばせて、両手の自由がない由紀に口まで運んで食べさせ、何度か排泄物の始末、そして日に一回の身体じゅうを濡れタオルで拭うのがメイドの日課であるのも良子の時と一緒だった。
髪を洗い、化粧を施すのも、獲物にされる前の晩と決めてあった。そして、嫌がる由紀に無理やりクロロエーテルを再び嗅がせ、正体を無くしてから下着とともに丈を短くした婦人警察官の制服を着せてから念入りに手と脚の自由を手錠と足枷とそれらを繋ぐロープで奪うのだった。
サイトに掲載してからの客の食いつきは良子の時以上に良かった。特に、由紀のこれまでの経歴と成績が、中から上級者への嗜虐本能を刺激したようだった。それでも当日のハンターとして選ばれるのは、ビッドの額が最後の決め手となる。男は次第に競りあがってくるビッドの額とその付け手の過去の腕を見比べながら、野に放つ時の獲物の拘束条件を練っていった。
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