騙された新人女優とマネージャー
第四部
六十三
「由里ちゃん、もう大丈夫よ。さっきスカートの中を盗撮されていたビデオはちゃんと押収されたって警察から報告があったから。もうあのビデオが出回る心配はないわ。」
「ありがとうございます。でも、どうやってそんな事が出来たんですか?」
「貴女があのビデオが録られたらしい日付と場所を正確に覚えていたからよ。あの番組のディレクターに確認して、あの日使われたテレビカメラとカメラマンの配置をすぐに調べたの。そしたら芦原の後輩だっていうカメラマン見習いが居るのが分かって問い詰めたの。芦原は貴女と剛が借りたっていう別荘をフリーライターの記者が探りに来た時にその場所とオーナーを教えてしまったの。それをスタイリストの虻川さんが偶々立ち聞きしてディレクターに教えたのよ。それで芦原はすぐにその週の収録後に首なることが決まってあんな犯行に及んだみたい。ビデオを芦原に言われて撮影した杉崎って子は(貴方も同罪で首になるわよ)って脅したら簡単に白状したわ。全部芦原に命令されてやったことだって。」
そこまで裏を掴んで芦原が二度目に由里を犯そうとしていた空きのスタジオにあらかじめ盗撮用のカメラを仕込んで警察に隣室で張って貰っていたのだった。
「ありがとうございました。新垣さん。貴女が居なかったら私、どうなっていたか・・・。」
「いいのよ、由里ちゃん。マネージャーっていうのはそういう時の為にも必要なの。」
後は須藤の件を何とか片付ければ全て終わるのだと心に決意する茉莉だった。
「大変です。由里ちゃん、新垣さん。」
二人の元に飛び込んできたのは由里のスタイリスト兼メイキャップ担当の虻川だった。その手には出たばかりの週刊スクープ誌が握られていた。
誌面には『人気絶好調の新人売り出し女優、妻子ある共演男優との夜の密会!』と大きく見出しされた記事の上に剛と由里が車の運転席と助手席らしき場所で接吻を交わしている写真が掲載されていたのだ。
「新垣さん! どうしよう・・・。」
「落ち着いて。いいこと。この件に関しては誰に対してもコメントしては駄目。特に週刊誌記者には。話は事務所から正式発表しますとだけ言ってその場を去るのよ。何を言っても上げ足を取られるだけだから。」
「この事は須藤さんとの間では何とかなるんじゃなかったんですか?」
「ある不味い情報が出て来たのよ。とにかく貴女は姿を隠さなきゃ。いいわね。」
茉莉はいざという時の為に用意しておいた由里のパスポートと海外渡航用のエアチケットを事務所から持ち出すと由里に変装してすぐに空港へ向かうように指示する。
「このチケットは深沢先生に紹介して貰ったカンヌ映画祭の時に先生が常宿にしているホテルへのものよ。暫く私がいいというまでそこで身を隠しているのよ。」
「ええ、でも・・・。映画の方は・・・?」
「それは私が深沢先生と何とか話をつけて待って貰うから。すぐに出発してっ。」
「わ、わかりました。」
足早に去っていく由里の後ろ姿を見送りながら茉莉は決意と覚悟を決めるのだった。
(わたしが何としても由里の将来を守らなければならないのだわ・・・。)
「あ、剛さん? 週刊誌、見たわよね。いえ、いいの。何も言わなくて・・・。真実はともかく、今は火消しが大事よ。由里にも言ってあるけどマスコミや報道、特に週刊誌関連にはノーコメントを通してね。発表は事務所から正式にしますからって。そうね。これからそちらの事務所と相談はしますが、基本的には事実無根で今撮影中のドラマの使われなかったシーンを悪用した捏造だと思われますってことにするから。ただ、続報で何か出て来るといけないから、その場合にはその都度事務所間で協議しましょう。くれぐれも当事者からのコメントは控えてくださいね。」
それだけ一方的に剛に告げると電話を切った茉莉だった。
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