管理人

妄想小説

営業課長・桂木浩子 ~ 嗜虐の誘惑 (淫乱インストラクタ続編)



第九章

 浩子は男が行ってしまったら、再びトイレを探しに行こうと思っていた。しかし、浩子の予想に反して男は立ち去らなかった。バケツとモップを隅に置くと、カウンタの後ろに入って洗い籠に入っていた食器を拭き出したのだ。カウンタ越しに、浩子の座ったソファは真正面になる。男はちらちらと浩子の様子を窺っていた。
 「あ、あの・・・、こちらには、他の方は・・・。」
 意を決して浩子の方から話し掛けてみた。
 「ああ、今は長期休みに入っておるんで、寮生は皆、帰郷しとって、空っぽみたいなもんさな。」
 「ああ、それで、こんなに静かなんですね。」
 寮と言われる建物が、こんなにがらんとしている訳に納得したが、浩子にはそんなことより、喉につっかえている言葉がなかなか出せなかった。
 「あ、あのお・・・。」
 「ふん、何かな。」
 浩子は躊躇ったが、募り来る尿意には勝てない。
 「あの、おトイレをお借り出来ないでしょうか。」
 男の目がぴかっと光ったような気がした。男は皿を拭く手を止めていた。
 「女性用のトイレかあ。困ったなあ。」
 性急になりそうな口調をやっと抑えている浩子には、男の言葉が意地悪をするようにゆっくりに聞こえた。
 「ここは、男子寮なんで、元々女子トイレは無いんだよ。しかも、男性用のほうもトイレが今、故障中で業者を待っているところなんだよ。いや、なにせ古いもんだから、時々水が流れなくなっちまうっていうんで、ちょうど長期休暇中に入ったんで工事を頼んでいるところなんだよ。」
 浩子には絶望的な言葉だった。
 「ひとつだけ使えるのが、あの中二階の男子トイレなんだが、何せ水が流れないんで、流せないんだよ。男はまあほれ、アサガオのほうですりゃあ、そのまま流れてっちまうからいいんだけどね。しゃがむほうは、流せないとちょっとなあ。」
 老人の言葉に浩子は恥かしくなって顔を赤らめる。男が、浩子が立って放尿する姿を想像したのではないかと思ったのだ。
 「あとは、こっからちょっと離れるが、くぬぎのもり公園ってところまで行きゃあ、公衆便所があるんだけど、ちょっと遠いから。」
 「と、遠いって、どのくらいなんですか。」
 「いや、ちょっと散歩程度かな。車で行きゃ、5分か10分ってとこだろう。」
 浩子は絶望的な窮地に立たされた。募り来る尿意にはそんなところまで我慢して歩いていけそうには無かった。
 もじもじしている様子を見てとった管理人は、浩子が我慢の限界に近づいているのを察したようだった。
 「そうじゃ。二階のシャワー室でなら水が出るから。そこなら流してもいいですよ。どうせ後で掃除もせにゃならんから。」
 浩子は一瞬、寮の管理人が何を言っているのか理解できずに、呆然としてしまっていた。しかし、すぐに管理人が言っていることを悟って顔を真っ赤にしてしまう。
 「いえ、そんな・・・。」
 浩子は顔を俯かせて黙ってしまった。しかし、それでも尿意のほうは非情にも、浩子にじりじりと限界を突きつけていた。浩子のこめかみに脂汗が流れる。
 浩子はそっと上目遣いに管理人のほうを盗み見る。管理人は再び、何事もなかったかのように一心に皿を拭きつづけていた。
 「あ、あの・・・・」
 浩子はもはや観念して、立ち上がった。
 「あの、やっぱり、シャワーを遣わせていただけませんでしょうか。」
 浩子は言い方に気をつけて、シャワーを浴びさせて貰いたいとも取れるような言い方をした。露骨にシャワー室で放尿させてくれとはいえなかった。
 「ああ、そうですか。じゃあ、ついてきてください。あ、こっちからのほうが早いでしょう。」
 そう言うと、さっき浩子が一旦上まで上がっていった螺旋階段を先に立って歩き始めた。浩子は下半身に力を篭めながら必死で管理人の後を追う。下から着いてゆくので、短いスカートは覗かれないで済むのがありがたかった。さっきの男子トイレらしい扉を通り過ぎて狭い廊下を更に進んでゆくと、階段の踊り場のようなところに出て、そこから別の廊下が続いていた。管理人は先に立って、その廊下を一番突き当たりまで歩いて、浩子を案内した。

浴室排尿

 「こん中です。灯りのスイッチは入ってすぐ右側にありますんで。」
 そう言って、擦りガラスが全面に嵌ったガラリ戸を示した。浩子は軽くお辞儀をする風に頭を下げたまま、ガラリ戸を開き、後ろ手に閉める。管理人が去ってゆく足音がしないのが気になった。が、それをじっと待っている余裕は最早なかった。電灯のスイッチを入れる。暗かった部屋内が明るくなると、棚が並んでいて、中にそれぞれ脱衣籠が入っているのが見て取れた。浩子は曇りガラス戸の向こうの気配を気にしながらも、スーツの上着から脱いでいった。あくまでもシャワーを使わせて貰うのだと、自分に言い聞かせていた。最後にショーツを足首から抜くと全裸になって、更に奥のガラス扉をがらりと開ける。シャワー室といっていたが、大きな浴槽が奥に見えた。湯は張ってはいない。壁に沿ってシャワーが数本並んでいる。冷たいタイルの上をシャワーの傍まで歩いてゆく。目の前には古いせいで曇っている禿かけた鏡がある。浩子の白い太腿が映っているのが見えた。お湯が出るのか判らなかったが、試しに赤いほうの蛇口を捻ってみると、暫くして湯気が出てきてお湯になった。浩子は温度を調節するような素振りで暫くシャワーを流し、誰も居ない静かな浴室にシャワーの湯が床のタイルにあたって立てる水音を響かせつづけた。すぐに我慢が出来なくなり、シャワーヘッドを持って、目の前に湯を流しながら排水溝の上を跨いでしゃがみこんだ。浩子が出そうと思う前に、ゆばりは迸りはじめていた。床のタイルを激しく打つ小水は跳ねをあげていた。自分の足にかからないように、股を広げて極力、前へ跳ばす。さっきしたばかりとは思えないほどの量が止めども無く流れ出てくる。浩子は自分が情けなかった。漸く迸りが弱くなってきたが、たらたらとなかなか滴はとまらなかった。下腹部にちょっと力を篭めると、ちょろちょろっと滴が垂れてくる。相変わらず残尿感はすっきり消えない。
 最後の滴を振り絞るようにして出してしまうと、浩子は濡れる部分がなるべく少ないように注意しながら、股間だけは洗い流した。バスタオルはおろか、タオル一枚さえ持っていない。身体を拭うことに使えるのは小さなハンカチ一枚あるきりなのだ。それからそっと立つと、自分の小水が流れたらしい辺りを丹念にシャワーで流していく。後で管理人がそこを掃除するかと思うと、何の痕跡も残しておきたくなかったのだ。
 必要以上にじっくりと床を流してしまってから、浩子は蛇口をしっかり締め、脱衣所のほうへ戻った。中に電灯をつけているので、曇りガラスの向こうの廊下に管理人が居ないかどうかはっきりとは見えない。しかし、しいんと静まりかえっている様子から人の気配はないように思われた。
 持ってきていたハンカチで股間と濡れた足を拭うと、脱衣室に入り、急いで服を着てしまおうとさっき脱いだ篭の前へ向かい、浩子は呆然となってしまった。篭はまったくの空っぽで、脱いで置いてあった筈のスーツも下着も一切が無くなってしまっていたのだ。あるのは二つ折りにされた紙切れ一枚だけだった。おそるおそるそれを開くと、「最上階の見晴らし台にて待つ」とだけ記されているのだった。

眼鏡あり

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る