寮前

妄想小説

営業課長・桂木浩子 ~ 嗜虐の誘惑 (淫乱インストラクタ続編)



第八章

 その建物は、確かに何もない寂しげな場所に建っている、少し陰気な感じの建物だった。古い公団アパートを大きくしたような真四角な形で、整然と並んでいる窓のところどころがぽっかり開いているのは、虚ろな洞窟のようにも見えた。一見すると、刑務所か監獄のようにも思われた。樫山のメモには「渡良瀬寮」と書いてあった。
 (独身寮か何かなのだろうか。)
 独りでその不気味な形の建物に近づいていきながら、浩子は再び不安になりはじめていた。さっきはダンプカーの運転手に二人だけでいると襲われるのではないかとそればかり心配していた。が、この何も無い原っぱに独り残されてみると、それはそれで、誰かに襲われても助けも呼べない状況であるようにも思われてくるのだ。
 不思議と建物には人の気配が無かった。
 (寮の住人は皆、出勤してしまったということなのかしら。)
 建物のすぐ傍まで来てみると、だんだん様子がはっきりしてきた。昭和の初期に建てられたのではないかと思うような、古いコンクリート打ちっ放しの壁で囲まれた建物だった。入り口の前には古い大きな木の看板で、剥げ掛けた薄い字で、かろうじて「渡良瀬寮」と読めた。浩子はとにかく中へ入ってみることにした。
 「ごめんください。誰か、居ますか。」
 薄暗い玄関ロビーを抜けると、広い場所に出た。真正面一面ガラス張りで、葦の野原とその先の土手が見通せた。テーブルが整然と並んでいることから、食堂のようであった。灯りは点いていなかったが、サンルームのおかげで、建物の外観ほどは暗い雰囲気はない。ガラス張りの反対側は、カウンターになっている。食事時はそこに料理などが並ぶのかもしれない。カウンタの奥は厨房らしい部屋へ繋がる扉があったが、やはり人の気配は感じられなかった。
 浩子は、さっきからまた尿意が募ってきているのを感じていた。トラックに乗る前に工場跡で出してきている。もともと、浩子は催すのは頻繁なほうではある。出張で外に出る時は、機会がある毎に早め、早めに化粧室を捜すようにはしている。が、今日は特に尿意がきつく感じられる。工場跡で思い切り放尿した筈なのだが、何となく残尿感が取りきれない気がしていた。股の奥でむずがゆいような思いが、次第に強くなってきて、我慢がしきれなくなってきてしまったのだ。
 (トイレは何処かにないかしら。)
 浩子が食堂らしきホールを見回してみる。すると、ガラス張りの反対側のカウンタのある壁の端のほうに、螺旋階段があり、二階か、中二階ぐらいのところに狭い廊下が繋がっていて、そのすぐのところに白い扉があるのが見えた。その扉の上に丸に上向き三角のマークが付いている。男性用のトイレらしかった。大抵はその直ぐ横か、建物の対称な位置に女性用のトイレがあるものだが、その直ぐ横は壁だけで、建物の反対側には螺旋階段もない。とりあえず、浩子はその近くまで行ってみることにした。
 螺旋階段は素通しだ。人が大勢居る時だったら、今穿いているミニスカートではちょっと上がる勇気は出ないだろうと思った。階段の上まで上がってみると、男子トイレの扉はすぐ目の前だった。やはり女性用はこの近くには無いらしい。浩子は迷った。
 (誰も居ない今なら・・・)
 そう考えて、ドアノブに手を伸ばしかけた時に、カタッと背後で音がした。びくっとして振り向くと、何時の間にか作業着を着た白髪の男が下から見上げていた。
 「何か捜し物かね。」
 男の視線が、自分の下半身にちらっと動くのを見て、浩子は慌てて、スカートの裾を抑えた。
 「い、いえ。いらしたんですか。誰もいらっしゃらないようだったので・・・・。」
 浩子は男子トイレに潜り込むのを諦めて、裾を手で抑えながら螺旋階段をそそくさと降りた。男の視線がずっとまとわりついてくるようだった。階段を降りきると浩子は白髪の男の前に立つ。男はバケツとモップを手にしていた。管理人か、掃除夫のようだった。
 「ここは、渡良瀬寮ですよね。あの、・・・樫山という人を訪ねてきたのですけれど。」
 「ああ、樫山さんの。ええ、聞いておりますよ。や、ここで待ってて貰ってほしいと言ってました。直に現れるでしょう。そこらで座って待っとったらどうです。」
 男は並んだテーブルの先のガラス張りの前に置いてある古いビニルレザーのソファを指さす。食後に談笑したりするのに使われるようなソファだった。低いソファの高さに合せて、同じように低いテーブルが横にあって、新聞などが載っている。
 「ああ、ありがとうございます。」
 浩子はどうしようか迷ったが、男の前に突っ立っているのも変に思われたので、男が指し示すソファに向っていって、腰を下した。低いソファなので、座ると膝のほうが高くなる。丈の極端に短いスカートでは、際どい格好にならざるを得ない。その座るところを男の目は見逃すまいと、見ない振りを装いながらも視線が追っていた。

眼鏡あり

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