アカシア夫人
第一部 不自由な暮らし
第五章
「ねえ、いつもはどんな事すんのさ。仕事の時。」
和樹はラブホテルのベッドの傍らに寝そべっている朱美に聞いてみた。
「してみる?」
朱美は謎めいた笑みを浮かべて和樹のほうに向き直るとそう言ったのだった。そうしてやおら、ベッドから起き上がると、部屋の隅においたカート式のトランクから何やら取り出してきた。
「うつ伏せになって。」
朱美がちょっと強い口調になって和樹に命令する。和樹が言われた通り身体を反転させると、朱美はベッドに上がってきて和樹の上に馬乗りになった。
「両手を背中に出して。」
次の命令が飛ぶ。続いてガチャリと冷たい音がして、和樹は手首に手錠を嵌められたのを感じた。朱美は両手を和樹の腰元にやると、乱暴に和樹の穿いていたトランクスをズボンごと引き下げた。尻の間に何やら差し込まれる。房のようになった鞭の柄のほうだった。それを抉るようにくねらせると、膨らみだした和樹の陰茎に当てる。
「さあ、鞭を下さいと願いするのよ。坊や。」
ピシッと音がして、朱美の振るう鞭が和樹の尻で炸裂する。想像していたほどの痛みはなかったが、なんとも言えぬ刺激がある。和樹は腹の下でペニスが更に鎌首を持ち上げてくるのを感じていた。
朱美には、和樹の古くからの知り合いが合コンに誘って来た時に初めて出逢った。その時は意気投合して、皆から二人きりで抜け出して別の場所に呑みに行ったのだった。そこで和樹は朱美がSM倶楽部で女王様の役柄でプレイをするS嬢の仕事をしていることを知ったのだった。
二人がラブホテルにしけこんだのは成り行きだった。お互いが好きになった訳でもないし、セックスがしたくなった訳でもなかった。ただ、何となく和樹は朱美に興味を持ち、朱美も和樹に興味を抱いたようだった。
「それで、縄で縛る時はどうするのさ。」
「いいわ。じゃあ、縛ってあげる。さ、両手を後ろに回してっ。」
「後ろじゃ見えないから、前で縛って見せてよ。」
「あら、縛り方を勉強したいの。いいわよ。じゃ、前で。」
朱美は職業柄か器用に縄を操ってゆく。
「ふうん、なるほどね。そうやって一回廻してから結ぶんだ。」
「そうよ。こうすると、外そうともがいても余計に締まってくるんで、解けないの。こう・・・、こうよ。」
朱美はあっと言う間に和樹の両手を括りあげていた。
「ふうん。じゃ、今度は俺にやらせてくれよ。」
「えっ。私を縛って、変なことするんじゃないわよね。」
「変なことって?」
「括り付けといて、財布を抜くとか・・・。」
「そんな事するなんて、思ってないくせに。」
「まあね。ただ、客の中にはそういう輩がいるからね。普段から油断しないんだ。」
「へえ、そうなのか。SMって結構危ないんだね。」
「そうよ。だから、初めての客とは相手しないの。ちゃんとしたクラブ制だし。」
「ね、俺はさ。初めての男だけど、練習したいんだよ。相手してくれよ。」
「いいわよ。また逢ってくれる?」
「勿論さ。」
「じゃ、縛らせてあげる。どうせ、奥さんにしてみたいんでしょ。貴方、奥さん。縛ったこととかないんでしょう。」
「・・・。ないよ。」
「でも、縛ってみたい。」
「そりゃ、まあね。」
「じゃ、いいわ。教えた通りにしてみて。」
そう言って朱美は和樹に背を向けて両手を後ろに回すのだった。
「じゃ、今度は余った縄を胸に廻して。そう、ぐるっと一周。乳房の上をよ。そう、そしたら後ろで交差させて、今度は乳房の下をぐるっと回すの。そう、いい感じ。」
朱美の指導は的確だった。さすがにプロだと、和樹は舌を巻く。
「縛り上げたら次はどうするの?」
和樹はどんどんのめり込んでいく。ズボンの下でペニスが膨らみ始めていた。
「ブラウスのボタンを外して。肩から引き下ろしていくの。そう、縄の下を潜らせて。それで今度はブラジャーを引き揚げてしまって。そう、そして乳首を舌で転がすの。女は縛られてこれをやられるとイチコロよ。私はMじゃないからあんまし感じないけどね。」
和樹はS嬢に舌技まで指導されていくのだった。
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