アカシア夫人
第一部 不自由な暮らし
第四章
次の日の夜、遅くになって和樹は帰ってきた。クリームシチューを用意して待っていた貴子だったが、遅くなったので食べてきたとのことだった。片付け物をして二階の自分の寝室に戻った貴子だったが、背後に和樹が近寄ってくる気配を感じた。
「今夜はちょっと趣向を変えたことをしてみようよ。」
和樹が背中越しに貴子の耳元にそう囁く。貴子は久々の夜の営みを予感した。
後ろから抱きしめるように貴子の身体に手を回すと、和樹は貴子の手首を取って、自分のほうへ引っ張る。
「何・・・、何なさるの。」
そう軽く訊いた貴子だったが、和樹が手首に何やら紐のようなものを巻きつけてきたのでちょっと慌てる。
「大丈夫だよ。痛くしないから。」
そう言うと、和樹は優しく貴子の身体をベッドの上に押し倒す。そうしておいて、もう片方の手首も捉えて、二つあわせて括り始めた。
「えっ、縛るの・・・。」
そんな事は初めてのことだった。夫は性には淡白なほうだと思っていた。子供が大きくなってからは身体を求められることは随分と減っていた。所謂倦怠期というものなのかとも思っていた。そして、夫婦の中には倦怠期を脱却するのに、普通ではないセックスをすることがあるのだというのも、美容院の週刊誌で読んだことがあった。妻を縛って犯すようにセックスをするのもそのひとつだと書いてあったのだ。
初めての事にしては和樹は手際が良かった。紐のようなものはタオル地のバスローブ用の帯だった。両手首を器用に括りつけてしまうと、貴子の身体に後ろから覆い被さるようにして抱きついてきて、胸元を探られた。お尻にあてられた和樹の下半身は既に勃起しているのを貴子は感じ取っていた。
結局、和樹は果てるところまでは行かなかった。それでも両手を縛って自由を奪ってすることはとても興奮を呼ぶらしく、勃起したその日の和樹のモノは、いつになく大きく硬かった。貴子もされることに不安を感じながらも、夫の久々の硬くなったモノの挿入に、つい喘ぎ声を挙げてしまった。そんなことはもう随分無かったように思った。
和樹が挿入した男根を引き抜いて横に仰向けになってからも、貴子は暫く縛られたままだった。抜かれたばかりの陰唇はまだ疼いていたが、慰めようもなかった。
「今度はもっと本格的な縄を用意しよう。」
そう言って、和樹は貴子の片手だけ解くと自分の部屋へ戻っていってしまった。貴子は何となく物足りない気持ちで、もう片方の手を解いた後、指をあそこに当てて自分で慰めるほかはなかったのだった。
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