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アカシア夫人



 第二部 和樹の嫉妬と貴子の迷い



 第二十三章

 「どうしてこんなことをなさるの。」
 「自分の胸に聞いてみれば、分かるだろう。予定が変更になって一日早く帰ってみれば、こんなことだ。」
 貴子は屋根裏部屋へ連れ込まれていた。明かり取りの細い換気窓が南北にあるだけの家具が何も置いてない部屋である。ゆくゆくは物置に使う為に設計された筈のスペースだが当面、何も置いてない。一面が板張りの床に、4本の柱が矩形に並んでいるきりである。
 貴子は和樹にそこに連れ込まれるなり、後ろ手に縛られて自由を奪われた。そして4本あるうちの二本の柱にそれぞれの足首を繋がれてしまった。足を広げさせられたまま、土下座のような格好で床に這わされていた。両手は背中で括られているので、肩を突いて横向きになって伏せっているしかなかった。
 「あ、やめてっ・・・。」
 いきなり和樹は貴子のスカートの中に手を入れるとショーツを膝の上まで剥き下ろした。脚を広げさせられているので、ショーツは両腿に引っ張られてぱんぱんに広がる。その内側にはナプキンが貼り付けられている。もう殆ど終わりなので、鮮血の痕はないが、うっすらと縦に一筋、茶色く沁みが残っている。
 和樹はスカートを捲り上げ、貴子の裸の尻を露わにしてしまう。その上でズボンからベルトを抜き取ると、二つに折り曲げる。
 パシーン。
 「あうっ・・・・。」
 和樹の革のベルトが貴子の白い尻めがけていきなり振り下ろされた。
 「な、なぜ・・・。何故、こんなことを。」
 涙眼になりながら貴子が和樹の見上げて言った。
 「お前が、嘘を吐いたからだ。折檻して、少し正直になるように心を入れ替えさせる。」
 そう言うと、もう一発を貴子の裸の尻に打ち下ろす。
 パシーン。
 「あああっ・・・。」
 既に、真っ白だった貴子の尻は、赤く蚯蚓腫れが出来ている。
 「う、嘘って・・・。」
 「お前は、ひとりで走って帰ってきたと言ったな。あの雨の中でなんでそんなに濡れていないんだ。お前が帰ってくる直前に、車が停まる音がして、ドアが閉まる音までしていたのは聞こえているんだ。何をしていた。」
 「ああ、わ、私・・・。」
 貴子は唇を噛んで悔やんでいた。嫉妬深い夫だからこそ、余計な疑いがかかるような事は言わないほうがいいと思ったのだった。しかし、それは間違いだった。
 パシーン。
 更に一発、貴子の尻でベルトの鞭が鳴る。
 「ああ、もう許して・・・。」
 パシーン。
 「ご、ごめんなさい。嘘、吐くつもりじゃ・・・、なかったんです。許して、和樹さん。」
 「じゃ、認めるんだな。男と車に乗っていたことを。」
 「は、はいっ・・・。」
 貴子は自分が悪いのだと思った。
 「少し、そのままの格好で反省してろ。正直に何でも話す気持ちになるようにな。」
 そう言うと、和樹は貴子に裸の尻を丸出しにさせた格好のまま放置して、屋根裏から降りていってしまったのだった。
 貴子は涙さえ拭えない自分の情けなさに、暫く嗚咽を洩らし続けるのだった。

 和樹が漸く戻ってきたのは小一時間ほどが経っていた。貴子はまだ戒めを解かれていなかった。
 「それじゃあ、本当に送って貰った以外、何も無かったんだな。」
 「本当です。マスターに喫茶店を出た時刻を訊いて貰えば分かります。真っ直ぐ何処にも寄らずに家に戻ったのですから。でも、貴方に内緒で、男の人の車に乗ってしまったのは軽率でした。私が悪うございました。もう決して、そんな真似は致しませんからお許しください・・・。」
 夫に向かってそんな許しを請わねばならないのは、屈辱的ではあった。以前の父親がしっかりしていた頃なら、決してそんな事はなかった筈だった。父親に泣きつけばきっと、何をそれしきの事で、妻を疑うとはと小さい男だと、叱り付け諌めてくれた筈だった。しかし、今の貴子にとって頼るのは夫、和樹以外には居ないのだ。和樹に見捨てられたら、この蓼科では生きていけないし、蓼科以外に貴子の帰る場所は無いのだった。
 「それじゃあ何も無かったことは信じてやろう。しかし、お前には罰を与える。もう二度と変な気を起こさないようにする為の罰だ。」
 「えっ、何を・・・。もう鞭はいやです。許してください。」
 「鞭じゃない。ちょっと待ってろ。」
 そう言うと、貴子をそのまま戒めを解くことなく、和樹は再び階下へ降りていった。

madam

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