アカシア夫人
第二部 和樹の嫉妬と貴子の迷い
第二十一章
「奥さん。アンタ、昨日、オナニーしてたよな。バイブレータの音が聞こえていたよ。」
突然声を掛けられて、貴子は吃驚して振り返る。そこにはバードウォッチャーと自称している岸谷という男が、にやにやしながら貴子を見つめて立っていた。
「な、何をいきなり言うの。し、知りません。」
「あんた、いつも一人であんな事してんの。さぞかし夜は寂しいんだろうな。」
「嫌っ、言わないで。」
貴子は耳を押さえて走り出す。森の中をどんどん貴子は走っていく。しかし、急に木の根っこに足を取られて前へ転んでしまう。
「大丈夫ですか。」
貴子が声のしたほうに顔をあげてみると、三河屋の青年が心配そうにみている。手を差し伸べてくれたので、貴子はその手を握り、助け起こしてもらう。
「どうかしたのですか。」
「へ、変な男に追いかけられて。怖かったの。」
「オナニーしてたとか言われたんじゃないですか。」
「えっ。貴方までが、そんな事・・・。」
「だって皆んな、噂してますよ。」
「いや、駄目よ。そんな噂、信じないで。」
貴子は青年の手を振り解いて、走り出す。目の前にドアがある。カウベルの音が聞こえる。
「いらっしゃい、奥さん。」
「どうしたの・・・。何故、そんな目で私を見るの?」
マスターは珍しいものを見るような目で貴子のほうを嘗め回すように観ている。
「気持ち良かったんでしょ。正直に言っちゃいなさいよ。みんなしてることですよ。」
「し、してること・・・?してる事って。」
「オナニーですよ。バイブ使ってたでしょ。そうそう、奥に旦那さん来てますよ。」
「えっ、主人が・・・。」
振り向くと、直ぐ目の前に和樹が立っている。
「あ、貴方。どうして・・・。」
和樹はいきなり貴子の手首を握って、持ち上げる。
「お前、俺のバイブを使ったんだってな。この手でしたのか。自慰がそんなによかったのか。正直に白状しろっ。」
「い、いや・・・。許して。」
「駄目だ。そら、こうしてやる。」
和樹は貴子の手を背中で捻り上げると何時の間にか手にしていた縄で縛り始める。
「マスター。あのバイブを持ってきて。こいつに突き立ててやってくれ。」
和樹が後ろ手に縛り上げた貴子を逃げられないように肩のところでしっかり押さえ込んでいる。奥からマスターが何やら手にして戻ってくる。
「さ、そのスカートを捲り上げてくださいな。こっちから押し当ててあげますから。」
「い、いやっ。駄目。駄目よ、そんな事しては・・・。ああ、許して・・・。」
寝返りを打とうとしている貴子の脚にシーツが絡み付いていた。夢から醒めた貴子は寝汗をびっしょり掻いていた。まだ鼓動が高鳴っていた。
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