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アカシア夫人



 第二部 和樹の嫉妬と貴子の迷い



 第二十章

 その日は思ったより首尾よく事が運んで、三河屋の俊介に山荘まで送り返して貰ったのはまだお昼前だった。タクシーを待って帰らねばならないと思っていたので、一日仕事になるだろうと覚悟していただけに、呆気なくて午後を持て余してしまった貴子には、抽斗の中の物のことが気になって仕方なかった。どうしてもまた取り出してみて、使ってみたい誘惑に抗し切れなかった。夫が帰ってくるのは二日後だ。どう間違っても帰ってくる心配はなかった。訪ねてくるのも三河屋と郵便局員ぐらいしかいない。
 日が傾き始める前の昼下がり、貴子は我慢出来ずに夫の寝室に忍び込み、合鍵を使って抽斗を開けて、バイブと手錠を取り出すと、自分の寝室まで持ってきてしまった。

 より興味があったのは、バイブのほうだったが、まず手錠のほうを調べてみる。ギザギザの付いたフックのようになった部分を受けのほうに入れ込むとロックが掛って締まっていくほうにしか進まない。鍵穴に小さな鍵を差し込んで回すと、それは外れるようになっているのだった。鍵もロックも意外と簡単な構造なのだと分かった。自分の手に嵌めてみたいが、間違って締まってしまって、開かなくなってしまうのが怖かった。嵌らないように注意しながら前手錠で手首に掛けてみる。簡単に自由を奪われてしまうのだと想像するだけで刺激的だった。
 今度は片手にぶら下げたままで両手を背中に廻し、もう片方の手首にも載せてみる。何かの拍子に掛ってしまわないか心配だが、刺激はより強い。そのままベッドにうつ伏せになる。両腕を背中側で伸ばしてみて、拘束されたところを想像してみる。身体の中心が疼くように思えてくる。
 興奮してきて、どうしてもバイブを使ってみたくなる。手錠は傍らに置いて、バイブを箱から出してみた。スイッチらしいものをスライドさせてみて、いきなり大きな音がして振動し始め、貴子は吃驚する。幾つかボタンがあって、いろんなモードがあることが判ってきた。

vibration

 暫くいじっているうちに気持ちも落ち着いてきて、一番静かな振動のモードにして貴子は仰向けに横になる。下着はつけたままスカートを上に捲り上げる。柄の部分を逆手に持って、ゆっくりと太腿の中心部に押し当ててみる。それから両脚を閉じたままで内股に沿ってゆっくり振動しているバイブの先を上方にスライドさせてゆく。
 「ああはっ・・・。」
 バイブの先がクロッチの先端に触れた瞬間、溜まらず貴子は深い喘ぎ声を洩らしてしまった。

 貴子がふと正気に返った時には、陽は傾いて翳り始めていた。喉がカラカラだった。膝の上まで下ろしていたショーツを引き揚げる。傍らに置いてあったバイブの先はもう乾き始めているが、残り香があるように思えたので、洗面所へ行ってタオルを濡らしてきて入念に拭う。
 慎重に元在ったとおりの場所に全てのものを返して鍵を掛けたが、何か触った形跡が残っていないか心配で、何度も開け直して、見返してみないではいられない貴子だった。

madam

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