250栗原万歳

妄想小説

牝豚狩り



第五章 三箇月後

  その8



 メールの設定を終えると、医者が美咲を眠らせて撮影したチアガール衣装の美咲の画像のコピーだけを取り、そっとパソコンを終了させて閉じ、何食わぬ顔で部屋を出たのだった。

 そして月末がやってきて、いつもの指定日が来た。その翌日に医者のアカウントに設定しなおされた冴子のパソコンに一通のメールが送られてきた。差出人はSHPresenter 、メールの題名は今月のSH となっていた。

----- Original Message -----
From: "SHPresenter"
To: "SHINOZUKA_SOWHUNTER" shinozuka_sowhunt@xxx.xxx.jp;
Sent: Monday, January 23, 2006 9:56 PM
Subject: 今月のSH

http://www.s24988jp.odn.ne/jp

------

 驚くほどの素っ気ない、URL しか記載されていないメールだった。手掛かりになりそうなものは何一つない。発信アドレスも誰でもすぐに取得できるアドレスのものだし、使っているサイトも大手のもので、直ぐに解約されてしまうだろうから追跡のしようがない。

 冴子はすぐに自分のパソコンのブックマークにそのURL を登録し、そこへアクセスを掛けてみる。開いたのは、以前医者のパソコンにあった画像に映された画面とほぼ同じデザインのサイトだった。

 しかし、中身は何も掛かれていない真っ黒な画面で、真中に「enter password」と印されていて、窓が開いている。
 冴子は何の躊躇もなく、そこへ「sowhunt」と打ち込む。直ぐにセキュリティは解除されて新たな画面が開いた。冴子はこの会員制の団体の客がそれほどパソコンには精通している筈はないと見込んでいた。医者や政治家、実業家といった金を持った連中がターゲットのようだった。知能指数は高めだが、だからといってパソコンオタクではない。複雑なパスワードシステムは要求されても対応できないのだろう。だから、パスワードは単純だろうと想像していた。
 電子メールに送られてくる毎月変わるURL を打ち込んでサイトに繋ぐというだけで、かなりのハードルの高いセキュリティシステムと言えた。一般の人間で出来るのはせいぜいここまでだろう。

 開かれた新しい頁には、次の牝豚狩りの案内がされていた。「貴方もあの超有名アイドル選手に挑戦してみる・・・?」意味ありげなタイトルが大きく上面を飾っていた。

 真中に写真があった。しかし、そこにあったのは冴子が想像していた被害者となる女性の顔写真ではなかった。写真は、立って構えたポーズを取るバレーボール女子選手のように見えた。だが、その写真は加工されて誰かははっきりわからないように作り変えられていた。普通の写真を加工ソフトを使ってモノクロ化し、コントラストをかなり強調させていって、細部を判別不能なものに換えた画像だった。バレーボール選手には詳しくない冴子にはすぐに誰だか判らない。
 画像の下には、「写真をクリック」と書かれた文字が点滅していた。
 マウスを動かしてカーソルを写真の上に移動させてクリックしてみる。
 画像が今度は鮮明なものに変わった。しかし、それは女性選手ではなかった。一見すると、床に置かれた白と黒の布切れのようだった。しかしよく見ると、それは明らかに脱がされたブルマとその下に穿かれていたことを想像させる白いショーツだった。綺麗に広げられて掲げられているのではなく、くしゃくしゃっと丸められておいてあるので、すぐにはブルマとショーツとは気づかない。が、さきほどの画像と照らし合わせて考えると、脱がされた直後のものであることを物語っている。ショーツのクロッチの部分がほんのちょっとだけ覗いていて、かすかに沁みになっているようにも見える。煽情的な画像だった。そう期待して観る者には、そそられずには居られないような写真だった。
 試しにもう一度、画面をクリックしてみる。すぐさま画像は切り替わった。背景は黒っぽい地の服のようだった。その上に交差された女のものらしき手首が重ねられていて、きつく縄で括られている。指の向きからして背中であるのが判る。
 もう一度クリックしてみると、今度は大きく開かれた二本の脚が画面の両側に斜めに横切っていた。その脚の付け根と足首は画面からははみ出ている。筋肉質の締まった太腿は、運動選手のものであることを窺わせている。かすかに曲がった膝部にはえくぼ状のディンプルが見えることから、背面から取られた写真であることが判る。健康そうなはち切れるような太腿と脛だが、その位置関係は不自然で、何らかの固定を強いられていることを予感させていた。
 もう一度クリックすると、最初の不鮮明画像に戻った。掲載されていた写真はそれだけだった。
 実に見事な演出だった。身動き取れないように拘束され、横たえられているバレーボール女子選手を想像してしまう。下半身は裸にされているのかもしれない。そして足首を大股開きをするように固定されている。そんな姿を、すぐに想像してしまう。しかし、そういう画像が掲載されている訳ではない。すべては暗示からの想像なのだ。それはそういう写真を見せられるより遥かに煽情的だった。
 この手の趣味を持った会員たちは、妄想に妄想を重ねていくだろうことが想像された。そしてそのことが、会員たちにより高いビッドをつけさせることを意図しているものだということが、その経緯を知る冴子には容易に想像できるのだった。


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