240チアもろ捲れ

妄想小説

牝豚狩り



第五章 三箇月後

  その6



 三人は次の朝、ホテルのダイニングで落ち合った。冴子は何事も無かったかのように三人分の朝食を頼む。良子が説明してくれというのを、美咲は朝まで多分起きないからと、良子にも部屋を取らせ一晩を明かさせたのだ。
 美咲はがんがんする頭を抑えながら電話で呼び出されたダイニングに下りてきた。既にホテルに来た時のスーツに着替えている。
 「大丈夫、美咲さん。あの男に飲まされた薬のせいよ。多分、無水アルコールと睡眠薬でしょう。身体には心配はないわ。急性アルコール中毒にはなっていないようだから。」
 「私、起きたら、チアガールの衣装を着ていたの。びっくりしたわ。」
 「彼が着せたの。どうしても貴方のチアガール姿が観てみたかったようよ。でも、何もされていないから大丈夫。ただ着替えさせられただけ。」
 「え、冴子さん。観ていたの。」
 美咲は目を丸くして言う。
 「そうよ。貴方に危険なことがあってはならないから。ずっと窓の外にいたわ。」
 美咲は口を丸く開いて、良子のほうをみる。良子は、やさしく頷いてみせる。
 「冴子さんは屋上からロープを伝って降りていったみたい。それくらい、何でもないんですって。だから、冴子さんが大丈夫っていうんだから、大丈夫。」
 (でも、写真ぐらいは撮られたんでしょ。)そう言い掛けて美咲は言葉を飲み込んだ。(この頭のよさそうな特別捜査官が黙って写真を撮らせたからには、何かの作戦があるのだろう。それ位なら初めから協力する覚悟が出来てるわ。私の写真が欲しいなんて、光栄じゃないの。ちょっとエッチな写真だったとしても・・・。)
 美咲は割り切りも良かった。冴子はそういう美咲の性格を見越して、この役目を頼んだのだった。冴子は男が美咲を恥かしい格好にさせて、その痴態を写真に撮ったこと、そしてその一部始終を冴子がビデオカメラに証拠として残したことも黙っていた。このテープはいずれ男を操る切り札になる。だが、今はまだその時ではなかった。

 「美咲さん。貴方の携帯、ちょっと貸してくださらない。」
 冴子は涼しい顔をしてそう言うと、怪訝な顔をしている美咲から携帯を受け取り、素早い操作でメールを作った。

 「酔っ払っちゃって寝ちゃったみたいでご免なさい。いつ着替えたのかも覚えていないの。恥かしいわ。でも、寝てる私に何もしなかったなんて、篠崎さんて紳士なのね。また逢ってくださいね。
 美咲」
 美咲は送信する前に、メールの文を見せられた。まるで自分が打ったかのような文だった。
 美咲は冴子に目配せで承諾を合図した。今はまだ、医者の方が仕掛けたと思っている罠にかかって何も気づいていない振りを続けなければならない。薬を仕込まれていたことを気づいていないと知れば、またアプローチしてくるだろう。あられもない痴態の写真は暫くは医師の性欲を満足させるだろうが、すぐに飽きてくる筈だ。また仕掛けてくるか、こちらの誘いに乗ってくるか時間の問題だと冴子は判断していた。何とか医者には気づかれないうちに、牝豚狩りの首謀者へアプローチする手掛かりを引き出さねばならない、そう冴子は思っていたのだった。

 冴子は早速、駒澤大チアリーディング部のことを調べ始めた。警察に就職してくる者は自然と体育会系が多い。従って、その伝から大学のスポーツ系の関係者に内密に当たるのはそれほど難しいことではなかった。冴子はすぐに、駒澤大卒業者の中から、駒澤大チアリーディング部のここ数年の部員名簿、顔写真、そして最近の消息情報を得た。

 大学のこの手のサークルでは、大抵の場合、入学と同時に入部し、専門に上がる2年の学期末か、就職を決める4年の夏に退部を決めるのが普通である。従って、それ以外の時期に退部しているのは何らかの事情があると見て間違いなかった。勿論、身体を張った大技の練習もするので、怪我で退部を余儀なくされる場合もある。そういう例を除いていくと、不自然な退部をした部員の数はかなり絞られてくるのだ。
 冴子の密かな捜査線上に浮かんできたのが、森山はるかだった。一昨年の秋、二年生の夏休みの後、突然退部届けを出している。秋のいろんな大会のイベントを控えての時期で、退部としては普通の時期ではない。最初から体力的に向かないものは、一年の夏までに辞めてしまうのが普通だし、森山は体格的にも大柄で、体力も人並み以上だった。一年ではレギュラーの地位を確保していた。
 冴子は大学の教務室にコネを通じて照会を掛けた。が、意外な結果に終わった。森山は、大学三年に上がった後、大学を中退し、その直後に飛び降り自殺をしていた。
 当時を知る者から得た噂話では、サークルを辞めた頃から悩んでいる様子だったようだ。原因は男性不審ではないかというのが、森山をよく知る友人のコメントだった。三年になって、新しい男友達(それは恋人と言ってよいのではないかと教務の担当は言っていた)が出来て、明るさを取り戻したかに見えたのだが、突如、中退届を出してきて、問合せをしようとしたときには、既に自殺のニュースが流れた後だったというのである。

 冴子は、あと一歩のところで手掛かりを失ってしまったのを悟った。その後取り寄せた写真から、医者が残していた公募サイトに貼られていた写真は、不鮮明ではあるが、限りなく森山のものに近いように思われた。


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