240チアもろ捲れ

妄想小説

牝豚狩り



第五章 三箇月後

  その7



 やっと掴んだ新たな手掛かりがぷつんと切れ、冴子は焦りを感じていた。もうすぐ次の定期振込み日が近づいていた。その直後に、新たな案内サイトのURL の報せが会員に届く筈だ。勿論、あの医者にも届くものと思われた。冴子は、再び医者のマンションに忍び込む計画を立てた。

 前回忍び込んだ時に、マンション玄関のセキュリティの仕組みは粗方、頭に入っていた。マンション住人は管理人室の目の前にある自動ロックの掛かる扉に据え付けられた暗号キー解除装置に暗証番号を打ち込んで扉を解錠する。
 宅配業者などは、管理人室から各居室へインターフォンを掛けて、住人から自動ロックを部屋から解除して貰って、マンション内部へ入るのだ。マンション内へ入る誰かが解錠した瞬間に一緒に入ってしまう手もあるが、マンション管理人に見咎められてしまう懼れがあった。

 冴子はピザ宅配業者を装った。制服を手に入れるのは訳もない。同じ包装の箱を抱えて、管理人室へ入り、インターフォンを使う振りをする。そして、自動扉の前に立ち待つ振りをして、管理人の目が離れた一瞬に暗証番号を押す。
 医者の暗証番号は、前回盗み出したパソコン内のデータの中から、検索で探り当てていた。誰しも暗証番号を忘れるのを懼れて、パソコンなどにメモをとるものだ。後は、その場所を探りあてるちょっとした工夫をすればいい。大抵の場合、「秘密、番号メモ、セキュリテイ、備忘」などのキーワードで検索をかければ、どれかに引っ掛かるものだ。この医者の場合、ノートパソコン自体にキーワード施錠が掛かっていると安心して、暗証番号メモと題したファイルに堂々と様々なパスワード、暗証番号がまとめて記載されていたのだった。

 前回と同じように、部屋の中へはピンを使って開錠して入る。家政婦は入れていないらしい医者だけの秘密の部屋の扉を開けて中へ入ると、後ろ手に縛られているように両腕を背後に回し、今にも短い裾の下から下着が覗いてしまいそうに、膝を立てて寝転んでいるあられもない姿の美咲の写真が大写しで壁に貼られていた。パソコンに繋がる高性能プリンタを使って何枚にも分けて印刷したものを貼り合せたものらしかった。

 しかし、冴子が必要としていたのは、美咲の撮られた恥かしい写真ではなかった。美咲の名誉の為に取り返してはやりたいが、それでは異変に気づかれてしまう。もう少しの間、美咲の痴態を医者の目に晒しておくのは我慢しなければならないと諦めてもらうことにした。
 冴子はすぐさま、医者の愛用のノートパソコンを立ち上げる。パスワード要求画面で躊躇無く「sowhunt」と打ち込む。直ぐにハードディスクの低い唸り音と共に、パソコンが立ち上がっていく。
 冴子が求めていたのは、医者のメールソフトだった。誰でもが使っている普通のメールソフトである。それを立ち上げると、アカウント設定画面を開く。最初に立ち上げる時に設定の為に開く他は、通常は使うことのない画面である。アカウント、パスワード、pop サーバ名、smtp サーバー名と、順に予め冴子が取得してきた番号に打ち変えてゆく。最後にメールアドレスを打ち換える。アドレス名は「shinozaki_sowhunt@xxx.xxx.jp」となっている。事前に冴子が用意してきたアカウントのアドレス名は「shinozaki_sowhant@xxx.xxx.jp」になっている。一文字だけ変えたものだ。メールの受信アドレスは、メールが届く度に自動で文面の上に出てしまう。が、一見しただけでは一文字だけ変わっているなどと気づくものは居ない。

 これで冴子は「牝豚狩り」の首謀者からのメールを先に取得し、首謀者に成りすまして医者にメールを送ることで、医者に気づかれずにメール情報を傍受することが出来るようになるのだった。この医者が首謀者宛てに送るメールを傍受するのは、更なる細工が必要になる。送られてきたURL を先に見て、ほぼ同じようなサイトをダミーで立ち上げ、そのサイトのURL を今度は医者に送るのだ。医者は何も知らずに冴子の作ったダミーのサイトへ送信してくる。しかし、現段階では、医者からこのサイト宛てに送る情報はあまり価値がなく、そこまでの作業は必要なかった。


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