250栗原万歳

妄想小説

牝豚狩り



第五章 三箇月後

  その11



 サイトには、会員たちが自由に書き込める掲示板へのリンクボタンも設けられている。そちらへも何度もアクセスしてみた冴子だった。アクセスはどんどん増えつづけていた。内容は、会員の間でも、本当に栗原なのかを話題にしているものが多かった。確実に言えることは、会員達のほうが、話題になっている栗原瞳について、詳しい情報を持っているということだった。栗原がアジア予選の試合の時に指に巻いていたバンデージが人差し指と薬指で、二日目に掲載された縛られた手首と符号することも、冴子は掲示板の記事を通じて知ったのだった。膝の下の痣の痕についても、何試合目の何時、転んだ時のものであるなどの詳細の解説をこの掲示板の中で見つかったのだった。
 書き込み記事の中には、栗原瞳が拉致された方法について論議されているものもあった。「そんなことが出来る訳がない」という書き込みの後に、「こういう方法もあるんだよ」という記事が紹介されていたりしている。ある記事によれば、「空港従業員の制服に着替えさせて、一般乗客が出入りしないところから、外に連れ出す」とあった。「空港従業員なら出入りにパスが必要じゃないか」と書かれた反論には、ゲートの外の一般乗客と接触出来る場所で再び一般乗客に紛れる」と詳細に書かれており、空港セキュリティ管理の甘さを露呈させていた。延々と続く議論の中には、栗原を連れ出す方法を示唆するものがあったが、それっきり、その記事の続きは出てこなかった。おそらく、図星をついていて、これ以上載せることが出来ないのでサイト管理者の手によって削除されたのだろう。書いた本人は、自分の書き込みが掲載されないことで、自分が真実を探り当てたことを知り、密かにその喜びを噛み締めているに違いなかった。
 冴子は栗原瞳失踪事件の正式な捜査員に加わっている訳ではないので、現場の詳細な情報は知ることが出来ない。栗原失踪の謎の解明には、現場のもう少し詳しい情報が必要だったが、今の冴子はそれを知る立場にはないのだった。この事件が自分の関わった事件と関わりがあることが判明しさえすれば、情報を共有できる立場となり、事件解明に大きく前進出来る筈だと、冴子も思っていた。が、捜査の上層部は必ずしもいいほうへ理解してくれるとは限らないことも承知していた。過って冴子が騒ぎ出せば、警察内部でもパニックとなり、その情報の一部が報道へ洩れて、ひいては犯人を警戒させてしまう懼れも無い訳ではないと思ったのだ。

 そんな冴子に、通常は知らされない捜査の情報を少しだけ洩らしてくれる仲間も居た。冴子が聞きつけた未確定情報は、写真週刊誌に掲載されたキスシーンの現場はどうも小牧空港の駐車場らしいというものだった。

 冴子の頭に閃いたことがあった。成田へ着いた乗客が、到着口から外に出ることなく、外部に出る方法。それは、到着ゲートから直接、乗り継ぎ便に乗り換えることだ。空港の到着ゲートは、降りるとまず、入国手続きゲートへ向かうか、乗り継ぎ便ゲートへ向かうかになる。乗り継ぎ便ゲートは日本国内に降りずに、別の国へ向かう便に再び乗ることになるのだが、例外がある。国際空港となっている別の日本国内の地方空港へ向かう手だ。国内線には乗り継げないが、日本国内の複数の空港を経由地にしている外国航空会社なら別の空港へ乗り継いでいける。日本への再入国手続きは、行った先の空港で行えばいいのだ。
 おそらく捜査陣は、日本国内じゅうの国際空港として認められている空港に栗原瞳の入国審査記録がないかをコンピュータを使って検索したのだろう。
 名古屋にある小牧空港も一部国際便を扱う空港になっていた筈だ。おそらくその線から割り出したのだろう。
 冴子は栗原瞳が犯人の手に落ちてしまっていることを確信した。


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