秘書電話4

妄想小説

牝豚狩り



第四章 冴子の捜査開始

  その3


 男はサングラスを外して机に置くと、もう一度最後の処理について、考え直すことにした。一応自分では完璧に処理が出来たつもりでいる。
 実際に、事件について、マスコミで取り沙汰されることもぴったり止まっているし、被害者の所属していた所轄警察に掲げられていた捜査本部の立て看板も、ずいぶん前に無くなっていることを確かめている。

 しかし、犯罪というのは、どこにほころびがあるかわからないものだ。それを畏れて、いつも一つの見落としもないように考え、処理をしてきた。今回でも何の仕損ないもないとは思いながらも見逃しがなかったか、振り返ってみているのだった。

 今回スタッフとして雇った男の一人が、帰りの車の中で内田由紀を刺して殺害してしまったのは、予測外の出来事ではあった。予測外の出来事はとかく将来の問題の種になりやすいものだ。しかし、今回も何とかそれをうまく処理しきれたと思っている。

 内田由紀は自分が企画しているような人間狩りイベントの獲物としては、一回だけである限りは最適とも言えた。事前の評判も高かったし、ビッドも最高値を更新している。再度の挑戦を望む声も高い。同じ獲物で再度企画を募集しても、今度も最高値を更新するだろう。男の期待を遥かに超えて、三人のセミプロのハンターの追尾を振り切ったのだ。今回仕損なった三人だけでも、リベンジに燃えて再度必ずや応募してくるだろう。
 しかし、あまりに長期に亘って獲物を監禁捕獲しておくのは発覚や逃亡の危険も高くなる。内田の前のような女、(そうだ、国仲良子という名だったろうか)あのような女であれば、適当な処置さえ施しておけば、一回で帰してやっても自分から秘密を発覚させるようなことはない筈だ。
 内田由紀のような、闘争心に燃えた女は、その回だけは客のハンターを燃え立たせるのには、好都合だが、自由の身にして帰してやるのは危険が大き過ぎる。黙って看過ごすものとは思えないからだ。個人レベルでは足がつかないように、場所も発覚しないようにそれなりには気をつけている。組織だって調査するようなことも、そういうイベントが実際にあったという証拠さえ残さなければ、荒唐無稽で誰も取り合わないだろう。そんな目に確かに遭ったと主張して回るのも、自分の恥じを晒しまわるようなものだ。
 だから、組織的な捜査を懼れる必要はそれほどないと踏んでいた。問題なのは、個人的に何時までも食い下がって調べまわられることだ。内田由紀ならそれをやりかねない。我々に辿り着けるかどうかという高いハードルがあったにせよだ。
 それで、元々、自由の身にしないで始末したほうが安全だろうかと思案も実はしていたのだ。

 男に取ってみれば、手下による殺害は事故ではあったが、渡りに船という思いもあったのだ。それで、拉致、監禁、陵辱、殺害、遺棄というシナリオを組んだのだった。問題は死体の性器の中に適量の精液を残せなかったことだ。男に処理させる時に、最後に性交を強要してみたが、無理だった。いかに変態性欲傾向が強くても、死姦となると、そこまで出来るつわものはそうは居ない。あの男の場合も、自分が誤って殺めてしまったという思いだけで、もう死体を目にして勃起は不能になってしまっていた。
 死体処理は腐乱もあり、遅くなればなるほど証拠を残すことに繋がりかねず、それ以上の細工は断念したのだった。
 幸い、警察は、最終的に性交に及んでいないことを問題視している風はなさそうだった。新聞記事でも性的暴行の上、殺害と公式発表になっていた。おそらく、性行為に及ぼうとして最終的に拒まれ激しく抵抗された為に、ことに及ぶまで至ることが出来ずに殺害することになってしまったのだと判断したのだろう。
 ただ、男には、そう楽観視してしまっていいのか、不安な部分もあった。
 (三日間もあの空手の達人を拘束しているのに、性交にまでは及べなかったということを本当に信じてしまう人間ばかりだろうか。
 一番心配なのは、あの獲物を提供している者と、提供されている者の二種類の人間が存在するということを嗅ぎ付けられることだ。提供される側の人間から捜査をアプローチされるのが一番拙いことだった。彼らは、無神経で、注意足らずで、証拠を残し易い。秘密の閉ざされた組織での公募だし、会員に引き入れるには厳重な事前調査を怠り無くしている。それでも奴等は所詮は素人なのだ。)
 男に不安材料は消えることはない。

 (三人のスタッフからの連絡を受け、あの山中に待機させておいて、しくじった客を全て送り届けてから、あの小男に死姦を命じたのだった。しかし小男のモノはもはや役に立たない。残りの二人に命じて、手淫で射精をさせ、由紀の身体に降り掛けさせるのが精一杯だった。それから、スタッフを別に帰して、死体処理は自分の手で行うことにしたのだった。
 死体処理が一番証拠を残し易い難しい作業だからだ。

 その点では、今回は上手くいったようだった。死体発見は思いのほか早かったが、想定外というほどではない。現場には遺留品も、殺害に使われた凶器も全く証拠になるものは残していない。客の精液も死体には付着していたようだが、そのDNA から身元が割れる心配は殆ど考えられないことだった。本人の自白でもない限り・・・。そもそもあの客三人は、殺害のほうには関わっていない。拉致、監禁にも関わっていないのだ。彼らがやったのは、不自由な身の被害者を追い回し、せいぜいが物理的な暴行を加えたに過ぎない。そんな客が自ら、関わっていたと申告する筈はないのだ。

 獲物が生きて社会に戻った場合、仕損なった客が自力で獲物となった女を探し出して、自ら暴行に走るという危険も考慮しなければならない。特に今回のように、相手が全日本の優勝者という探し出し易い立場の人間の場合はそうだ。
 しかし、それも死体となってしまった以上は、そんなことを危惧する心配は無くなってしまったとも言えた。リベンジに燃えても、その同じ相手はこの世には居ないのだから。

 あの客たちには、もう少しハードルの低い獲物で狩りを成功させることで満足してもらうしかあるまい。それにしてもその実施はもう少し期間を置いてからのほうが安全そうだ。)

 そんなことを、繰り返し、繰り返し、考えている日々が続いていた。


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