妄想小説
牝豚狩り
第四章 冴子の捜査開始
その11
事務所に戻った冴子は早速、一台の空のパソコンを用意させる。医者が持っていたものと同一機種である。そこへ、極力医者の家と同じ状態になるように、盗み取ってきたフラッシュメモリの中身をパソコンのハードディスクのほうへ戻し、設定を再現していく。
用意が出来たところで、まず電子メールから調べ始めた。送信メールは殆ど無い。医療関係のものもないことから、普段仕事などに使うパソコンは別の部屋に別のものを用意しているらしかった。不用意に家政婦が見たりしないように専用のものを鍵のかかる部屋に置いているようだ。受信メールは定期的に月末に入っている。それらを開いてみると、殆ど文章は無く、ただ、インターネットのサイトのアドレスともいえるURL と呼ばれる文字列だけが記されているだけだった。
他の月のメールも見てみると、毎回、異なったサイトになっている。試しに自分用のパソコンでそのURL のサイトを開いてみようとしたが、既に削除されたサイトだった。
幾つか試してみたが、どれも今は存在しない。冴子は犯人の巧妙さにあらためて感心する。毎回、情報を得られるサイトをどんどん入れ替えているのだ。客は月一回送られてくる配信データを元に新しいホームページを開いて欲しい情報を手にする。客が見切ったと思われる頃合を見計らって、そのページを削除してしまうのだろう。そのページもおそらくコピーが出来ない細工がしてある筈だ。
(それならば、このメールを配信してくるアドレスも毎回替えてきているのだろう。)
そう思いながら、冴子がチェックしてみると、確かに毎回送り手のアドレスは変わっている。ホットメールという、使っているプロバイダとは別に臨時に取れるアドレスから送られている。海外の出張先のホテルなどから送るのに使ったりする為のものだ。インターネット喫茶などでも利用出来るもので、追跡は殆ど不可能に近い。
メールが配信されている日付と、この医者に辿り着いた銀行口座の記録とを照合してみると、金が振り込まれ、引き出された直後にメール配信がされている。やはり、ATM への振込みは、犯人首謀者への会員料金なのだった。
冴子は、今度はハードディスクの中を、この送られてくるURL からダウンロードしたとおぼしきページのファイルを探す。しかし、見つかったのは、冴子の想像していたものとは少し異なっていた。冴子は、彼らが「牝豚狩り」と称するイベントの公募のサイトを予想していたのだ。しかし、それらしきものはなかなか見つからない。出てくるのは、延々と続く書き込みをされたBBSと呼ばれる掲示板ばかりであった。
その掲示板もこの牝豚狩りに関するものではあった。
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牝豚●●●狩猟記録
1 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 13:20 ID:tBbs/4BZ
まず、報告します。牝豚●●●をゲットしたのは私でーす。
2 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 13:28 ID:ons3PIXi
おっ、早く詳細聞かせロー!!!
3 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 13:29 ID:ons3PIXi
本当にあの●●●、やっちゃったのー
4 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 13:37 ID:xVRfIWUc
へっへっへっ
5 名前: ふう。。。 投稿日: 02/03/30 13:42 ID:WR9oN4vf
うっさいハ・・・も、いいや。
6 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 13:54 ID:ons3PIXi
・・
7 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 13:54 ID:0jrJjETk
●●バージソだろ?あの顔、そんな感じやった
けんバージソはいいなあ。
8 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 14:01 ID:ons3PIXi
・・・・
9 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 14:02 ID:RX+cBYgP
俺はジジイだからもっと年増の●●●が良かったな
10 名前: 名無しより愛をこめて 投稿日: 02/03/30 14:04 ID:1zd8+311
やっぱ牝豚は若い●●●に限るって
11 名前: 改造たろー 投稿日: 02/03/30 14:13 ID:NfQrDJ1Q
あの●●●、そそったなー・・・
同じような記載は延々と続いていた。事情を知らないと何を延々記載しているのか判らない様な内容だ。事実、内容らしい内容のない書き込みも多かった。しかし、冴子はその当事者だったのだ。この不特定多数の人間たちが何を話題にしているのかはすぐにピンときた。
何かの事柄や人物の特定が出来そうな言葉になると、うまく伏字がされている。おそらくサイトの管理者が検閲をして操作していることが覗われる。読んでいる会員には、伏字があっても事情が飲み込めるらしかった。この延々としたブログは、牝豚狩りというイベントを会員の間で盛り上げる為に使われているようだ。内容も空想のものか、現実のものか、どちらとも判断がつかないようなものになっている。おそらく証拠能力がないと見て、ダウンロードを可としているのだろう。しかし、閲覧が許されるのは、この手の結果報告のブログだけではない筈だ。
冴子はハードディスクに乱雑に配置されたフォルダの山を探っていった。そして見つけたのは、デジカメなどで撮られたJPEGという形式の画像ファイルだった。
デジカメ写真として映っていたのは、パソコン本体の画面だった。会員の一人である医者が自分のパソコン画面そのものを撮影したもののようだった。パソコンの画面を撮ったものだけに不鮮明ではあったが、中央付近に女性の顔写真と、全身を写したものが並べて貼られている。女性のプロフィールらしきところは文字フォントが小さすぎて、読み取りきれない。上のほうの表題らしきものは、フォントが大きいので何とか読める。「今回の公開ビッド!!!」とそこには書かれてあった。
(これだ。)
冴子は、この客である医者が、自分が欲しいページがダウンロード出来ないので、何とかそれを残したいと思って、画面をデジカメで撮って残したのだと推理した。
実は、画面表示されたものは、Windows 系のOS ならば、キーの中にあるPrint screen という機能で画面コピーを撮ることが出来る。ただ、パソコンを使い慣れていないこの医師はそういう機能があることを知らなかったのだろう。
月々の配信されてくるメールに案内されているURL で見ることの出来るホームページは少なくとも、会員間で書き込みがされる掲示板と、この手のイベントの参加募集があることが判った。
参加募集に「ビッド」という言葉があることから、狩りへの参加資格を競りで決めるらしいことが判る。巧妙な仕組みだった。冴子はダウンロードされていた他のブログも調べてみる。
ダウンロード可能なブログのページは、狩りのイベント前の募集に関するやり取りや、イベント開催後の報告などがある。いずれも自分たちでこのイベントを妄想し、盛り立てているものだった。
ふと思い立って、デジカメで撮られた参加募集のホームページが撮影された日と、医者の口座の一度だけ三千万円が振り込まれた時期を照合してみる。冴子が推理した通り、データのプロパティと呼ばれる作成記録によると、撮影日は、金が振り込まれる数日前になっている。この事は、画面にあった少女と、あの医師との何らかの関係を暗示していた。
(いずれは、この医師の冒したと思われる犯罪についても追求しなければならない。しかし、今はこのイベントの首謀者に接近することのほうが重要だ。客の一人を追及したところで、関わった全貌を捕らえることは出来ない。むしろ、殆どの関係者を逃してしまう危険の方が高い。)
冴子はそう判断し、暫くこの医者を泳がせて置こうと決心していた。
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