秘書電話4

妄想小説

牝豚狩り



第四章 冴子の捜査開始

  その12


 同じ頃、男のほうもパソコンに向かっていた。冴子を逃してしまって以来、イベントの開催は直ぐには難しくなってきていた。今、動き回るのは危険性が高い。しかし、音沙汰が無くなってしまっては、客のほうが冷めてしまう。その為に客の間で書き込みが出来る掲示板も合わせて運営しているのだ。それにもかなり手が掛かる。客が書き込んだもの、そのものを掲載してしまうと、証拠として残ったり、万が一警察の手に渡った時には、捜査の手掛かりになってしまう危険性があるのだ。それで、書き込まれたものをチェックし、問題ないものだけを選んで載せ、一部は伏字にする。
 サイトの場を盛り上げるために、会員を装って書き込みを偽装し、会員たちの話題を誘導することもある。しかし、これにも限度がある。書かれた内容は、書き込んだ本人には本当のことが判るので、改竄は出来ない。出来るのは、実在しない会員を装うだけなのだ。
 イベントは三ヶ月おきぐらいには開催している。そうでないと、掲示板の書き込みだけでは内容が陳腐化してしまい、客を惹き付けておけなくなるからだ。

 逃してしまった冴子の時は、イベント参加者はことごとく処分してしまった。イベントが無かったことにしてしまう訳には行かないし、参加者は全て殺害されているなどとは会員に悟られてはならない。自分が三人の参加者になりすまして、何とか繕ったのだった。そのせいか、掲示板サイトは今回に限っては盛り上がりに欠けていた。どうしても架空の話しでは、表現のひとつひとつに信憑性を欠いたり、緊迫感を欠いてしまうのかもしれないと男は考えていた。

 (こんなことが続けば、大事な客も離れていってしまうかもしれない。)
 男は既にもうそんなところまで心配を始めていた。

「牝豚狩り」の掲示板サイトは、振込み指定日から三日間だけオープンにしている。その間に客は、予め指定されたパスワードで、電子メールによって知らされる新たな更新サイトにアクセスし、他の客からの書き込みを読み、自らも書き込みをして興奮を盛り上げるのである。
 書き込みは、そのまま掲載すると人物特定などに繋り、後に証拠となってしまう懼れもあるので、全て男が目を通し、拙い箇所があれば、削除するか伏字にしている。この辺は顧客にも徹底しているので、今では馴染みの顧客は、現実の名前や場所など不用意な固有名詞などは使わないし、自ら伏字で書き込みをしてくる場合も多い。しかし、それでもつい興奮して、書いてしまう顧客も出てくるので、この三日間は男にとってはとても忙しい。しかし、顧客は一般のネットオタクという訳ではないので、四六時中パソコンに向かっている訳ではないことが、ひとつの気休めではあった。
 顧客の中には、まだ一度も実際の狩りに参加したことがない者も居る。参加していないほうが多いというのが、本当のところだ。会員数も会員たちにさえ公表していない。判るのは書き込みをする時のハンドルネームぐらいだ。
 狩りに参加した経験の無い者たちは、この掲示板の書き込み記事から、行われていることに想像を逞しくしているだけだ。中には本当に狩りは行われているのか、半信半疑の者も居なくはない。しかし、それでもこの異様な雰囲気のサイトをそれなりには楽しんでいるのだ。

 冴子の狩りの時は、男が三人の客の体験記を代弁し、結局は誰一人、獲物の捕獲に成功しなかったことにしていた。冴子のような高等な訓練を受けた獲物はそうそう見つからないし、見つかってもそう簡単には拉致、監禁出来ない。だからそう易々と客たちが捕獲できるものとされてしまっては困るのだった。男の作戦としては、前回の狩りはハードルを高くし過ぎたので、もう少しハードルの適正な企画を次回のために用意するというアナウンスをする予定だった。3件続いた現職警察官の狩りで、ちょっとエスカレートし過ぎてしまったと反省もしていた。
 内田由紀の時でさえ、かなり危ない橋だったのだ。国仲良子ぐらいが素人向けの狩りには適当だったのかもしれないと考え直し始めていた。

 それに、逃がしてしまった冴子が、その後どういう捜査や活動をしているか判らなかった。特殊捜査官なので、外部からその様子を窺ったりすることが殆ど不可能だ。居場所さえつかめない。
 (ここ暫くは、現職警察官の線は避けておくに越したことはないだろう。)
 そう思いながらも、客たちの征服欲を刺激する新たなターゲットをどうやって見つけたものか、男は思案を続けていた。


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