秘書電話4

妄想小説

牝豚狩り



第四章 冴子の捜査開始

  その2


 冴子は自分の非番の時を利用して、関係者を丹念に当たった。発見された現場にも赴いてみた。が、冴子にも何も発見できなかった。何も発見できなかったことが、却って、この場所は最後の遺棄以外には使われていないことを匂わせているような気がするのだった。

 そうして行き詰まったある日、捜査に協力して貰った当時の大会主催者の一人から、電話を受け取ったのだ。事件当時、タイの大会に行っていて、最後の内田の消息であるメールを受け取った人物が日本へ一時帰国するというのだった。早速、冴子は面会を申し入れた。

 「もう一度繰り返しますが、こういうことですね。実際の公表と、連絡を受けた内容は異なると。日本の所轄の責任者らしき人物が明かしたのは、HIV 感染の疑いがあるので入院して参加出来ないと。そしてそれを内密にしてほしいと。向こうから連絡があるまでは、問い合わせは何もするな、そして、その後連絡は一切無かったということ。そうですね。」
 「その通りです。あの後、少ししてから日本での事件を知ったのです。それでいずれは、その事を伝えなくてはと思っておったのです。しかし、私も海外の競技会の運営などを掛け持ちしておりまして、なかなか日本へ戻るチャンスが無かったものですから。」
 海外の競技会運営を長年勤めているというその初老の紳士は、申し訳なさそうに冴子に説明をしていた。
 「このことは、暫く他の捜査官には内密にしておいて貰えないでしょうか。実は、ここだけの話ですが、警察内部に内通者が居る可能性もまだ否定できないのです。なにせ、警察官が殺害された事件ですので。」
 冴子は出任せを言った。捜査本部はもうとっくに解散している。何せ捜査を進めようにも手掛かりとなる物的証拠が何一つ見つかっていない。しかも被害者は捜査にあたるべき側の警察官一人だけである。遺族である郷里の親元からは勿論捜査願いも出されている。が、警察としては、未解決事件を大量の人員を投じていつまでも抱えていることが出来ない。しかも、同じ未解決事件の捜査でも、一般民間人が被害者の場合を優先せざるを得ないのだ。郷里の親元も退役した元警察官であり、その辺の事情は理解しているようだった。
 冴子が話を伏せさせたのは、ちゃんとした捜査陣も無い中で、新たな情報が出てくると、そのままマスコミに流れ、犯人のほうへ筒抜けになってしまうことを畏れたからだった。

 その後、密かに冴子はこの老紳士から、送られてきた電子メールを転送して貰っている。
 「アジア大会遠征隊事務局荒木殿御中

 こちら女子空手の部で遠征を予定しておりました、内田由紀の所轄の者です。突然のことですが、出発前に急に内田が体調を崩し、入院しております。実は緊急検査の結果で、HIVウィルス感染の疑いが発覚しております。完全な確定の為には尚精密な検査が必要で時間が掛かると思われます。今回の出場に関しましては辞退ということで処理をお願いいたします。尚、病気が病気だけに、内密に事を進める必要があり、公表は現地でのインフルエンザ罹患による体調不良ということにして頂ければと考えて居ります。また、情報が誤って広まるのを防止する為に、こちらへの問い合わせ等は、こちらが詳細結果を連絡するまではお控えくださるように重ね重ねお願いもうしあげます。・・・」
 明らかに数日間の失踪中に捜索をさせない為の偽装工作である。冴子は自分を襲った犯人と同一である確信をますます深めていた。
 メールの発信場所の特定は、冴子の勤める特殊部隊のさるチームに頼めば、ある程度は割り出すことは出来た。しかし、その結果は、都内のインターネット喫茶であることが確かめられただけで、人物の特定には繋げることは出来なかった。またしても、そこで捜査の糸はぷつんと途絶えてしまったのだ。


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