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妄想小説

牝豚狩り



第二章 半年前

  その7


 良子のプロフィールと写真は、すぐに全国の契約クライアントに配信された。メール配信されるのは、しょっちゅう変更しているインターネットのサイトのアドレスとなるURLだ。クライアントがそこへアクセスすると、つぎのイベントのターゲットが提示される。プロフィールに写真付だ。客は、それを観て、参加料として払える金額を提示する。契約は完全ビッド制で、最高額から三人目までが参加出来る。参加枠を三人に絞っているのは、お互いのトラブルをなくすこと、お互いの目撃情報を極力減らす為だ。参加人数は、多いほうが収入は多くなるが、危険性は増す。収入を増すには、参加人数を増やすよりは、ビッドをせり上げるほうがむしろ効率的だ。その為にもあと一歩で成功できたと思わせる人数でなければならない。リピーターは必ず次にはより高い値をつけてくるからだ。リピーターが多いほど、安全だ。事件への関与がより深まるほうが、お客の犯罪加担性が高くなり、情報が漏れる危険性がそれだけ減少するのだ。
 リピーターを増やし、ビッド額を吊り上げるためには、お客のリクエストにも答えなければならない。か弱い女性は、初心者にはいいが、リピーターはすぐ厭きる。このところ多くなってきたリクエストは、現職の婦人警察官だ。男は誰でも、婦人警官を相手にしたがる。コスプレでも警察官は人気があるが、それならば、ナースでもチアリーダーでもいいのだ。しかし、狩猟のターゲットとなると、コスプレとはジャンルが違ってくる。とくにこのようなハンティングゲームのリピーターとなると、よりハードルの高いターゲットを試してみたくなるようだった。
 状況設定は、ターゲットと参加者のレベルによって決めている。初心者でも、ターゲットが素人の小娘ならば、そのまま自由に放ってもゲームとして成立する。
 しかし、現職婦人警官ともなると、事情は異なってくる。素人では失敗する可能性も高い。一番困るのが、全員が捕獲に失敗した場合だ。その時は主催者側で、ターゲット狩りを後始末としてしなければならなくなるので、手間が余計に掛かってしまうからだ。しかし、ターゲットのハードルを低くしすぎると、客の不満が出る。不満はリピーターの減少に繋がるという訳だ。
 (今回のあの女の場合、あまり戦闘的ではないと思ったが、やらせればそれなりの腕は見せてくれそうだ。素人の初心者では素手で戦わせるのは無理かもしれない。前手錠ぐらいは必要かもしれない。中級者ならば・・・。まあ、それは今回の応募者と、ビッドの額をみてからゆっくり決めてもいいだろう。まだ時間はある・・・。)

 監禁されて、三日目にその日がやってきた。勿論、良子はまだ何も知らない。ただ、何となく今までと違う雰囲気は感じていた。食事の後、何故だかお腹が重かった。排泄はさすがに大のほうはしていない。が、もう限界かもしれないと思っていた。
 そんな思いを見透かしたかのように、食後に男がやってきて、おまるの中を覗いてから言い放ったのだ。
 「そろそろ、今のうちに大便も出しておけよ。うまく出ないといけないと思って、朝食には下剤も入れておいてやったから。」
 こともなげにそう言い放って去っていってしまった。良子は男を恨むように睨みつけながら見送ったが、食後から腹が痛くなってきた理由をようやく呑み込んだ。
 我慢はしきれるものではなかった。後の処理をあの娘にしてもらわなければならないのかと思うと、気が遠くなりそうだった。が、だからと言って、腹がごろごろしだすのをどうにも出来なかった。

 娘がいつものようにやってきた時、まだ良子はおまるに跨ったままだった。動くことが出来なかったのだ。娘は全て心得ているという風だった。後ろ手に繋がれている背中をそっと前に押し倒して、良子に尻を上げさせた。監禁されてからの一番の屈辱だった。
 尻を清めて、後始末をした後、良子は洗面器に入れて持ってこられた湯とタオルを使って身体じゅうを綺麗に拭き清められた。制服の上着も、手錠の為に外すことまでは出来なかったが、ボタンを全て外されて手首のほうまで脱がされてから、乳房の下や腋の下まで綺麗に三日間の汗を拭われた。それから、ここへ連れこまれてから初めて下着を着けさせられた。パンティも三日前に良子が穿いていたものらしかったが、これも綺麗に洗濯がしてあった。ブラジャーは後ろ手錠なので、わざわざ肩ストラップが一旦外されてから装着させられた。そして制服が元通り着せられ、今度はミニスカートにされてしまったスカートも娘に穿かされた。来た時と違うのは、スカートの丈と、ストッキングの無い生脚のままだったことぐらいだろうか。
 制服を身に着け終わると、今度は娘が化粧道具を持ってきて、念入りに化粧を始めた。髪も綺麗に梳かしなおされた。
 すっかり身支度が整ったところで男がやってきた。(何処かへ連れ出されるのだ)と直感的に感じた。
 男は一旦ハンカチを良子に咥えさせてから手拭いで猿轡をして声を上げられないようにした。その上で頭をすっぽり包む袋を被せられ、首のところになる袋の口を閉める紐で外れないようにすぼめられた。最後におそらく良子を拉致して来た時に使ったらしい、身体全体を包み込む大きな布袋に身体ごといれられ、その口も閉じられた。

 肩に担がれたと思ったが、もう良子はじたばたしなかった。暴れたところで、男に取って、良子を拉致した時と同じように気絶させるぐらい何の雑作もないことだろうからだ。もう運を天にまかせて為すがままにされることにしたのだった。

 良子は車のトランクのような場所へ投げ込まれ、来た時と同じようにずっと揺られることになった。来た時と違うのは、ずっと意識があることだが、どちらにどのように向っているのかは全く見当がつかなかった。判るのは時の流れだけだが、それも時計がある訳ではない。袋に包まれた真っ暗闇は、時間の感覚さえも麻痺させるようだった。

 この回のビッドは、初めての現職婦人警官ということもあって、人気が沸騰した。応募者の名前はふせて、ビッドの最高位だけを提示したが、次から次へビッドは競りあがっていった。最終的に設定した打ち切り時間に競り落としたのは、リピーターではあったが、何度も他の参加者に獲物を浚われて口惜しい思いをしていた、サングラスの男からすれば、「初級コース」の部類に入る三人だった。合気道の腕は試してみたが、脚力については調べてみた訳ではない。が、それほど運動能力は高くはなさそうだった。
 男は今回は、足枷は無しで、後ろ手錠だけにすることにした。前手錠に戻すことをさせない、首輪との接合は今回は要らないだろうと判断した。
 (多少は獲物にも反撃のチャンスをやらないと、ゲームとしての面白みも失せてしまうだろう。ゲームセットの時刻も、初級コースだから夜間は無理で、夕刻までとしよう。)
 男は次々に舞台設定を定め、企画案を練ると、説明書を送る準備を始めたのだった。

 あらかじめ指定しておいた場所で今回のアシスタントと落ち合うと、車を交換する。現場での獲物の扱いは、いつもアシスタントにやらせることにしている。これは万が一を考えてのことだ。自分はいつも、お客の送り迎えのほうに専念する。獲物、アシスタント、お客のなかでは、お客が一番大切だ。何せ大事な金蔓なのだ。不用意にアシスタントにお客と接する機会を与えないことも重要なのだ。なにせ、獲物と違って、無事に送り届けねばならない。

 アシスタントに車の中で今回の要領の確認をする。ひとつ間違えば命取りになりかねない失敗を招く。だからと言って、証拠になるような指示書などは残せない。男はアシスタントになる男たちの中のリーダー格に要領を口頭で諳んじさせた。

 「現場に到着したら、まずいつものように、<牝豚>となって貰う獲物に首輪を嵌める。今回は後ろ手錠と繋がないので、外せないように鍵付のものを使う。」
 これは、特殊な臭いのする薬剤が滲みこませてあるもので、万が一、客の誰もが時間までに獲物を捕えられなかった場合に狩猟犬を使って追跡させる為だ。
 (こんな事態にはなりたくないが、ぎりぎりの設定にしなければ、客の興味を継続できない。)
 「首に嵌めた首輪に縄を通して樹から吊るし、逃げられないようにして客の到着を待つ。その間に武器を並べておく。こんなところですかね。」
 「ふむ。まあ、いいだろう。じゃあ、現地で待ってくれ。」
 男はアシスタント達と別れて、客を迎えに指定の駅へ向う。

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